028話 神と悪魔と人と『俺』①
俺は恐らく一生忘れないだろう。
この日に起きた出来事を。
この日に感じた無慈悲な力を。
この日に感じた無力さ、そして誓いを。
そんなこんなであくる朝。
「ったく先が思いやられるな」
起きて早々思い返すは昨日の試験である。
はっきりいってボロボロだ。
あの後、ミリア、リッカ、アリスの順でトムさんに挑んだ。
だが、きちんと攻撃として当てることができたのはミリアぐらいであった。
あれは思い返すだけで凄かった。
俺やアリスは使い方や技量はともかく『身体強化』を使用して戦ったが、決定打までにはならなかった。
一方、ミリアの方は最初は素の力でありながら、自分たちと同等以上の速度で戦っていた。
技量は多少お察しではあったものの。
その状態でも、十分凄かったが、最後の最後に切り札を残していた。
「ぬぅ、かくなる上は切り札ニャ、『獣化』」
そういったミリアは、体中の毛が一気に伸びて、顔つきもさらに猫っぽくなって倍近い速さで攻撃を始めた。
その結果、数発の攻撃を当て始めたのだが、その後は・・・。
「オッケーだ、ミリア、ストップだ」
「ウニャニャニャ、ニャニャー」
止まらなかった、どうやら『獣化』というのは、身体能力が上がるが同時に、暴走するらしい。
流石にやばそうだったので、自分とフォリオで止めに入ろうと近づいた所、ミリアが一瞬気を取られた。
その隙をついてトムが当て身をして気絶させた。
まぁ結局終わってみれば、トム一人に5タテされたに近い。
俺らのレベルが低いには違いないが、逆に言えばあれ位強くなけりゃ世の中やっていけないって訳か。
「全くもって先が思いやられる」
剣に魔法に勉強に、これはやることが多すぎだ。
こんな魔法のある世界にきた訳だし、ちっとは楽なことがないもんかね。
こう見えて前の世界では、そこそこ優秀な大学生だったはずなんだが。
「?」
なんか気になるフレーズが頭に浮かんだような、う~ん、異世界、楽、異世界・・・。
そんな思考をしていたが、急遽それは中断された。
ズンッ
それは、地震のようで地震ではなかった。
どちらかというと地響き、あるいは何か重いものが落ちたようなそんな振動と音。
距離はわからないが少なくとも家よりは外それも結構遠くでしたような。
ズンッ
また、振動と音だ。
と同時位に外から、カンカンカンカンと鐘を鳴らす音が聞こえ、同時に
(『災害』だ、『災害』が発生したぞ!!皆、早くシェルターや洞窟とかに避難しなさい!!)
と頭の中に響いてきた。おそらく、伝達系の魔法か何かなんだろう。
どうやら異常事態が起きている。
村長から聞いた次の日にあの『災害』とやらが発生するとは。
ボーっとした頭をたたき起こして、適当に脱ぎ捨ててあった服に着替えて部屋の外に出た。
部屋の外に出るまでにも何度か音がした。
間隔が心なしか早くなっている。
移動(?)しているのか?
と、丁度部屋を出たタイミングで下から声が聞こえてきた。
「ショウくん!アリスお嬢さん!!起きてますか!?ここにいては危険です!早く準備して下に来てください!!」
「りょ、了解です」
どうやら、シャイナさんだ。
・・・?アリスの返事がない。
ひょっとしてあいつまだ寝てる?
あいつの部屋は2階だ。
階段を下りながら、アリスの部屋のドアを叩いた。
ドンドンドン
「おい、アリス。起きてるか?寝てたら蹴り飛ばしてでも起こすぞ」
「うるさいわね。すぐに行けるから、先に下に行って」
「わかった、急げよ」
一声はかけた、取り敢えずは起きていそうだし、下で待とう。
・・・なんか状況や言葉的にも危機感が薄いな。
地震や災害が多い日本なら考えられないんだが。
あっちだったら、最低限抱えて即脱出だろう。・・・最も今の俺にはその抱えるべき最低限の荷物すらない訳だが。
下に降りるとシャイナさんとジーナ師匠が待っていた。
シャイナさんは流石というべきか、リュックのようなものに、多少の衣類を抱えていた。
リュックからフライパンの取っ手が出ているのが目を引く。
片や師匠はというと、少々装飾のついた杖にキセル、それに一冊の本を持つのみだった。
「アリスは?」
「声を掛けたら、もうすぐ来るって言ってました」
「わかった。じゃあ、シャイナ、さっきの話どおり、村長の家方面の避難場に行きな。一応一番安全なはずだから」
「分かりました。お気を付けて」
「ああ」
シャイナさんは、ダッシュで外へ出て行った。
取り敢えず、火の海とかにはなっていないようだが、大丈夫なのだろうか?
