動き出す状況
「こ、ここは……」
光は無い。
湿った暗い洞窟の中で、それは目覚めた。
「そう、か。……刻は、近い」
何を理解したのか、それはそうつぶやいた。
何も見えない洞窟の中を、それは迷うことなく進んでいく。
「……眩しい、眩しすぎる」
いつの間にかたどり着いた外を見て、それは目を覆いながら言った。
「夢、希望、愛……光か。……それが、この世界に渦巻いている。……そんな『モノ』、などとはもう言わない。『我々』はそれに敗北したのだ」
もう、侮らない。
例え、神に認められない存在であろうとも、『我々』もまた、学ぶのだ。
「なんのために生まれたのか、なぜ存在しているのか……『我々』にそれを知る術はない。だが」
我々はココに居る。
我々はこの世界にいる。
我々もまた、生きている。
ならば……
「何度でも、立ち上がろう。何度でも、戦おう。お前たち人間が、そうしてきた様に……」
それは決意するかの様に、空に手を掲げ、拳を握る。
「さぁ……この世界を、絶望と混沌に満たそう。『我々』の刻は来た」
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<side.セドリック王国>
「以上が、勇者達の現状です。やはり、勇者としての力は、凄まじいの一言に尽きます」
「うむ。……確かに、凄まじい成長速度だ。前回派遣した魔の者との戦闘も、いい経験になったようだしな」
「全くです。……ところで、その派遣した勇者の一部から、面白い報告が上がっているのです」
「ほう?聞かせてもらえるか、エオルンド」
「かしこまりました、陛下」
騎士団長とセドリック国王は、執務室で仕事と言う名の世間話に興じていた。
「そうか、あの四人を見つけたのか」
「はい。聞いた限りですと、かなりの実力であるとか」
「お主や、師団長のメアリーが『面白い』と言っていた四人だな。居なくなった時も、お主は探さなくてもいいと言っていたな」
「彼らにとって、どうやらこの場所では足りなかったようですね」
「その様だな。証拠に、力強く成長している様だ。息子のアーサーも気に入っていたようだしな」
「?殿下が、ですか?あまり接する機会はなかったように思いますが……」
「召喚された当初から……その四人の内の二人の男女に目を付けていたようでな。他の勇者たちが混乱していた時、その二人だけは取り乱すことなく、一体何が最善なのか考えているように見えたようでな。それが面白かったようだ」
「面白かった……ですか」
エオルンドはため息が出そうになるのを抑える。
アーサー第二王子はとても優秀だ。
武術、魔術、学問、あらゆる分野において最優秀と言える。
まさに天才、才能の塊である。
しかし……人一倍、好奇心と行動力があるのだ。
これがかなり厄介なのである。
しょっちゅう面白そうだからと言う理由で面倒ごとを持ち帰ってくるのだ。
今は十八歳の王子だが、この年にもなって一人で城を抜け出したりする。
しかも、それを探しに行くのは騎士団の仕事になってしまっている。
ただでさえ団員はギリギリなのに、更にそちらに人員を割かなければいけないとなると、胃が痛くなる思いであるエオルンド。
ここ最近は三度の食事に胃薬が欠かせなくなっている。
それだけならまだいい。
良くないが、まだいい。
だが、王子は外に出るたびに必ず厄介な事を持ち帰ってくるのだ。
とある商家の違法な取引の証拠をつかんだとか、とある貴族の汚職を見つけたとか、酒場でこんな噂を聞いたから真相を調べろとか……
決して、決して騎士団が仕事をさぼっているわけではない。
しかし、何故か王子が外に行くとそんな話を持ち帰ってくるのだ。
この国でその様な事をいち早く解決に持ち込めるのはとてもいい事なのだが、頻度が異常だ。
騎士団の気力が持たない。
最近では、騎士団の入団基準を下げて、平民でも入りやすいようにして人員を確保できないかと国王に打診している所だ。
「だが、その四人が城を出ていった事に関しては、かなりショックを受けていたようでな」
「?」
どういう事だろうか?
