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出発―家の外へ―

とりあえず。


「じゃあ、まずあなたの止血しちゃいましょう」

「止血?」

「白無垢さん。ちょっといですか?」

「へぇ」

「いや、ちょっとまてッ・・・・!?」


 ギュウッとね。しばってやったんですよ。

 来客用の布団のシーツを白無垢の膂力でもって、尾の切断面を止血。

 シーツを持ってくる際、散乱した俺の荷物を目にし、軽く虚脱感に襲われた。

 今にして思えば巻き込まれてないわけがない。

 咄嗟に腕でかばってたから、その惨状を直接みてなかった。


 おーけー。おーけー。


大御神(おおみかみ)ッ! どうか奏上をっ…!?」


 薙ぎ払われた枝や、垣根の建材からまっすぐなものを選び、

 へし曲がった腕の添え木にしてやる。

 もちろん白無垢の膂力で、しっかりと。


 すっごく、睨まれた。

 いや、だって、のんびりしててもいいことないでしょ?

 俺は第一村人に二度と会いたくない。


 「ははは」


 かるく、首肯し謝意をしめす。

 苦笑いという、大人の仮面もわすれない。


 着替えを何着かと、食料。箸など最低限の食器類と調理器具を、

 持ってきていた中学時代の通学カバンに詰め込む。

 なぜか学ランもあったので、丈夫そうだしジャージからの上から着込んでおいた。

 つ、いでに、靴も運動靴へ履きかえる。


 あと、川と聞いて、即座にロッドケースとその他釣り具をまとめた。

 ミニガスバーナーやランタン型ライトも、もちろんこれらに含まれる。


 護身用に寸寸梵論も一緒にロッドケースへ入れる。あたりまえだけど抜き身ではない。

 添え木に集めといた真直ぐな建材に断面から差し込むと、

 ケーキにフォークを指すように建材をさし貫いていった。

 貫通しないよう柄より広くなるよう柄にテープを巻き、即席の鞘に収まっている。


 マジで切れ味がやばい。かすっただけで指とぶんじゃないかな?

 包丁としては過分なスペックだろうに。いいかえれば、対龍用の切れ味ともいえる。


 つぎつぎと雪をかぶったダンボールを開け、漁っていくと、


 ん? あった~…かな?


 準備中、見覚えのないダンボール箱を見つけたので開封してみる。


 中には女性ものの下着類や衣服がはいっていた。それは見覚えのあるもの。


 姉ちゃんのだった……。


 お世話になってたとか下世話な話はない。

 だらしない格好でうろつんくんだよ。あの姉は。


 見なかったことにしよう。考えたくない。

 白無垢が俺の苦虫を噛みつぶしたような顔を目ざとく見つけ、

 段ボールを覗き込まれた。


「これは、なんどすか?」


 一枚の白い布を取り上げ、その精緻な装飾に関心を示しす。

 白無垢を好んで着ているようだし、白地のものが好きなのかもしれない。


「あぁ、いえ。なんでもないです。箱に戻しておいてください」


 そういうと、まだ気なる事がある、といいたげな表情でしまい戻す。


「あ、そうどす」


 いやな、予感がする。

 俺からランタン型ライトを借りると倒壊した垣根の奥へ楚々と歩いていき、

 ぬれた圧縮袋を抱えてきた。


「これやすっ」


 と、言いながら俺の前に持ってくる。


「おいていきましょう」


 有無を言わさず白無垢に告げる。


「でも……」


 本人の前でよくもってこれるな。

 自分のちぎれた腕を名残をしそうに抱く女性を前にしたら、

 おれなら失神する自信がある。


「なんだ?」


 あぁあ、関心もちゃった。

 これは見せられない。

 なんて言い訳したらいいかわからない。


「白無k『これどす』」


 おい。

 みせちゃったよ。

 絵を描いた画用紙を広げるように龍に可愛く掲げる。


 スゥ、と頭を引き目を瞑る龍。

 なにか分かったんだろう。

 すっごい、猟奇的。


「我の尾か……」


「……信じてもらえないかもしれませんが。あなたが放り込まれる前に尾が先に投げ込まれていたんです。食量になればなぁ、と……」

 「いや、かまわない。我が死ねばいずれは理の円環に帰っていくだけだ。先んじて大御神の身に還ることになんら思うとことろなはい。むしろ、大御神のもとにあれば、巡ってかのもの達の身のたすけになろう」


 そいうことらしい。

 よくないけど。よかった。

 白無垢はその見た目通り、無垢なのだろうか?

