突撃、勇者さん。
<side.最傲正希>
「あちゃー、これは予想外だな。誰だか知らないけど、手際が良すぎるね」
空から海底より浮上したあの『都市』を見て、正希はそうつぶやいた。
「はぁ……アイツが作って自慢してたあの海上都市も、無くなる時は呆気ない物だな。……やっぱムカつくわ。俺の友達の夢をぶっ壊しやがってよ……どこの馬鹿がやったのか知らねぇけど、この『勇者』と敵対したこと、絶対に後悔させてやる」
海上都市を作る夢を持ち、それを成し遂げた友人の努力を壊した存在。
正希はそれの事が許せなかった。
「まずは何をするべきか……今召喚されている勇者と接触するべきか?……殆ど一か所にまとまってるな。こちらからしたら好都合だけど。あれ?なんか四人だけおかしなところにいないか?……これは、人工的な異空間?結界か?しかも時魔法によって作られたものか……まさか、あの人が生きているのか?……いや、ないか。いくら強かったとはいえ、勇者でもない現地人だったし」
どうやって知ったのかは分からないが、正希は勇者たちの居場所を全て把握していた。
「この時魔法の使い手も気になるけど、一先ずは勇者たちに合流するか。まだ召喚されて間もないみたいだし、『勇者の力』について気付いていないだろう。まだ早いかもしれないけど、『勇者の力』を使えるようになるのが一番手っ取り早いからな」
正希は空を飛び、セドリック王国にいる勇者たちの元に向かった。
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<side.光城劉軌>
訓練中、俺たちは謁見の間に集められた。
集められたのは俺を含めて五人。
遠藤、吉田、カイ、三日月、そして俺だ。
ムカつく事に、何かあった時に呼ばれるのが大体このメンバーだ。
俺一人でいいものを。
一番強い勇者は俺なんだぞ。
本当だったら、勇者は俺一人でもいいくらいだ。
だが、最強の勇者である俺から見ても、他の四人は確かに強い。
遠藤に関しては、俺と同じくオリジナルスキルが発言しているし、吉田もそんな感じがする。
カイは遠距離戦に持ち込まれたら、俺が本気を出しても勝つのは難しい。
勝てない訳ではない、断じてだ。
あくまで最強は俺だ。
まぁ、カイが弓使いとして最強なのは認めるが。
そして三日月。
こいつは呼び出されるメンバーで唯一の女子だ。
こと、魔法においてはこいつの右に出る者は居ないだろう。
悔しいが、コイツが居ると心強いのは確かだ。
カイ。
クラスメイトで、母親が日本人、父親がアメリカ人のハーフである。
三日月。
実はクラスで広と一緒にクラス委員をやっていた。
成績優秀な優等生である。
……それにしても、こんな短期間に呼ばれるのは初めてだ。
嫌な予感がする。
「よく集まってくれた。急な呼び出しですまないな」
「どうしたんですか王様。また魔の者が現れたんですか?」
「いや……間違ってはないか。これを見てくれ」
王様が一枚の紙を取り出し、近くにいた騎士に渡す。
渡された騎士がその紙を遠藤に渡した。
何で俺じゃないんだ。
聞いたの俺だぞ。
そこの騎士顔覚えたからな。
……兜で顔隠してるから分かんないや。
だが最強勇者の俺にそんなものは通じない。
気 配 を 覚 え た ぞ
奴はもう俺から逃げる事は出来ない。
まぁ今は見逃してやる。
「これは一体?」
「遠藤、俺にも見せろ」
「待ってください。ちゃんと順番に回しますので……」
それじゃあ俺は三番目じゃないか。
だがまぁ今は大人しくしていてやる。
そして、俺にも紙が回ってきた。
「何だこれ?」
城…いや、街か?
辛うじてそんな感じの物だと認識できるが、造形が異様すぎる。
一体何が描かれているんだ?
「ほれ」
「ありがとう、劉軌君」
横にいたカイに紙をまわしてやる。
全員に紙が回ってから、王様が話を再開した。
「そこに描かれていた物、それは『魔の者』の本拠地だ」
なに?
