決戦前の、ひと悶着
遅れてごめんなさい。
何とか書けました。
誤字脱字、アドバイスなど、随時募集してます。
「うぇ、何この嫌なカンジ……」
「少し息苦しいね……」
アルシオンさんの地獄の結界から出た『私たち』は、以前とは違う空気を感じて顔をしかめる。
「まあ、あれから『二年』経ってるからな」
「そうだよね……あれ?あそこでの二年って、何日になるんだろう?」
「聞いて驚け、なんと半日だ」
「「「「…………」」」」
開いた口が塞がらないとはこの事だ。
「あ!てことは他の皆より二年もお姉さんになったってこと?」
「美紀ちゃん、お姉さんになったんじゃなくておばさんに近づいたんだよ」
「ちょっ!?明希ちゃん嫌なこと言わないでよぉー!!」
「元気だなお前ら。とりあえず、セドリック王国に行くぞ。もう事態は大きく動いている」
そう言ってアルシオンさんは軽く身体を動かしている。
どうやら準備運動をしているようだ。
「じゃ、お前ら早くこいよ。俺は先に行ってるからな。来なかったら……」
それだけ言い残すと、アルシオンさんはその場から消えてしまった。
「え?怖いっ!目が笑ってなかったって!!」
「拒否権はないって事でしょ。……転移で行けるかな?」
あれから様々な魔法を身に付け、長距離の転移が可能になるほど成長した。
まだ使ったことないけど。
「……駄目だぁ。二年もあんなところにいて記憶が薄くなってる……せめて何か感じることができれば」
「あ、それなら私がアルシオンさんの魔力を覚えてるし、私と『感覚共有』してアルシオンさんと場所に転移すればいいんじゃない?私の感知能力なら届くだろうし」
「安田さんに命を狙われたら誰も逃げられないな……」
多分この中で一番強くなっているのは安田さんだと思う。
あと井村さんもだいぶヤバい成長の仕方をしている。
戦略級の強力な魔法を同時展開して撃ってくる、悪夢以外の何物でもない。
私は……部位欠損の回復と一気に全回復できるようになった位かな。
広に至ってはもう鉄壁だ。
斬って蹴って殴って投げて、斬撃飛ばして宙を走って、途中から訳の分からない方向に成長し始めたけど、弱点だった機動力の無さが完全に補われる形で成長した。
実に頼りになる前衛である。
「あっ、見つけたよ。『感覚共有』するね」
「うわっ、こんな感じなんだ」
X,Y,Zの座標が見える立体地図が頭の中にそのまま入ってくる感じだ。
「……うん、行けそう。みんな手を繋いでね」
私、広、井村さん、安田さんの順に手を繋いだ。
「行くよー……『転移』」
森の中から四人の存在が完全に消え、静けさが戻って来た。
こうして、四人は無事に王国へと向かったのだった。
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side.アルシオン
「ここにくるのも久しぶりだな。先代国王の時に一回来たか」
もう二十年くらい前の話だ。
なんの用事でここに来たのかは忘れたが。
「止まれ!!」
城に入ろうとすると、城門に居た警備兵に止められる。
「待て待て、俺は許可を貰ってるぞ。ほれ」
「なっ!?それは、許可証?少し古びているが……偽物ではなさそうだ。お引き留めして申し訳ない」
「いやいや、アンタは当たり前のことをしただけだ。気にする必要はない」
軽く手を振って城にどうどうと入る。
持っててよかった。
因みに、俺はこの国以外の許可証もいくつか持っている。
超凄いんだぞ。
「…………」
勇者たちがいる訓練場に向かって歩く。
何事も無く訓練場に着くと、そこには知った顔がいくつか。
「お、正希!!久しぶりだな!!」
「ゲッ!?アルシオンさん!?あんた何で生きてッ!?」
「俺に寿命なんてものは存在しないんだよ。定命とはかけ離れた存在なの、わかった?」
「まぁ、アンタみたいな化け物なら長生きしてもおかしくないか」
「相変わらず失敬な奴だな」
……中途半端ではあるが、全員覚醒は終わってるのか。
ま、奴らと戦うには心もとないが、居ないよりまし程度にはなっただろう。
「あっ!あの時の冒険者さんだ!」
訓練場のどっかから、そんな声が聞こえる。
そうか、覚えてくれたいたのか。
そりゃよかった。
「ん?」
「アルシオンさんどうしたの?」
「いやぁ、何かに捕まった……というか、見られているような気がしてな」
十中八九アイツらだよな。
恐らく、あのヤスダちゃんの魔力感知だな。
ここまで届くのか……こわ。
「おい、追加で四人来るぞ」
「え?四人ってまさか」
「広たちか?」
「多分そうでしょうね」
お、こいつらはハッキリ覚えてるぞ。
メガネの槍持ってる方は、前にあった場所で指揮官みたいなことしてたな。
盾持ってる方は前線で皆を引っ張ってたっけな。
結構いい動きしてたのを覚えている。
なんて事を考えていると、目の前に大量の魔力が集まった。
「よし、ちゃんと来たな」
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「……懐かしいな」
「そうだね」
この世界に来てから数か月しか経っていないのに、私たち四人はその中で二年の年月をかけて鍛えたせいで、とてもこの場所が懐かしく感じる。
「お、お前ら……ホントに、広と、真宙か?」
「それに、安田さんと、井村さん。皆、かなり変わりましたね……驚きました」
遠藤と吉田だ。
「そういうお前らは全然変わってないな。まぁ、それが普通なのか」
「そうだね。こっちだけが時間たっちゃったわけだし」
「……真宙は女っぽくなったな」
「そうかな?特に意識してないけど」
「あれじゃねぇか?一人称が自然と『私』になったりとか、そういうのが変わったからじゃね?」
「あ~」
「いやぁ、それだけじゃないと思いますけど……」
まぁ確かに、性別が変わってから結構時間が経ったからか、細かい部分が変わっているかもしれない。
歩き方とか、仕草とか、喋り方とか。
心は外見に寄って行く、って聞いたことあるけど、本当にそうなのかもしれない。
「真宙ちゃんが広君と付き合い始めてからその兆候はあったよ?ね、明希ちゃん」
「そうだね。意識的な所が変わったからだと思うよ」
「……え?この二人付き合ってるの?」
「どこかで納得している自分が居ます……」
井村さん……そういうのさらっと言うよね。
まぁ言うつもりもなかったけど、同時に、隠すつもりもなかったし、別にいいんだけどね。
「おい、盛り上がってるとこ悪いが、もう時間がないんじゃないのか?さっさと散らばってる奴らを集合させろ」
「あ!そうでした。ありがとうございます。皆さん!!集まってください!!」
「なんで来たばっかのアルシオンさんが仕切ってんだよ」
「お前が何も言わないからだ」
アルシオンさんと見知らぬ人が親し気に話している。
友達なのかな?