 協力をしていく前に、子供の面倒を見なきゃいけないかもしれない。


「……一つ持参するといい」


 龍は積極的に役立てようとしている。

 という建前の元、それでしばらく白無垢の目をそらしておきたい。って本音がかいまみえる。

 もちろん、それだけじゃなく、不老不死がなんとやらと、言っていたし。

 匿うもの達に何かあれば、効用があるかもしれないしな。

 

 すると、さっそく。

 我が意をえたりとばかりに、刺身様に切ったサクを圧縮袋からとりだし、

 桃を詰めていた木箱に丁寧に並べていく。

 シーツで木箱を包むと、胸の前で端を縛り、背負う白無垢。

 お弁当を持たされた小動物のようにルンルンである。

 赤い風呂敷は綺麗に折りたたむと、懐にしまい、藤色の風呂敷包みは手にもつようだ……。


 やっぱ、大事なものなのかなぁ、あれ。


 てかそんなに、龍っておいしいのかな?

 白無垢があれほど関心もつ理由がわからない。


 何はともあれ、匿うもの達がいる川に向かく準備ができた。


 頂のおかげかいち早く日の出をおがめるようで。

 てんやわんやしていると、おそらく朝日があるだろう彼方(かなた)がぼんやりと明らむ。


 ちゃんと、太陽があることに安心した。朝はまだ先になるんだろうけど。

 

 追手や第一村人、といった懸念があるなか、夜陰に紛れての移動になる。

 ライトはかえって目立つだろから慎重に行動する必要がでてくる。

 龍のおかげで厳寒を完全無効化してくれたので、徒歩移動による体力の消耗が問題だ。


 と、口で言うのは簡単なんだけどね。


 龍との交換条件がなければ追手という、なにやら物騒な連中の情報を接触前に手にすることはできなかった。

 知らずに食料探索に出向いてたら……、なんて可能性もあったってことだ。


 追手と地理を知り、食料確保ができる場所まで運んでくれる。

 結果的に物事が順調に進んでいるのだが、ここに匿う者達。

 これは龍だよりだ。もし、があれば白無垢に頼らざる得ない。

 その後のどうするのか?という問題もある。


 追手のことに俺が気を回しても何もできそうにないけど、

 一応、気を引き締めとく。


「……では、案内お願いします」

「承知。我の背に乗るといい」


 ふわっと、蜷局を巻くように浮かび上がると、

 俺たちが乗りやすいよう低く頭をかがめてくれた。


 飛べるんだ……。

 翼もないのに、飛ぶって形容していのか分かんないけど。

 まぁ、こんな感じの世界だった。


 白無垢は龍というものを知っているようなのでいつも通りニコニコしている。

 軽快に歩み寄ると、気軽にベンチに腰掛ける様に龍の首に座った。

 

「さぁ、お前様も」


 そういって手を差し伸べてくれた。


 自然と、なんの警戒もせずに白無垢の前にまたがって座る。

 すると、後ろから腰に手を回されギュッとされる。


 ……ファッ!?


 ビクッと、心臓が跳ねる。見下ろすと藤色の風呂敷包みを持つ白無垢の手が見える。

 とうとう、藤色の風呂包みが今世紀最大に近い場所にある。

 大丈夫。コンニチハ、していない。


「……風呂敷包みカバンに入れましょうか?」

「ほんに? ほな御預けしやす。」


 風呂敷包みを受け取り、カバンに入れてやる。

 目の届くところにあると怖いので申し出ててみた。


「おおきに」


 と、風呂敷包がなくなった分、手を回されると距離が近くなった気がする。

 正直、ドキドキである。

 他人との接触事態ないのに、もうどうしたらいいかわからん。


 ……まぁ、こうなるよね。このほうが安全に飛べると思う。

 なにより、俺より白無垢のほうが背が高いのだ。

 おさまりが良い。


「髪がふわふわおすなぁ」


 とくすぐったそうに言うので身をかがめてやる。


 「では、飛ぶぞ」


 暗夜を不安定な龍に乗るのが怖いので、

 即席で紐で下げるようにし、ランタン型ライトを首からかけてある。

 カバンは角に掛けさせてもらった。


 よしッ! 準備はできた。


 「お願いします」


 徒歩で移動すると思っていた俺。


 異世界に来て、以前の常識で物事を組み立てても、

 あっという間に崩れていくことに頭が空っぽになりそうだった。


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