現状と、それぞれの答え
<side.とある冒険者たち>
「いや、おかしくね?」
「(もぐもぐ)」
「……何が?」
「ほら、いくら主力冒険者が全滅して街を守る戦力が足りないとはいえ、俺たちが呼ばれる意味は?」
「お前そんな事言ってるとアルシオンさんにボコボコにされるぞ?」
「(もぐもぐ)」
「あの人…普段は、凄く優しいのに、私たちにだけ、厳しい……」
「やっぱり納得いかねぇよ……もう俺たちアルシオンさんと同じAランクだぜ?」
「あの人、Sランクの試験受けられるのにめんどくさがって行ってないだけで、もうずっと前からSランク級の実力者なんだよなぁ」
「うぐッ……い、いや、そんなの言い訳だ!!」
「リーダーうるさいです。今食事中です」
「う、ごめん……」
「食事してんのお前だけなんだよなぁ」
四人の冒険者たちは街を歩いている。
どうやら、彼らはアルシオンに呼ばれて来たようだ。
「ま、この街はつい最近魔の者が近くに出現したばかりみたいだし、しばらくは戦える奴が居た方がいいだろうなぁ」
「でも、今回は、ちょっとひどい……呼んだくせに、いない」
「ホントそれな!!」
「リーダーうるさいです。邪魔しないでください」
「理不尽だ……」
冒険者たちはギルドに向かう。
どうやらギルドマスターに会いに行くようだ。
「なんか、ラーヤが食ってんの見てたら腹減ってきたな。俺もなんか食べようかな」
「お、俺賛成」
「……同じく」
「私も食べる!」
「「「今まで散々食べてただろッ(でしょッ)!!!!」」」
「(´・ω・`)」
そんな賑やかなパーティがギルドに入ると、ギルドの中にいた冒険者たちの視線が集まる。
「……何だか、空気がピリピリしているな。リーダー、どう思う?」
「この街の主力冒険者が壊滅したのは、もう周辺の街まで広がっている。強い冒険者が減ったってことは……」
「いい仕事を手に入れるチャンス?」
「だろうね。他の街から、それを狙ってきた冒険者が沢山いるんじゃない?この街を元々拠点にしていた冒険者からは、あまりよく思われないだろうね」
「……なら、私たちも混ざろう。……この街の冒険者の、頂点に立つチャンス」
「ゼータはたまに過激な発想をするな……」
「ねぇご飯食べよ?」
ギルドに入って早々、こんな会話を堂々としていれば、注目していた冒険者たちは当然今の会話を聞いていたことになる。
「……なぁ、にーちゃん達よぉ。今、この街の冒険者の頂点がどうのって言ってなかったか?言ったよな?」
「だったら何だ?」
「この街に来たばかりの『新人』に、先輩が指導してやるよ。オラァッ!!」
「うおッ!?いきなりか」
仲間たちからリーダーと呼ばれた男は、驚くような声を上げたものの、危なげなく攻撃を回避した。
「……これは、開戦とみても、いい?」
「いいんじゃね?多分乱闘になるぞこれ」
「ええー、ご食べたい」
ガシャーン!!
ギルド内に何かが割れた音が響いた。
音がなった場所には……ラーヤという女性が酒まみれになっていた。
周囲には飛び散ったジョッキの破片。
「……よくも私を汚したな?……死に晒せやクソザコ共が」
「あーあ。やっぱり乱闘ですかそうですか。……別に、嫌いじゃないぜ!!」
「……レディ、ファイッ」
この日、街の表通りに派手な祭囃子が響いたらしい。
「ちょっとぉぉおお!!!!掃除するの私たちなんですけどおおおお!!!!!!」
ギルド職員の叫びと共に。
今日も街は平和です。
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<side.勇者一行>
「あと、少し……もう少しで、何かが……」
「頑張っていますね、吉田君」
「遠藤……」
城の訓練場、ではなく、街の近くにある草原で、吉田は特訓をしていた。
「あの魔の者との戦闘に参加した人たちは、いつもの訓練にたいする意識が変わっただけではなく、自主的に特訓をするようになりました。劉軌君はずっと前からやっていましたが」
「……そうだな。……なんかさ、あの戦闘が終わってから、思ったんだよ。俺って、何にもねぇなって。劉軌がやってる『ブレイブモード』ってやつ、オリジナルスキルだろ?魔の者の討伐の時だって、逢沢もあんなスゲー技もってたしさ。オリジナルスキルが欲しいってわけじゃねぇけどよ、俺も、一つでいいから、誰にも負けない何かが欲しいんだよ」