遠藤の集合を聞いて、皆が集まる。
「……何も言ってないのに集合するのな。異世界人ってみんなそうなのか?」
「いや、俺たちの時はそんな事気にしてなかったし、この子たちが自然とやってるだけだと思うよ」
「こんなのを見せられたら国のお偉いさんビビるんじゃね?何て訓練された奴らなんだ!?って」
「同感だね」
まぁぐちゃぐちゃに並ぶよりも、こうして整列した方が話を聞きやすいしね。
因みに私たち四人は並んでいない。
地味に劉軌がちゃんと並んでいるのが驚きだけど。
「まず、知らない人もいるだろうから、僕から紹介させて貰います。以前、遠征に行ったメンバーは知っていると思うけど、その時に助けてもらったアルシオンさんです」
「よろしく。最傲とは……まぁ古いダチだ」
「腐れ縁だろ」
「次に……驚いてる人も多い、というか、みんなビックリしてると思いますけど……見た通り、四人が戻ってきてくれました。さっき少し話を聞きましたが、アルシオンさんが連れてきてくれたようです」
それには異議を申し立てたいが、空気を読んで大人しくしよう。
「話をちゃんと聞いていた人は理解していると思いますけど、僕たちが行った覚醒は、不完全な物です。確かに能力は底上げされましたが、厳しい戦いになる事は間違いないでしょう」
ん?覚醒?
さっき他所からチラチラ聞こえていたが、それがいまいち理解できない。
どういったモノなのかな?
「ですが、ここにいるアルシオンさん。更に、戻ってきた四人の仲間たち。話を聞けば……僕たちよりも強い様ですし、先ほどまでと比べ、いくらが状況は好転しました」
「ちょっと待てよ」
劉軌が遠藤の話を遮って、待ったをかける。
「その四人が、何だって?」
「ここにいる二人を除いて、誰よりも強いそうです。そうなんでしょう、最傲さん」
「あぁ、間違いない。アルシオンさんが何とかしたらしい」
「まあな。あの四人の内……そうだな、二人いれば、お前を倒すことお出来るんじゃないか?」
「うぅ、一応、先輩としての見栄も入ってると思うけど、確かに苦戦するだろうね」
あくまで負けるとは言わない最傲さん。
明らかに日本人の名前だし、先輩とも言っていたから、もしかしたら……
「……ふざけてんのか?何をしてきたか知らねぇが、不完全とは言え、覚醒までして、更にオリジナルスキルも手に入れた俺たちよりも強いだと?」
「僕も、それには同意するよ。ぽっと戻ってきたと思ったら、いきなり僕らより強いって言われても、納得しかねるね」
おっと、まさかのカイ君から劉軌への援護が入った。
「……そうね、私も同意しかねるわ。その四人が何をして来たか知らないけれど、私たちだって何もしていない訳じゃない。毎日毎日、積み重ねてきたモノが確かにある」
「二人までそんな事……」
「いいんじゃないのか?見てもいないのに納得できる奴なんていないだろ。これが普通だと、俺は思うね」
「アルシオンさん……」
「シオンでいいよ、長いだろ?俺もエンドウと呼ばせてもらうよ。でだ……模擬戦でもやればいいんじゃないか?その方が手っ取り早いだろ?」
「確かに、この纏まりのない状態では、これからの戦いに大きく影響しかねない」
「最傲さんも、しかし、そんな時間は」
「そん時は俺が何とかする。模擬戦の場所も俺が用意しよう」
うわぁ、ドンドン話が進んでいく……
こっちの意思は無視なの?
「ど、どうする?何だか変な方向に進んできてるけど」
「いいんじゃないか?俺たちなら負ける事は無いだろ」
「そうだよね~。それに、あの地獄みたいな時間を過ごしてきた私たちの力、ちゃんと分からせておいた方がいいって思うもん。だって悔しいじゃん、なめられてるのって」
「そうだよね美紀ちゃん。私も、馬鹿にされるのって好きじゃ無いなぁ」
な、何でみんな乗り気なの……え?おかしいのって私の方なの?
「……はぁ、分かりました。確かに、今後に影響しかねないのであれば、解決できることが望ましいです。では、模擬戦をしましょうか」
遠藤ぅぅぅうううう!!!!
もうちょい粘ってよぉぉおおお!!!!
いやまぁ、乗り気かどうかはともかく、仲間に対して疑問を持ってしまっている状況が不味い事だって言うのは分かる。
つまり……
「やるしかないのか……」
自分以外が乗り気になっている事に、少し疎外感を感じました まる




