第3話
更新遅れました!
「なるほど、つまりお前は昨日までの記憶を全て失ってる記憶喪失ってことだな」
「ご丁寧な纏めまでありがとうございます」
私が必死に伝えようと頑張った10分間がその一言で片付いたことが少し悔しい。きっと弟くんは頭がいいのだろう。美形で頭良いとか……。
「その人を馬鹿にしたような話し方も昨日までの姉貴とは大違いだ」
「私、そんなに馬鹿にしてる?」
「馬鹿ってことに気づいてないのか、馬鹿め」
「弟くんもなかなかに私を馬鹿にしてるよね」
まあ、私も会話の流れをぶった斬ることしたけどさ。ん?そう考えると私達案外似たもの同士なのかも。
「てかその弟くん、って呼ぶのやめろよ。さっきからサブイボが止まんねぇ。キモイ」
「だって私貴方の名前知らないし」
「まあ、聞かれてないからな」
「いや淡白すぎる」
「お前が俺のこと忘れてるだけだろ。これが俺、東条真だ。真実の真で、まこと」
「まこと……………、いい、名前だね。素敵」
ぽつり、とこぼしたその一言で真くんの眉間の皺が増す。
「気っっ持ち悪ぃ!!!!」
そう言いつつも耳が赤く染まっていることに気づかないほど私も馬鹿じゃない。
「あははー、照れなくてもいーんだよ。まーくんよ」
「おい、誰がまーくんだ」
睨むようにこちらをみる真くん。やっぱり年下の兄弟って新鮮だな。
「てか、お前これからどうするんだよ。とりあえず病院にはいくとしても………」
病院かー。私あんまり病院て好きじゃないんだよね。なんか気が滅入る。病は気から、っていうしさ。病院には気がないんだよ。そうだよ。
……って
「え、本当に信じてくれるの?」
「あ?嘘だったのかよ最低だな」
間髪入れずに鋭く突っ込む真くん。彼には天性のツッコミ性分があるとみた。
「いや、本当だけど、だってそんなに嫌そうにしてたから……」
てっきり、嘘だって一蹴されるかと思ってた。
言葉を発する前に息を吐いてしまう。弱々しい情けない声を出したくなかった。
「あのな、確かにお前は最悪女だけど、本当に最悪だと思ってたらそもそも声かけたりしねぇよ。お前だってそんなんでも一応俺の姉貴だからな。やな所を人より多く見てる分、いい所も人より多く見てんだよ。んで、俺はお前の家族だ。お前の性格とかは抜きにして家族のこと信じたいと思うのは当然のことだろ」
ああ、私に弟がいたらこんな風だったんだろうな。
真くんの真摯な瞳と寄せられた眉が私と正面からぶつかってくれてるんだと教えてくれる。幸ちゃんが羨ましいと思う反面、申し訳ない気持ちになった。
「そ、………っか。うへへ。うへへへ」
「その笑い方大分あれだぞ」
「いやー、ごめんごめん!そうだよね!家族だもんね!まーくんみたいな弟がいてよかった!!」
真くんはまたさっきみたいに耳だけ真っ赤になった。そっぽを向いて小さく「まーくんって言うな」と零したその姿に、私はまた小さく笑う。
「うへへ、まあとりあえず病院行ってくるとこからかな?」
「んーあー、まあそうだな。あ、でも今日は姉貴の入学式だ」
「え、そうなの?私何処に入学するの?」
「藤宮高等学校」
なんという因果か!!!
私が憧れて憧れて憧れていた高校に幸ちゃんも入るなんて!!凄い偶然!
なんて私が浮かれていると、真くんは白けたような表情でこちらを見ていた。
「な、なに?」
「いや、姉貴さ。中学からの進級の入学式じゃん?外部から生徒が入ってくるとはいえ、姉貴が辛いままであることに変わりはねぇからさ、無理して行かなくてもいいんじゃねぇかなって」
「?、辛い?藤宮高校にいけるのに?」
疑問符を頭に浮かべる私に真くんは少し困った顔をしていた。
「あー、えっと。姉貴、さ。いじめられてたんだよ」
なるほど、真くんは私の学校生活に不安していて、心配してくれてるのか。確かに幸ちゃんの日記にはそれらしいことも書かれていた。
「んー、多分平気だよ」
「はぁ?お前記憶がないからんなこと言えるんだよ」
「まあ、それもあると思うけど、なんとなく分かるんだ。きっと大丈夫」
他人事だとは思わない。実際私のこれからに大きく左右するしね。これは1度死んだからこそわかる気持ちなのかもしれないけど、どうせ死ぬなら全力でやりたいことやって悔いが残らないようにしたい。幸ちゃんの願いを叶える為には、私の存在意義を表す為には、きっといじめなんて些細なものだ。というか些細なものにする。
「だからさ、とりあえず病院に行くところから始めてみたいんだけど、どうかなまーくん」
「………はぁ、そうだな。とりあえず病院行ってみて、脳とかに影響ないかどうか調べておこう」
てことは今日の入学式は無理な感じですね。残念。まあでも、流石に病院に行かないで平気って言うのは真くん側の気持ちを考えてみると頂けない。
よし!!
真くんが入れてくれたお茶をすべて飲みきって私はソファから腰を上げた。
弟くんも色々考えてて、幸にデレデレなんですかね