誘拐と出会いと・後編
広が来てくれた。
その事実に思わず涙が出そうになる。
だが、俺は先ほどまでの状況を思い出す。
すぐ近くにいる男。
今はいきなり現れた広を見ているが、俺は先ほどまでこの男と戦い、そして負けた。
このまま戦いになれば広は負けてしまう。
この男が俺を殺そうとしたように、広の事も殺そうとするだろう。
何とかしないと・・・。
「・・・一応聞くけど・・・お前がやったのか?」
「何の事に対しての質問かは知らんが、そこの女を倒したのか?という意味なら・・・そうだ」
「そうか・・・なにがあったのかは知らないけど・・・とりあえず、お前を倒さないと俺の気がすまねぇ!」
「はっ!やれるもんならやってみろ!」
最初に動いたのは広だ。
そして、男もそれを見て動き出す。
「オラァ!!」
「カァ!」
ガキン!
剣と剣がぶつかり合う。
力は拮抗している・・・と思ったその時。
ドンッ!!
「ぐっ・・」
広は力任せに飛ばされ、倒れはしなかったものの、思わず後ろへと後ずさる。
「ふぅ・・・・流石に、力で押されそうになったのは焦ったぜ。だが、身体強化を使えばどうってことなかったな」
・・・・・今まで使っていなかったのか?
限界まで身体強化を使っても、俺は逃げるので精一杯だったのに・・・・。
おそらく、あの男の言っている事は本当だ。
そして、まだまだ余裕を残しているように感じる・・・。
あの男・・・一体どれだけ強いんだ・・・?
「・・・『ハイヒール』」
俺は広に回復魔法をかける。
「ん?・・・お前回復魔法使えるのか・・・先にお前から倒すか」
流石にバレたか・・・。
そこそこ小さい声で唱えたつもりだったんだが・・。
俺は亜空間倉庫を開き、ストックしておいた魔法を放つ。
「!?あぶね!!」
やっぱり避けられたか・・・これは口で唱えないで発動出来るから、もしかしたらと思ったが・・・衝撃波でも避けられていたので、ある程度予想はしていたが・・・。
「随分と多芸なんだな。お前みたいな奴は本当に何をしてくるかわからないな。もっと早く始末しておけば!?ッ」
「チッ!まだまだぁ!!」
さっきの回復で動けるようになった広が不意打ちをし、さらに攻撃を仕掛ける。
「クッ・・ハァ!!」
「ぐっ!?」
広の追撃をかわし、そのまま広に反撃した。
攻撃をうまくいなせず、広はそのまま飛ばされる。
広が飛ばされ、男から離れた瞬間に、俺は衝撃波で男を攻撃する。
「ぐおぉ!?」
当たった!
「こんのぉ!!ハァ!!」
俺に攻撃されて吹き飛ぶも、瞬時に起き上がり反撃された。
今だに自分の傷も癒していない俺は、飛んできた斬撃をよれられずに直撃する。
「っああ!!」
「真宙!!」
やばい・・・足に当たっちゃった・・・。
傷が深いな・・・足が飛ばなかっただけましか・・・。
「あああああぁ!!!!」
広が男に突撃する。
「チッ・・・しぶてぇ野郎だな!!」
男は反撃し、その後何度か剣を打ち合う。
しかし、男は突如攻撃を止め、広から距離をとる。
「はっ、残念だが時間切れだ!俺はさっさと退散するぜ。次会ったら続きでもやろうや!」
そう言って男は物凄い速さでどこかへ消えていく。
「逃げたか・・・・!!そうだ!真宙!!大丈夫か!?」
怪我をした俺に広が駆け寄ってくる。
「真宙・・・」
「そんな顔するなよ。別に死にはしないから」
「でも・・」
「大丈夫だ。もう少し落ち着いたら自分で回復魔法かけて治すから」
出来る事なら今すぐにでも治してしまいたいが、疲労や傷の痛みのせいで、うまく魔法が使えない。
もう少し落ち着けば大丈夫だと思うが・・・。
バタン!!
