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第4話

 それからまた歩いて行くと、少し開けた場所に出ました。モリーらしき足跡がたくさんあります。

「あれが雪の妖精よ」

 モリーが指差す先に、羽を広げた人のかたちの跡がありました。

「この森には妖精がいるのですか?」

 冬の女王様は不思議そうに言いました。冬の女王様は冬を見守る女王様ですが、この国に冬の妖精がいるとは聞いたことがありませんでした。妖精はおとぎ話の中だけにいるものだと思っていました。だけれどこうして跡が残っているということは、この森に棲んでいるのかもしれません。

 モリーは少し離れたところまで行って、こちらをむいて腕を大きく広げ、雪に飛び込みました。そうしてあおむけになって、腕をうえしたに、脚をみぎひだりにバタバタと動かしました。それからそっと起き上がり、ぴょんと飛んで女王様のところへ戻ってきました。

「ほら、あれが雪の妖精よ」

 さっきの雪の妖精の跡と同じものができていました。

「あれはモリーが作ったのですか?」

「そうよ。女王様もやってみて」

 冬の女王様はきれいな雪のところで後ろを向き、えいやっと飛び込みました。雪はふかふかで女王様の体をやさしく受け止めてくれました。それからモリーがやったように手足をバタバタ動かし、そっと起きてぴょんと飛びました。

「女王様のは雪の女王様みたいね」

 モリーの小さな跡よりも大きな跡ができたので、モリーはそう言いました。

「妖精がいるのではなくてモリーが妖精だったのですね」

「あたしが雪の妖精を作ったのよ」

 大きな妖精と小さな妖精が並んで手をつないでいるようです。


「あなたはいろんな遊びを知っているのですね」

「そうよ。毎日忙しいの。春になったらここに白いお花がたくさん咲くのよ。葉っぱがお薬になるからお母さんと取りに来るの。夏はセミやチョウチョを取りに来るわ。秋はキノコがいっぱいよ。冬は雪の妖精を作るの。だから毎日忙しいのよ」

 モリーは胸を張って言いました。

「ではどの季節が一番楽しいですか?」

「春も夏も秋も冬も、みーんな好きよ。だってお花は春にしか咲かないし、ちょうちょは夏にしか飛ばないのよ。キノコは秋にしかとれないし、雪の妖精は雪がないと作れないもん」

 モリーはどの季節も同じくらい好きなようです。それで冬の女王様は嬉しくなりました。


 お昼も過ぎたので三人はまたモリーの家に戻り、冬の女王様の持ってきたサンドイッチと、モリーの母親が作ってくれた野菜のスープを食べました。そのあと家の前で雪合戦をして昨日と同じくらい雪だらけになり、外が暗くなるまで暖炉で体をあたためました。

「女王様、いいもの見せてあげる」

 モリーは冬の女王様を外の窓の下へ案内しました。今日の朝、バケツの氷を置いたところです、モリーの母親がその中に火をともしたちいさなろうそくを入れました。するとバケツの氷はランプのように輝きました。

「まあなんてきれい」

 氷がガラスのように透き通ってろうそくの明かりがきらきらしています。とてもきれいな明かりで、冬の女王様はうっとりしました。

「冬のお祭りはこれをたっくさん作るの。とってもきれいなのよ。でももう終わっちゃったから来年見に来て。女王様もきっと気に入るから」

 冬の女王様は必ずお祭りに行くとモリーと約束をしました。


 次の日も、その次の日も、冬の女王様はモリーと遊びました。川に張った氷のうえでスケートごっこをしました――冬の女王様は転んでばかりであざをたくさん作ったので、お付きの侍女に禁止にされました――。畑の真ん中を横切る動物の足跡をたどって森の奥まで行きました――迷いそうになったのでこれもお付きの侍女に禁止にされました――。雪の妖精をたくさん作って、静かな森の中でそのまま眠りそうになりました――外で眠るのはとても危ないことなのだとお付きの侍女に叱られました――。小さな雪の山でそりすべりの練習をしました――お付きの侍女を後ろに乗せたら怖がって乗らなくなりました――。遊んだあとにはココアや甘酒やしぼりたてのあたたかいミルクを飲みました――お付きの侍女は甘酒が気に入って作り方を教わっていました――。

 そしてある日、モリーは風邪をひいて寝込んでしまいました。冬の女王様は自分のせいだと落ち込んでしまいました。毎日毎日――晴れた日も雪の日も――外で遊んでいたのです。雪だらけで体が濡れてしまい、そのせいで風邪を引いたのでしょう。

