勇者、そして強者
<side.???>
それは世界の果て それは世界の闇
それは世界の始まり
誰であろうともたどり着く事など出来はしない
それこそは死の象徴
それこそは自由の証
そこはすべての始まり そして終わりを迎えた場所
そして、新たな始まりを迎えた場所
人々に忘れ去られ、過去の遺物と化したモノが、最後に行きつく場所……
最果ての地、その地をさまよう一人の男は……
「……困ったぞ」
頭を抱えて悩んでいた。
「どうする?取り返しのつかないことになってしまった……新たな『勇者』も、もう召喚されちゃってるし……ああもうッ!!この『負の連鎖』は俺が止めるって約束したのにーーッ!!」
目まぐるしく動く、果てであるが故の限りある空の下……男は焦りを感じずにはいられない。
「油断した……この最果ての地に、俺以外が入れるなんて思ってもみなかった……ッ」
黒い髪をした男の独り言は続く。
「魔の者は俺が閉じ込めておいたのに……ここまで入ってきただけじゃなく、封印まで解くなんて……絶対にただ者じゃない。このままだと、また世界中が混沌に満たされてしまう……今回の勇者は『僕たち』の様に上手く出来るとも考えにくい……僕たちだって奇跡の様な物だったんだ……僕らのせいで神器のほとんどは破壊されちゃったし……一応、僕も一つだけは持っているけど……」
男は一つの剣を手に取り、それを強く握る。
「『こいつ』が僕の手にある限り、『あれ』が出てくることは無い。これ以上状況が悪くなる前に、何か
手を打たなくちゃ……」
男は歩き出す。
この最果ての地から、現世へと舞い戻る為に。
彼の名は……『勇者』最傲正希
同じく日本から召喚され、世界を救った神話に残る最初の勇者である。
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<side.アルシオン>
夜。
俺は今、とある宿の前にいる。
「ここが、あの四人が泊っている宿か」
宿の場所はギルドで教えてもらった。
聞いたら教えてくれるっていうんだから、警戒もクソもないね。
まぁ何かするつもりは無いけれど。
「結構いい所に泊まってるんだな……そこそこ稼いでいるんだから当然か」
Bランクでも上位の魔物の素材を売って暮らしているらしい。
ダンジョンにほぼ毎日行っているんだとか、すごいねぇ……よくもまぁあんなめんどくさい場所に……
それに、何でも今回の件でBランクに上がったとか。
それは凄いが、多分、俺の予想だとAランクに上がらずに伸び悩む事になるね。
AランクとBランクの壁はレベルではどうしようもない程に高く厚い。
冒険者のそれぞれのランクの実力を言葉で表すと、
Gランク・ド素人。武器を持ったばかり。冒険者家業をなめ腐ってる。話にならない。
Fランク・ザコ。クソザコナメクジな魔物を殺して調子に乗っている。
Eランク・素人。段々と現実を理解し始める頃。ここが本当のスタートライン。
Dランク・脱素人。自分のスタイルをある程度確立する頃。このころから行動が落ち着いてくる。
Cランク・経験者。色々経験してと学ぶ事が多い時期。馬鹿はここでだいたい落ちる。
Bランク・熟練者。まともに戦いを理解する頃。ここから成長スピードに差が出る。
Aランク・人間最強格。同じ人間であれば、まず負けることは無くなる。
Sランク・人外。
ざっとこんな感じ。
ぶっちゃけ、Bランクまでは頑張ればだれでも行ける。
その時まで生き残れるかはともかくとして。
先ほども言ったが、Bランクからがとてつもなくきついのだ。
ほぼすべての人たちがここで伸び悩む。
あの四人は、無意識にBランクをなめている。
Bランクの魔物なんて、ザコもいい所だ。
それもダンジョンの中でしかBランクの魔物と戦ったことがない様だし。
一体何が辛いのか、分からせてあげるとしよう。
俺は宿に入った。
「すいません。ここに、ヒロという少年がパーティーリーダーをやっている冒険者は居ますか?」
「はい、居ますよ。この時間ですと、食堂にいると思います」
「ありがとうございます」
宿の人に聞いたらすんなり答えてくれた。
俺は食堂に入って彼らを探す。
……居た。
あちらも気づいたようだ。
俺は四人の元に座る。
「やぁ。ここ、座っていいかな?」
「俺はいいですけど……」
「いいよ」
「大丈夫です」
「同じく~」
「ハハ、それじゃあ遠慮なく」
俺はテーブル席の空いている椅子に腰かける。
「すいませーん!おすすめの物を一つと蜂蜜酒下さーい!」
「はーい!ただいまー!」
基本的に何でも食べられるので、適当におすすめの物を頼んで、ついでに酒も頼む。
「まずは蜂蜜酒です。お料理の方は少々お待ちください」
「わかった。ありがとう」
俺は届いた酒に口をつける。
「ふぅ……やっぱり夜の酒は最高だね」
「あの……何か用があって来たのでは?」
特徴的なあの大きい武器を持っていた少女が俺に尋ねてきた。
あの武器は何処へやったのだろうか?
部屋に置いてきたのかな?