突然、ボロボロのエントランスの外から鎧を着た人たちが沢山入ってきた。
あの鎧は・・・。
「衛兵・・・?」
「なっ!?なんだこれは!?激しい爆音が聞こえると報告されて来てみれば・・・なっ!?人がいるのか!?」
衛兵たちに指示をしながら突入してきた男が近づいてきた。
「おい!ここで何が・・・!?ひどい怪我だ・・・」
俺の怪我を見て、男は驚いた。
「隊長!どうかしましたか・・・!あっ、君たちは!!」
一人の衛兵が隊長と呼ばれた男に近づき、俺たちを見ると驚いたように声を上げる。
あれ?この人どこかで・・・。
「なんだ?この二人を知っているのか?」
「はい。街の門の当番だった時に、この二人がこの街に来た時に対応したので・・・若い四人組だったので、よく覚えています」
衛兵が喋り終えたところで、エントランスの奥の扉が開く。
「!?もうこんなにも衛兵が!?構わん!やれ!!」
偉そうな男の指示で、いかにも荒くれ者といった風の男たちが、問答無用で襲い掛かってくる。
「なんだこいつらは!?ええい、容赦するな!!迎撃しろ!!」
目の前で荒くれ者と衛兵が戦闘を始める。
「真宙、動けるか!?」
「・・・肩かしてくれたら」
「それぐらいお安い御用だ。今のうちに安全な場所に行こう」
「ごめん、助かる・・」
「いいって事よ!」
俺たちは衛兵の後ろを通り、建物の外へ出る。
「衛兵から話を聞かれるかもしれないし、後々めんどそうだからここで休もう」
「そうだね。わかった」
俺たちはここの建物の庭のような場所で休むことにする。
暫くすると戦闘音が聞こえなくなる。
そして、門であったことのある衛兵と隊長と呼ばれた男が建物から出てくる。
「よかった、ここにいてくれたか。申し訳ないんだがいろいろ話を聞かせてもらえるか?」
隊長さんが俺たちに聞いてくる。
「・・・まだ少しきついので、この場で良ければ」
「あぁ、それは構わない。・・・まず君たちはどうしてここに居たんだ?」
「・・・私は、買い物の途中で誘拐されて、ここに連れてこられました。私はうまく逃げたんですけど、ここの地下に、まだたくさんの人が捕まっています。捕まっているのは女性や子供ばかりです」
「!?・・・おい」
「了解しました。直ちに、部隊の編成、調査を開始します」
「よし・・・そこの坊主は?」
「俺は・・・こいつが宿になかなか戻ってこなくて、いつもより道するような奴じゃないんで、探しに出てきたんです。そしたら、こっちの方から沢山爆音が聞こえて・・・来てみたら、こいつが男と戦ってて・・・俺も交戦したんですけど、逃げられちゃって・・・そしたら、衛兵が突入してきたって感じです」
「そうか・・・・・わかった。お嬢さん、君は捕まっていたようだがどうやって逃げ出したんだい?」
「魔法で見張りと他に捕まっている人達を眠らせて、鍵を引き寄せて普通に開けて出てきました。一人で出てきたのは、他にも捕まっている人が大勢いて、連れて逃げるのが困難だと判断したからです」
「なるほどな・・・・・じゃあ、あの爆音は?」
「エントランスで、男一人と交戦した際に魔法で攻撃した時の衝撃です」
「・・・・・あんなにボロボロになるまで戦ってたのか。君もそうだが、交戦していた男も相当だな」
「まったくですよ。あんなに攻撃したのに一撃しか当てられませんでしたから」
「なんだと!?その男の特徴は!?」
驚いて声をあげた隊長さんに戦った男の特徴や戦い方を出来るだけ詳しく教える。
「・・・・・多分・・・いや、間違いなくそいつはガルマルだ」
「ガルマル?」
「あぁ、最初はまさかと思ったが・・・こいつの名前を知っている者は多いが、特徴や戦い方を知っている奴は少ないからな。昔っからこの地方で仕事をしている裏専門の傭兵だ。かなりの腕利きでな、よく目撃されているんだが、こっちが動くころにはいなくなっている厄介なやつだ」
「ガルマル・・・」
「さて、長く引き留めて悪かったな。問題なさそうだから、もう行っていいぞ。あぁ、それと・・・ほれ、こいつでも飲んどけ」
俺は隊長さんから、何かのビンを渡される。
「回復薬だ。あくまで支給品だから効果はそこそこの物でしかないが・・・まぁないよりはましだろう」
「・・・・・ありがとうございます」
「おう、気を付けて帰れよ」
隊長さんは建物の中へ戻っていき、俺たちは宿へ戻ることにした。
あまり動くことは出来ないが、俺の足も薬のおかげで歩けるようになった。
何だかすごく疲れてしまった。
俺も広も、無事でよかった。
来月の21日から、自動車教習所に通う事になりました。
すでに投稿頻度がナメクジなのに、更に遅くなるかもしれません。m(__)m
執筆は続けるので、気長に待っていてくれると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。