と、そんなやり取りをした直後、入れ違いにアリスが下りてきた。
「準備できたわ。避難しましょう」
避難、という割には軽装であった。
ちょっといい普段着に、杖に小さなリュックという出で立ちだった。
師匠といい、アリスといいこの世界の身分の高い人たちの常識では、これが準備なのだろうか?
「ふむ、アリス。少し軽装なようだが、問題ないのかい?」
「大丈夫よ。一番高価なものは持ったし、それにこの日の為に準備してたんでしょ。なら、無事に戻ってこれるにきまってるじゃない」
「まぁ、そういう考え方もあるかねぇ」
ギャオーーーーン
遠くで何かが吠えるような音が聞こえた。
「ふむ、これは急がないといかんねぇ」
そういってジーナ師匠は椅子から立ち上がって歩き始めた。
魔法を使って瞬間移動でもするのか・・・と身構えていたら、地下に降り始めた。
「へ?地下に逃げるんですか?」
「いいから、ついてきな」
有無を言わせぬ迫力があった。
取り敢えず黙ってついていくことにした。
地下といっても、せいぜい2階分くらい階段を下りた感じだった。
そういえば、ここに入るのは初めてだ。
地下というからにはてっきり暗くてジメジメしているかと思ったが、少しヒンヤリはするものの、乾燥しており、師匠が進む毎に灯りが灯って明るくなっていった。
下りてからはまっすぐ道は続いており、左右にはドアがついていた。
(なぁアリス、ここってどんなとこなんだ?)コソコソ
(ここは、書庫兼、研究所らしいの。主に薬の研究してるみたいだけど、他にも貴重品の部屋もあったりして、結構頑丈みたい。因みに、私もこっち来たばっかだし、あんまり入ったことない)コソコソ
(そうか)コソコソ
階段を下りて歩きながら、そんな話をした。
なんでコソコソ話したかは、なんとなく空気を読んだからである。
こうして歩いている間にも、地響きと吠えるような音が地上から聞こえてくる。
しかし、なんとなくだが、吠える声(?)に意味を感じるような?
と、考えながら少し歩くと一番奥にたどり着いた。
奥の扉は、他と少々趣が違い、両開きで分厚い鉄のようなもので作られている。
しかし、武骨ではなく、装飾がいくつかついていた。
「ボソボソ」
「?」
師匠が小声で何かを唱え、杖で扉を軽く触った瞬間、装飾に沿って光(恐らく魔力)が流れ、内開きに開いた。
「さあ入りな」
師匠に促されるがまま部屋に入った。
部屋は円形のドームのような形になっているが、特に物が置いてあるわけではない。
物はないが、床面には薄暗く光る大きな魔法陣が描かれていた。
バタン。ガチャ。
師匠が扉を閉めロックをかけた。
これでここは密室となった。
「それじゃあ、魔法陣に入りな」
「は、はい」
3人そろって陣の中に入った。
「では、これより私は呪文を唱える。あんた達は、互いに手をつないで、私含め円を描くように立ちな。空いた手は、適当に私の服でも掴みな。呪文を唱えるとかなり周囲が眩しくなるから、私がいいというまで目を閉じな」
言われるがまま、目を閉じた。
それを見届けたと同時に、ジーナ師匠は呪文を唱え始めた。
『我、ジーナ・クインドーシャが告げる。古の魔法よ。わが命に従い、起動せよ。
マジックターム、コードネードフィックス、トランスファディスティネイションコンファーム、トランジットネムリ山』
・・・いやマテマテなんか確実に英語っぽい言語が。
「いや、師匠今・・・」
ツッコミを入れようとした矢先、魔法が起動したらしい。
瞬間。
足元から強い光が迸った。
その直後この部屋から、3人は消えて無くなった。
残ったのは、強い魔力の発生のせいで揺れている扉と地上からの音のみであった。
ようやく投稿できました。
と、言ってもまたも分割ですが。
量が多くなったため、分割しましたが、②もできれば連続投稿する予定です?
じゃないと、前書きの意味が半減しそうなので。