「大丈夫よ、女王様。あったかくしてればすぐに治るわ」

 赤い顔でガラガラ声でモリーは言いました。とても辛そうです。冬の女王様も悲しくなってしまいました。

「ごめんなさい。わたくしと遊んでばかりいたから風邪をひいてしまったのですね。外が寒くなければ風邪をひかなかったでしょうに」

「そんなことないわ。夏だって風邪をひくことがあるのよ。冬のせいじゃないわ」

 モリーはなぐさめてくれましたが、冬の女王様は落ち込んだままです。

「女王様にいいものあげる」

 そう言ったモリーの代わりに母親が土の入った鉢をひとつ持ってきました。

「あたしの好きなお花なの。たくさん持ってるからひとつあげる。春になったらかわいいお花が咲くのよ」

 モリーはやっぱり春が待ち遠しいようです。だから冬の女王様はますます悲しくなってしまいました。

「このお花はね、冬の冷たい空気にあてないとだめなの。そうしないとあったかくなっても咲かないの」

 そんな花があるのでしょうか。花はみんなあたたかくなったら咲くものです。冬の寒さは植物を枯らすだけです。だから冬は寂しい季節なのです。

 信じられない顔をしている冬の女王様にモリーは言いました。

「ほんとよ。ちゃんと冷たい風にあてなかったお花は咲かなかったもん。だからいつも冬になってから土に埋めるのよ。女王様のは何色のお花が咲くか楽しみね」

 モリーは嘘をつく子ではありません。冬の女王様がもらった鉢からはモリーの好きな花が咲くのです。何色の花が咲くのかは、咲いてからのお楽しみです。冬の女王様は嬉しくてわくわくしました。

「それなら早く春の女王と交代してあたたかくしてもらわないといけませんね。モリーの花が咲くのが楽しみです」

「春の女王様と交代してしまうの?」

「そうしないとこの花が咲きません。モリーも元気になりません」

 モリーは寂しそうでしたが、冬の女王様は嬉しそうです。


 クリーム色の塔に帰った冬の女王様は春の女王様に手紙を出しました。


 冬がとても楽しいことを知りました。教えてくれたのは小さな女の子です。冬にしかできない遊びをたくさん教えてくれました。雪だらけになって遊びました。ココアという飲み物を知っていますか? とても甘くておいしいのです。雪だるまや雪うさぎも作りました。冬がないと作れないものです。氷のランプの作り方も教えてもらいました。とってもきれいです。教えてくれた女の子は冬も元気に遊んでいます。素敵なプレゼントももらいました。たくさんたくさんもらいました。約束通りあなたと交代しましょう。お待ちしています。


 春の女王様は手紙を読んでほっとしました。冬の女王様の悩みがなくなったからです。これで冬は終わるでしょう。さっそく支度をしてクリーム色の塔に向かいました。塔までの道のりはよく晴れておだやかです。これも冬の女王様の悩みが消えたおかげでしょう。

「こんにちは、冬の女王。悩みはすっかりなくなったようですね」

 冬の女王様はにこにことして揺り椅子から立ち上がりました。

「こんにちは、春の女王。とても楽しい冬を過ごしました」

 冬の女王様は春の女王様にココアを入れてあげました。

「これがココアです。甘くてとてもおいしいですよ」

 春の女王様もココアを飲んですっかり気に入ってしまいました。

「体があたたまりますね。とってもおいしい」

 それから二人はたくさん話をしました。冬の女王様はモリーと遊んだたくさんのことを春の女王様に教えてあげました。春の女王様はにこにことその話を聞いています。冬の女王様はモリーにもらった鉢植えの花を見せました。

「冬がこないと咲かないお花だそうです。冷たい空気にあてて、それからあたたかい春が来たらお花が咲くそうです」

 冬の女王様はその鉢を春の女王様に手渡しました。すると表面の土がもこもこと動きました。モリーの花が春を感じているようです。

「あらたいへん。まだ春が来ていないのにお花が咲いてしまいそう」

 春の女王様はモリーの花を冬の女王様に返して、それから二人はさようならと手を振って別れました。


 こうして冬が終わり、春になったのです。

 このときから冷たい風はあたたかさを運んできて、太陽はキラキラと輝き、積もった雪をどんどんとかしていきました。地面からはカエルやネズミが顔を出し、植物の芽も出始めました。モリーの花も芽を出しました。冬の女王様のお屋敷の窓辺に置いてある鉢からは、かわいい赤い花が咲きました。冬の女王様はモリーにそのお花の絵をかいて送りました。そしてまた冬が来て春が来るのを楽しみにしました。


 そうそう、王様のほうびは何だったのでしょう?

 モリーは冬の女王様のような真っ白な帽子と手袋とマフラーを欲しがりました。だからたくさんの真っ白な毛糸が届きました。そして少し大きなそりも。冬の女王様とモリーが乗ってもひっくり返らないくらいのそりです。

 来年の冬もモリーと冬の女王様の楽しい笑い声が聞こえることでしょう。


お付き合いくださいましてありがとうございました。

童話は初めて書きましたが、子供の目を意識して書くのがとても楽しかったです。

子供のころに大好きだったお話を思い出しながら書きました。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

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