勇者の覚醒
あかん。
前回の投稿から一か月経っちゃうところだった。
まだ一日あるからセーフセーフ……ごめんなさい。
side.アルシオン
「「「「…………」」」」
目の前に四人の男女が倒れている。
いろいろとボロボロだ。
回復が間に合わなかったんだろうなぁ。
ま、ヒーラーとしての技量が足りなかったんだろう。
そんな事より……
『外』から懐かしい力を感じる。
一つは……アイツか。
まだ生きていたとは、流石は神話の勇者だ。
もう一つ、これは……ずいぶん禍々しい力の集合体だな。
まぁ、十中八九『ルルイエ』だろう。
出てくるのが早すぎる気がするが、まぁアイツも出てきたみたいだし、もうしばらくは大丈夫だろう。
俺はこいつらを鍛えないとな。
魔の者、ルルイエに関してはこいつらには伏せておこう。
「おーい、いつまで寝ているつもりなんだ。また第一ウェーブからやり直しだ」
俺はそう言って、回復役であるマヒロちゃんを起こしてやる。
「う、うぅ……」
「ほら、仲間は君が起こすんだよ。ヒーラーでしょ?早くしないと魔物の群れが来ちゃうよ?みんな死んじゃうよ?」
「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……わかりました」
深く呼吸をしてからマヒロちゃんはそう答えて仲間達を回復していく。
まぁ素質はあるかな?
こういう時でも落ち着いて行動できるのはいい事だ。
焦りはミスを生むだけだからね。
緊張感はプラスになるけど、行き過ぎで焦りを感じるのは良くない事だ。
イレギュラーを呼び込みやすくなる。
その点に関しては、マヒロちゃんは中々分かっている。
だが彼女の職業は……本当に回復職なのか?
職業に関しては聞いていない。
この訓練では、俺がそれを知る必要はないからだ。
全員が大勢を立て直したと共に、魔物の群れが攻めてくる。
中には強力な個体も混じっている。
「お?懐かしいのが出てきたな。あれは『マーストン』か。こいつは強敵だぞ」
大きさは平均成人男性程度しかない。
ぱっと見では普通のスケルトンと変わらない外見だ。
だが……
「……ッ!?みんな!!あのスケルトンみたいな奴!保有してる魔力の量がおかしい!!多分今出てきてる魔物の中で一番強い!!」
「嘘だろ!?」
「へぇ~」
あの斥候職らしき少女、あれの存在にいち早く気付いたな。
魔力を感知できるのか、大体の魔力の量も分かる見たいだし、いい能力だね。
でも、ヤツの能力までは、流石に分からないか。
「くッ!!」
「安田さん!!『ハイ・ヒール』!!」
マヒロちゃんが、仲間の怪我に気付いて回復魔法を撃った。
しかし……
「え?」
「あ、あれ?魔法は発動したはずなのに、回復出来ない?」
「違う、あのスケルトンみたいなのが、魔法の魔力を吸い取って、回復魔法を消しちゃったみたい!!」
「つまり、あれを倒さないと……」
「私と、井村さんは何もできない……」
「……ヤバくない?」
「クッソォ!!何でこんなヤバいのばっかいるんだよ!!あの人いままでどんな生き方したらこんな化け物に出会うんだよ!!」
「広君、聞こえてると思うよ、それ……」
ハッハッハッ!!愉快愉快!!
まぁ、冗談はさておき……
ここは異界、俺の時魔法を使って作り出した『独立した時の概念』をもつ場所。
俺は空間魔法を使えるわけじゃないから、異空間を作る事は出来ない。
じゃあなぜ異空間が存在するのか。
この世界には異空間とは別に、異界という概念が存在する。
異界とは、世界の中にある何らかの『通常とは異なる力が働く場所』の事である。
別名、結界である。
異空間の様に別の世界にあるわけではない、というのがポイントだ。
で、そんな場所でこうして戦闘が繰り広げられているわけだが、ここで出てくる魔物は、過去に俺が倒したことのある魔物だ。
ま、下手獲物を探しながらレベリングするよりも、こうした方が圧倒的に効率がいいからね。
倒せるかどうかは知らないけど。
まぁ、倒せないと強くなれない訳だし、ね。
ちなみに、ここでは時間の進み方が外よりも早くなっている。
ここでの一日はあちらでの一分、思う存分鍛えられるという訳だ。
……俺はやったことないけどね。
これを作れるようになるころには、もうこれが必要ないくらい強くなっちゃってたからなぁ。
まぁこうして使う日が来たから良しとしよう。
「おぉおぉ、頑張ってるなぁ」
でも、マーストンはちょっとクセが強い。
アイツは特定の攻略法があるのだ。
「ん?……あ゛!!」
あんにゃろー、知ってやがったな。
マーストンの攻略法を。
マヒロちゃんが背後からマーストンを一突き。
しっかり弱点の核を狙ってる。
マーストンは物理防御が以上に強く、更に魔法は吸収するという凶悪な魔物だ。
おまけに動きも素早く、近接戦なんかまともにやりあうのは無謀、更に魔法まで扱える。
しかし、マーストンは背後からの攻撃に非常に弱く、更に、外部に魔力を放出する魔法以外吸収できない。