「つい数刻前だ。我が国の隣に領地を持っていた、一つの国が滅んだ。滅んだのは海洋国家アルカディア。海の上にある美しい国であった……その絵に描かれているモノ。それが海底から浮上し、アルカディアを崩壊した。それが、海底都市ルルイエ。今日、魔の者達の封印が完全に解かれた」
「ッ!?」
まさか……
「王様、つまり、魔の者との決戦になると?」
「……うむ。まだ確定ではないがな。だが、その時が近いのも、また事実である」
「ちょっと待ってください!」
三日月が大声を上げて立ち上がった。
「ついこの間、魔の者の退治に参加した人たちの話を聞きました。その話を聞いた限りだと、私たちの実力はまだまだ足りていません。今の私たちでは……勝ち目は、無いと思います」
「そうだな。これは、我々も予想外だった。まだ猶予はある。そう思っていたのだ」
「魔の者は、こちらに来ているのですか?」
カイが王様に問う。
「いや、今の所、その様な動きは見られない。もしかしたら、まだ完全に復活した訳ではないのかもしれん。だがこれは希望的観測すぎると言えるだろう。間違いなく、時間が無い。今、様々な方面で戦力を集めている。いつ攻めてくるか分からないからな」
「なぁ、もしも本当に完全に復活していないんだったら、今すぐ行けばいいんじゃないのか?」
吉田がそんな事を言い出した。
「一理あるな。もしそうなら、今の俺達でもなんとか出来るかもしれない」
「出来るわけないでしょ?前回の時だって、ギリギリだったってみんなが言ってたわ」
「それはそいつらがザコだからだ。強い勇者である俺は違う」
「まぁまぁ二人とも落ち着いて下さい」
「遠藤君の言う通りです。落ち着いて話をしましょう」
落ち着いていないのは三日月だけだ。
俺はいつだって落ち着いている。
「確かに、吉田君の言う通りですが、今はそれすら分からないし、確認のしようが無い。そうですよね、王様?」
「うむ、エンドウ殿の言う通りだ。唯一それを直接みた者であるその絵を描いた者だが、一体どうしたのか、気がおかしくなってしまったようでな。まともに話を聞ける状態ではない」
王様が言うには、王様に報告に来た兵士も、直接みた訳ではない様だ。
「当然だよ。普通の人間がルルイエを見て、正気で居られるはずがない。多分、その兵士さん。もう正気に戻らないんじゃないかな?」
突然、誰もいない筈の後ろから声が聞こえ、急いで振り返る。
「お主、何者だ?見張りはどうした?」
「気づいてないよ。でも、腕のいい見張りだね。お互いがお互いの死角を補うように常に決まった配置にいる。よく訓練されているよ」
「その『腕のいい見張り』に一切気付かれずにここまで来たお主に言われてもな」
「そりゃそうだ!悪い悪い」
へへ、っと笑いながら、その男はこちらに歩いてくる。
「おい、あんた誰だ?よくわからんけど、これ以上先にはいかせないぞ?」
吉田が男の前に立ちはだかる。
「フンッ、吉田は下がってろ。俺一人で十分だ」
「あ~あ~」
後ろでカイがため息をついているのが聞こえたが無視する。
「ハハハ、若いねぇ。昔を思い出すよ」
「……意味が分かんねぇぞ?」
いきなり変な事言いやがって。
どう見ても二十行ってるか行ってないかだろ。
人間よりも長い寿命のエルフっていう種族もいるみたいだけど、コイツは明らかに人間だ。
「まぁいい。お前を倒してから詳しい話を聞けばいい」
「そんな事、君に出来るのかな?やるっていうのなら、こっちだって抵抗するよ?」
「出来るもんならやってみろッ!!!」
俺は武器を抜いて男に斬りかかる。
余計な事はしない。
真っすぐに、無駄なく、速く、俺の軌道で……
「うん、いい攻撃だね」
「……は?」
何だ!?何が起こったんだ!?
俺の攻撃は確実に当たったはずだ!!
俺の攻撃は、音もなく受け止められていた。
指先で。
小手も、特殊な手袋をしている訳でもない。
完全な素手だ。
「えぇ……」
「うそ、だろ?劉軌の攻撃を…止めたのか?」
後ろからも驚愕の声が聞こえる。
「それで?俺は終わりでもいいんだけど?」
「馬鹿にしやがってッ……」
「劉軌君!!それはダメだ!!」
後ろで遠藤が何か言っているが、そんな事知った事ではない。
「ああ!もう!三日月さん!結界を!」
「わかったわッ!!『アンチインパクトバリア』!!」
「最大出力だ……『ブレイブ・モード』!!!!」
俺はあらゆる能力を一気に引き上げる。
「今度こそッ!!」
「『ブレイブ・モード』」
「ッ!?」
コイツ、今なんて……
「さて、俺の勝ちなわけだけど、どうする?」
「う゛……あ゛?」
いつ、の間に……
く、苦しい……
「……まぁ、正直に言って、驚いたよ。ブレイブ・モードを使える奴がもういるとはね。まだまだ使いこなせていないみたいだけど……僕らの時よりもずっと早いね。これは期待していいかも」
「待ってください!あなたは一体何者なんですか!?」
「君、名前は?」
「遠藤、です」
「そうか……俺の名前は『最傲正希』。君たちの先輩勇者さ」
「「「!?」」」
首……離して……




