022話 それぞれの夜、それぞれの思惑
■side ジーナ
指導と今後の相談等が終わって帰ってくるともう夜になっていた。
前から支援していたかいもあり、この村の技術は全体的に向上している。この村で2年後に試験を迎えるのは合計5人。ショウとアリスを抜いた残りの3人を今日は見てきたわけだが、それなりに優秀であった。
初級の魔法は十分に使えるようだし、得意属性の理解も進んでいた。この分なら、適度に間違いを修正していけば試験レベルならば、十分合格であろう。
初等レベルから教える事にならなくて幸いだ。
というか正直、私自身コツコツ、チマチマとと教えるのは苦手だ。宮廷魔術師とかいうが、その内実、私自身は研究者で元冒険者であり、国の防衛や魔法戦略なんかを司る中の一人でしか無い。
というかそれ以前に私自身が教えるのにあんまり向いていないというのもあるが・・・。
そんなこんなで、次の予定もあってアリスには、ショウに魔力操作の基礎としてあれらを教える様にいったわけだが、果たしてどうなったのだろうか?
「へぇ、これはなかなかすごいじゃないか」
部屋に戻ると、合計10個の魔力結晶が充填順と充填者毎に並べてあった。8個は魔力が充填されていて、内2個は空っぽであった。
昨日の夜、シャイナに彼らの修行が終わったら並べる様に頼んでおいたが、忘れずにやってくれていた。
だが、驚いたのはソコではない。
並べられた内、3個はアリスが、5個はショウが充填したようだが、一つも割れていないのだ。
この魔力結晶、充填量の上限があるのは当然だが、その上限を超えすぎると魔力を噴出しながら割れてしまう。もちろん自然物なのもあり、多少の猶予が有るのだが、それでも限界がある。
きちんと訓練されていない者がやると込めすぎてすぐに割ってしまうのだが、初めてやったショウにはそれが無かったし、あまりこういう操作が得意でないアリスも成功していた。
寧ろ、アリスの方が、許容限界いっぱいいっぱいであり、危険なレベルなのはあの子らしかったが。
一般的に魔力を操る際は、自分の魔力を自分の総量の割合と感覚でコントロールするため、初心者や魔力が多い場合、失敗しやすい。
それが、始めから成功しているということは、コツを掴むのがはやかったのだろう。
「アリスが頑張ってくれたみたいだね。この分なら、ショウはすぐに他の事を教えられそうだねぇ」
魔力操作ができるならば、少なくとも前回の様な暴走は少なくなるはずなので、誰にとっても安全である。やはり彼は逸材のようだ。
きっと彼ならば、アリスと共にこの世界に影響を与える者となってくれるだろう。
そんな期待をしながら、明日の準備をするのであっった。
■side アリス
今日は、ショウに魔力結晶への充填と瞑想を教えた。
初めは私がお手本を見せてそれを真似してやってもらった。
魔力を出すってのはできていたみたいだし、それをコントロールするって感覚を教えたら、最初はとまどってたみたいだったけど、ゆっくりやっていったら、すぐにできるようになったみたいだった。
きっと私の教え方が良かったのだろう。
だんだん早くなって、最後には5個も充填できちゃってた。
その後は、瞑想の仕方を教えた。
初めはわかんないみたいだったけど、私が近づいて、魔力を少し出したら、感覚をつかめたみたい。
瞑想の初めは周囲の魔力を感じる事からだから、これができる様になったら、後は簡単なはずだ。
と、そんなことをしてたら、シャイナさんがきてお昼になった。
お昼の後は、村の散策をした。
ショウの行きたい所って事で、初めに村長さんの家にいった。
なんだかショウは村長さんに謝っていた。
どうやら、屋根を壊したことを、気にしていたみたいだ。
魔法を使えば、物が壊れるのなんかよくあることだし、気にしなくてもいいんじゃないかと思ったけど、
よく考えたら、人のものだし、私が教えたせいでもあった。
なので、私も一応謝っておくことにした。
そしたら、村長さんも許してくれた。
因みに、トムさんには、チラッとしか会えなかった。
残念。
その後は、ショウと一緒に、村を色々回ってみた。
思ったより、広かったけど、あんまりお店とかがある感じじゃ無かった。
つまんなかったけど、大体ここの様子が分かってよかった。
ショウはなんだかずっと感心していた。
異世界ってもっとなにもないのだろうか?