「そうだったそうだった。普通に食事をして帰ってしまう所だったよ。はっはっは」
そんなつもりは無いけどな。
「ギルドマスターから話は聞いているかい?」
「訓練がどうのこうのってやつ?」
魔法使いの少女が俺を見て言ってきた。
ちゃんと聞いているようだ。
「そうそう。明日から始めようと思うんだけど、どうかな?」
「それでお願いします。ちょうど今までその事を話し合っていたんですよ」
唯一の男であるヒロ君がそう答えた。
「へぇ、積極的だね?」
「まぁ、いろいろあるので」
「そうかそうか。君たちは勤勉で素直で積極的、これほど有望な冒険者は中々いないね」
実際、こういうタイプの冒険者は中々いない。
それに……力に対して貪欲だ。
これは好感が持てる。
「さて、それじゃあ訓練方針を発表しよう。レベル上げはしない。メインはスキルレベルを上げる事、そして経験を積む事だ。ダンジョンは使わない」
「どうしてですか?」
斥候職らしき少女が疑問に感じたようだ。
「何に対して疑問を感じたのかは分からないが、答えは一つだ。やれば分かる。街の外にある、絶好の訓練場所に行こう。いい場所を知っているんだ。この街から馬車で五日ぐらいかな?」
「い、五日……」
特徴的な武器を持っていた少女がだるそうな表情をしている。
「ふふん、ちなみに、訓練中は街には帰らないよ。ずっと外だ。ベットも食事もないぞ?すべて現地調達だ」
「……お、お風呂は?」
「有ると思うかい?」
俺がそう言うと……主に女性陣の三人の顔が絶望の色に染まる。
ま、実際に訓練が始まれば、そんな事を気にする事も出来ないだろう。
あまりの過酷さに涙さえ枯れるだろう、フフフ。
「という訳で、明日の朝二の鐘が鳴るころに街の正門前に集合だ。異論は認めない」
「「「「はい」」」」
「いい返事だ。やっぱりいいね、君たちは」
何だかんだ言ってちゃんと返事が出来るのはいい事だ。
これは思ったよりも早く帰ってこれるかもな。
「お待たせしました。『ギガント・サンドワーム』のステーキです。お客さん運がいいですね!この食材、実は今日の朝にたまたま手に入れることが出来た物で、これが最後だったんですよ!」
「へぇ、へぇー」
ヤバい。
俺が唯一苦手な物が来た。
「それではごゆっくりー」
「あ、ありがとう……」
味は好きなんだけど……あのデッカイうねうねした魔物を思い出すとどうも食欲が……
「?…食べないんですか?」
「あ、あぁ、そうだね。そろそろいただくとしよう」
酒で流しながら飲むか……
「……美味いな」
味が旨いのがなぁ……でもなぁ……あのデッカイミミズだしなぁ……
ダメだ、考えないようにしよう。
というか、もうこれからは適当に頼むのはやめよう。
自分が食べたいと思う物を食べるのが一番だよね、うん。
「さて、そういえばちゃんとした自己紹介がまだだったね」
この子たちの事もあまり知らないので、とりあえず自分からやっておく。
「改めて、俺はアルシオン。Aランクの冒険者をやっている。魔法剣士だ」
「これはどうも。こちらこそ気付かずにすみません。俺は広です。このパーティーのリーダーをやっています。前衛で後ろを守る盾として戦う事が多いです」
「えっと、真宙です。一応、ヒーラーやってます。少しであれば、攻撃魔法も使えます」
「明希です。斥候や遊撃を主に担当しています」
「美紀です!後ろから魔法撃ってます!敵の妨害とかも結構やってます」
ほー、いいパーティーだ。
中々いいバランスだ。
「うんうん、ありがとう。とりあえず名前は覚えたよ……多分。で、実は聞きたいことがあるんだけど……ガルマルって知ってる?」
「「ブフッ」」
「うわッ!?二人とも汚いよ!?」
「大丈夫?」
なるほど、ヒロ君とマヒロちゃんか。
「その反応から見るに、あの屋敷でガルマルと交戦したのは君たちか」
「そうですが……」
「実は、今日の夕方に戦闘跡を見てきたんだけど、どうやってあんな穴だらけにしたの?なんか今にも崩れそうで入るの怖かったよ」
「えぇっと……」
「なるほど、マヒロちゃんか」
という事はまさか……
「あの森で木々が消し飛んでいた場所は、君がやったんだね?」
「(ギクッ!?)」
「アッハッハ!!別に隠さなくてもいいんだよ。どうやったのかも聞かないしね。ただ……誰がやったのか聞きたかったんだ」
「そ、そうですか……」
「じゃ、そういう訳で。訓練中にそれ禁止で」
「えッ!?」
この娘面白いな。
さっきから凄く驚きっぱなしだ。
「君はヒーラーなんだろう?なら君はヒーラーとして頑張ってくれ。仲間の成長にもつながるから、訓練として我慢してね」
「…わかりました」
さて、君はどうするのかな?
訓練中、きっと大変なことが沢山おこると思うけど、君はその時、どう行動するのかな?
……他の子たちも例外じゃないからね。
それぞれが、互いの命を握っている状況で、正しい判断をして動くことが出来るかな?