火の玉を飛ばす様な攻撃魔法や、自分以外の他者を回復する魔法、地形などの物に影響を与える魔法は吸収する。
しかし、自信を回復する魔法や……マヒロちゃんがやった『転移』なんかは吸収できない。
ちゃんと調べてるんだなぁ。
ギルドの書庫をフル活用してる。
まぁ冒険者としては正解なんだけど、ちょっと悔しいな。
「……この分なら、もうちょっと続けても大丈夫そうだな」
……外では『勇者の覚醒』が始まってるな。
この四人には、『覚醒した勇者』と同じ位強くなってもらうか。
まぁ外の時間で、半刻もかからずに出来るだろ。
この中の時間だと……あの四人には地獄のひと時を過ごしてもらう事になりそうだ。
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side.遠藤
「す、すごい。これが勇者の覚醒……」
「君の場合、オリジナルスキルを持っているから、他の子よりも大幅に強くなっていると思うよ。勇者専用のスキルである『ブレイブ・モード』に加え、単純に身体能力が強化された。ま、この覚醒を切っ掛けにオリジナルスキルを手に入れる珍しいパターンもあるけどね」
勇者の覚醒により、全員がブレイブ・モードを習得。
更に素の身体能力まで強化された。
「凄いよな、勇者の覚醒とか」
「吉田君、そうですね。僕たちでは、ここまで来れたかどうかも」
「いや、いずれは自分たちだけで辿り着いていただろう。それに、これは勇者の覚醒でも不完全な物だ。実はいくつか満たしていない条件があってな。今回は俺が無理やり覚醒させたから、若干不完全なんだ」
「これで、不完全ですか」
「なんか、本当の覚醒ってのが想像もつかねぇな」
「そういえば、君たちは二人共オリジナルスキルを持っていたね。……どうやら、覚醒を切っ掛けにオリジナルスキルを手に入れた人が三人いるみたいだ」
「三人!?」
「マジか!!」
まぁ、大体予想はつくけど。
「あの三人だね」
「やっぱり……」
「あー、むしろまだ持ってなかったのかって感じだな」
最傲さんが指をさしたのは、最初にブレイブ・モードを手に入れた「劉軌」、弓使いである「カイ」、勇者メンバーで最も魔法が得意な「三日月」の三人だった。
「すげぇな。これだけの戦力がそろえば……」
「いや、ルルイエ攻略はこのメンバーでも厳しいな。勇者全員でも、あれを再び沈めるのは困難だろう」
「え!?それじゃあ一体どうすれば、」
「そもそも、ルルイエはこの世界にあるわけじゃない」
「あれは海底にあったのでは?」
「あんなものが海底にあったら、この世界はもっと混沌としてるだろ。あれは別の世界から召喚されたんだ。あの場所にね。そして、あれを維持するにはこの世界につなぎとめる物が必要だ。もしルルイエがこの世界に固定されたら、それは俺たちの敗北を意味する」
「マジかよ……」
「……それは何処にあるんですか?」
それを何とかすれば、俺たちの勝利と言う事になる。
何とかしなければ……僕たちに未来はない。
「目標は二つ存在する。一つはルルイエの最奥にある『憎悪の杭』と呼ばれるものだ。いかにも禍々しいから、見ればわかる。で、もう一つは、」
そう言って、最傲さんは城の外を見る。
「ここから離れた場所にある深い森、『最果ての森』と呼ばれる場所にある。あの森には、俺たちが戦っていたころに、とある教団が根城にしていた遺跡が存在する。恐らくそこだろう。あそこにあるのは……人の皮だ。かつて、一人の男が魔の者達の世界に行き、生還した。その男は魔の者の世界に行ったにも関わらず正気を保ったとんでもない人でな。それが異世界と繋ぎとめている触媒になっているんだろう」
二か所?
しかもそれぞれは真逆の方角だ。
つまり……
「つまり、ただでさえギリギリの戦力であるにも関わらず、俺たちは二手に別れなけりゃならない。そして、俺がついて行けるのは片方だけだ。もう片方は、お前たちだけで何とかしないといけない」
どうやら僕らがこれから行う戦いは、かなり無謀な物になりそうだ。
「……あ゛!?」
「うわッ!?ビックリした」
「ど、どうしたんですか最傲さん!」
急に大声を出した最傲さんは、城の外を凝視して何か考えている様だ。
そして……
「……もしかしたら、何とかなるかもしれん」
「え?どゆこと?」
「お前ら、ここにはいない別の勇者が居るだろ」
「え?知ってるんですか!?」
多分、大石君たちの事だろう。
どうして知っているんだろうか?
「そいつら、覚醒勇者並みに強くなったぞ。それも突然に、だ」
「マジか!!アイツらすげぇな!てことは俺たちと同じ位強いのが四人増えたのか!」
それは凄い。
今は少しでも戦力が多い方が、
「何勘違いしてんだ。言ったろ、お前らは不完全だって。その四人は……『勇者の覚醒をしていない』にも関わらず、『本来の覚醒をした勇者と同じ位の強さ』になったんだぞ。これで更に覚醒させたら……あれ?俺より強くね?」
「「……な、なんだってーっ!!??」」
一体、何がどうなってるんだ……