そんな感じで今日は終わった。
明日からは、もう少し、魔法の勉強をしよう。
今日のお話でドラゴンの話が出たので思い出したけど、おばあちゃんは冒険者の頃、仲間と一緒にドラゴンを倒したって言ってた。
おばあちゃんにもできたんだから、私にはもっと簡単にできるはずだ。
もっといっぱいいろんな魔法を覚えよっと。
そんな目標を胸に、夜は更けていくのであった。
■side ショウ
はい、自分です。ショウです。
誰だよ、最初に魔法を使うのは簡単みたいな設定を作った漫画家や小説家は。
あんな、水晶球に魔力を入れるのが面倒なんて思いもしなかった。
アリスちゃんの説明を聞いていたら、
「壊れるギリギリを狙って、魔力を出す」
「量は感覚」
「ぶっちゃけ慣れ」
みたいな説明しかなかった(かなり意訳しております)。
そんなんで分かるかい。体育会系の教え方じゃないんだから。
という訳で、チートを使うことに決めました。
まず、水晶玉を鑑定した所、
『魔力結晶 (0/100)』
と出てきた。なんかラッキーな事に充填量まで解った。
んで、後は〈ステータス鑑定〉を用いて、自分の魔力量を見ながら、少しずつ充填していった。
最初は加減が分からなかったから、ゆっくり5づつとか、10づつとか量を調整して無事に達成出来た。
最後の方は一発で100とか注ぎ込んで、びっくりもさせてやった。
・・・まぁ可愛い子が喜ぶ姿が見れたので善しとしよう。
その後は、『瞑想』を教えてもらった。
瞑想といっても、前の世界で言う瞑想ではなく、魔力を感じる感覚を養う修行法ってのが正しいみたいだ。どうも誤訳のような気もするが、他に適切な言葉が無かったのであろう。
これは、結構面白かった。なんていうか人や周辺の魔力は、微妙に違うってのが、感じられた。
なんていうか自分の中に、五感とは違う感覚ができたみたいで面白い。
昼食の後に、外に出るってことだったので、アリスちゃんに言って村長の家に向かってもらった。
朝まで忘れていた自分も何だが、人の家を壊して一言も言わずにいるのは流石にまずい。
と思ったが、結構あっさりと許してくれた。
それより、「これから修行や言葉を覚えたり色々大変だろうけど頑張って」と励まされた。どうやら、懐が広い人だったみたいってのあるが、俺の成長による利益も加味して許してくれたの事なんだろう。
やはり、なにかのトップという人はこうやって先まで見据えられるべきなんだろうと妙に感心した。
その後は当初の予定通り村の散策をしたわけだが、いやー感動したね。
なんか、現実で言えば、確実に田舎何だけど、ソコカシコにファンタジー臭が漂っていて。
飼っている牛や犬はほぼ同じ様な生物かと思えば、周囲の畑に植えてある植物は聞いたことのないものだったりした。
普通に鍛冶屋があるかと思えば、薬屋があるがメインが魔法薬だったり、武器屋や防具屋があるし、魔道具を売っている店もあった。
おまけに、宿屋に酒場なんてのもあった。
なんでも、これらは小さい店舗で都市にいくともっと大きな店があるって話だ。
やっと異世界にきたって実感が湧いてきた。
これだよ。この感じだよ。やっぱり剣と魔法の世界ってこんな感じだよ。
いきなりクマに襲われるなんてファンタジーを通り越して、なんかもう交通事故って感じだよ。
うん。よし。その過去は忘れよう。
兎に角、今だ今。とりあえずこの世界で生きるためにも、この世界で出世するためにも、この世界で楽するためにも、取り敢えず目の前の勉強を真剣にやるとしよう。
そんな決意を新たにできた一日であった。
設定はこってりと、でも修行やその他はあっさりと。
そんなこだわりスープでお送りするお話でした。
いや、あれだよ。
決して修行風景が退屈だとか、ちまちまやり過ぎると話が進まないとか、1000PV記念が未だに出せてなくて焦っているとかそんなじゃ無いんだよ。
ホントダヨ。
ワタシ、ウソツカナイアルヨ。