殿下とは嫌と言うほどあっているが、その様なそぶりは見たことが無い。
「どうやら、最初に目を付けた二人の……少女の方だ。その少女に一目ぼれしたようでな。どうにかして接点を作ろうとしていた所で居なくなったものだから、『ああああ!!!!未来のマイワイフがぁあああ!!!!』と部屋で叫んでおったぞ。あれは中々傑作だった。フフフ、人の失恋は見ていて楽しいな」
「陛下……」
正直国王の今の演技が迫真過ぎて引き気味だが、王子も王子でなかなかヒドイ。
これでこの国が歴代でもかなり上手く回っている方なのだから分からないものだ。
しかし、殿下が一目惚れした少女……まさか……
「マヒロ、だったか」
「それは誰の名前だ?いや、確か勇者の一人にそのような名前の者がおったな」
声に出てしまっていたか。
「その少女の名前です」
「ほう……まて、その少女の名前はいつかの報告で目にしたぞ。たしか……これだ」
そう言って国王は一つの報告書の束を取り出す。
「この中に、あったな。『野外訓練場の一部を爆破』……これをやったのがその『マヒロ』という少女になっている」
「私は直接見たわけでは有りませんのでなんとも言えませんが、当時のメアリー師団長の様子からすると、あまりにも異常と言えるかと」
あの時はかなり驚いた。
他の騎士たちにその場を任せて飛び出してきた程だ。
「いずれ会ってみたいところだな」
「そうですね、私も同意見です。もしこの王都に戻っている事が確認出来たときには、城に招いてみるといいかと」
「楽しみであるな」
ドンドンドンドンッ!!!!
二人がそんな話をしていると、部屋の扉が激しく叩かれる。
「不敬を承知でご報告があります!!緊急です!!」
扉の外からそんな声が聞こえる。
「陛下」
「構わん。入室を許可する」
国王がそう言うと、一人の男が落ち着きがない様子で入ってきた。
「して、報告の内容は?」
「はっ!隣国の海洋国家『アルカディア』についての報告です!大変、信じ難い事なのですが……」
そこまで言って、男は言葉に詰まってしまう。
「どうした?早く報告しろ。陛下の御前だぞ」
「も、申し訳ございません。……先ほど……海洋国家『アルカディア』が崩壊。その位置に、海底から『巨大な街』が浮上。海岸沿いにあるアルカディアの街は、謎の魔物……推定、魔の者の攻撃を受け、滅亡しました」
「……なんだと?」
国王は、今の報告が理解できないでいた。
騎士団長も、空いた口が塞がっていない。
報告を聞き逃したわけではない。
言葉の意味も分かる。
だが、そのあまりにも現実離れした報告内容に理解が追い付けなかったのだ。
「……間違い、無いのだな」
「はっ……こちらが、『浮上した街』のスケッチであります」
報告をした男は、一枚の丸められた紙を差し出す。
騎士団長がそれを受け取り、国王に渡した。
「これは……ッ」
「陛下、いかがなさいましたか?」
国王が驚いたのも無理はない。
国王は『それ』を幼少の頃から知っていたからだ。
「早い……あまりにも早すぎる……」
そこに描かれていた物、それは……
物語に伝わる『魔の者』の本拠地、封印されし海底都市『ルルイエ』。
これは、それの浮上を意味する。
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海洋国家アルカディア
この国は、主人公たちを召喚したセドリック王国と同じく、以前召喚された勇者が建国した国である。
世界で最も巨大な『都市』をもつ国であり、それが王都『インビジブル』である。
国の名前にあるように、海の上に浮かぶ巨大都市であり、蜘蛛の巣のように王城を中心に広がっている。
もちろん、陸上にも街が存在し、大陸内有数の貿易拠点の一つである。
海洋国家なだけあり、漁業が盛んで、造船技術も凄まじいものがある。
この国では刺身なんかも食べられたりする。
噂では、いざとなったら王都ごと海を渡れるとかなんとか……
まぁ、もう存在しない国であるが……
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