「……そうですか」
そういって、遠藤は槍を構える。
「吉田君、すこし、模擬戦をしてみましょう。もしかしたら、何か分かるかもしれませんよ?」
「……わかった。でも、本気でやるからな?」
「僕だってそのつもりですよ」
それぞれが武器を構える。
そして、
「フッ!」
「ハッ!」
踏み込みは同時。
吉田の盾と、遠藤の槍がぶつかる。
「相変わらず、盾の扱いは上手いですねッ」
「当然ッ、剣よりも力入れて特訓したから…なッ!!」
吉田がもう片方の手に持っていた剣を遠藤に向かって振る。
「そんなスピードでは当たりませんよ」
「知ってるさ!」
吉田はそう言うと、盾を思いっきり遠藤に向かって蹴っ飛ばした。
「盾をッ!?」
飛んできた盾を遠藤は躱す。
しかしそこには……
「貰ったッ!!」
一番長い付き合いなのだ。
遠藤が考えている事なんて分かる。
それは戦いでも同じ。
吉田は遠藤の動きを完全に読み、勝利したと思った。
しかし、相手の考えが分かるのは、吉田だけではない。
条件は遠藤も同じである。
「ハッ!」
「何ッ!?」
遠藤は死角からの攻撃で合ったにもかかわらず、迷うことなくその槍を振り、吉田の攻撃を防いで見せた。
「まさか……騎士団長と同じ『心眼』か!?」
「そんなわけないじゃないですか。何となくわかっただけですよ。それでは、次はこちらから行きます」
遠藤は槍を構える。
「……『一寸光陰の境地』」
「遠藤……まさか……」
「……あの魔の者との戦いの中で、僕には、あまりにも足りないものが多すぎました。これは、僕が見つけた一つの境地。あの戦場でどれだけ頑張っても、それまでの努力によって手に入れた力が変わるわけではありません。あの場で頑張っても、強くなることは出来ない。だからこそ……その結論に至ったからこそ見つけた境地……僕の、オリジナルスキルです」
「……そうか……遠藤は、辿り着いたんだな」
「はい」
「……俺も、あと少しなんだ。あと少しで、何かが見えそうなんだ……悪いが、付き合ってもらうぞ」
「喜んで。僕も、このスキルを試したくてたまらないんですよ」
二人が口を閉じ、視線を合わせる。
「ダァ!!!!」
先に動いたのは吉田。
吉田は遠藤に向かって切りかかる。
「見せて見ろ!!お前の境地ってやつをよ!!!」
「…………」
遠藤は、静かに、吉田の攻撃を弾いた。
「ッ!?なんだ……何か違和感が……遠藤の奴、いつもより遅くないか?」
攻撃を見てから弾く、躱す、という動きをし始めるまでに時間があった気がする。
「まぁ、いい。どんどん行くぞ」
その後は、吉田が一方的に攻撃をし続ける展開となった。
剣で斬り、盾を使い、相手の死角を突き、時には足も使って攻撃した。
「ハァ、ハァ、ハァ」
「…………」
およそ三十分、吉田の猛攻は続いた。
しかし、お互いが無傷。
ただひたすら攻撃され続けた遠藤は、息切れすら起こしていなかった。
「……わかっ、たぞ……お前の動きが……なんでいつもより、遅く感じたのか……」
「…………」
「お前は、動けなかったんじゃねぇ……必要、なかったんだ……俺の、攻撃を見て、『まだ避けなくても大丈夫』とか、考えている余裕が、お前にはあったんだ……」
「……そうです。よくわかりましたね。僕のオリジナルスキル『一寸光陰の境地』は、たいした効果はありません。自分のステータスが上昇するわけでもありませんし、何か技が使えるようになるわけでもありません。……このスキルの効果は、『思考の加速』。ほんの一瞬であろうとも、絶対に無駄にしたくない。そんな意識から生まれたんだと思います。思考速度が速くなっていたからこそ、いつもと変わらない身体能力であるにも関わらず、最低限の動きで、余裕をもって、無駄なく動くことが出来ました。このスキルは……ただそれだけの物なんです」
「いや……めっちゃ強かったぞ……」
吉田は親友の異常な強さにあきれながら、草原に大の字に倒れこんだ。
「さて、何か見えましたか?」
「……まだ、答えは見えないけど、やるべき事は分かった……と思う」
「おお!そこまで来たら後もう一歩です。さぁ!頑張りましょう!」
「す、少しだけ……休ませて……」
笑顔で手を差し伸べる親友に対して、吉田は、苦笑いでそう答える事しか出来なかった。




