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第1話

 世界の真ん中より少し北の国に、季節を見守る女王様が住んでいます。

 春には春の女王様、夏には夏の女王様、秋には秋の女王様、冬には冬の女王様が、クリーム色の塔に順番に住むことで、北の国の季節は巡っていきます。

 ただ、今年の冬はちょっと長いようです。クリーム色の塔にはまだ冬の女王様が住んでいるからです。


 人々は冬が終わるのを待っていました。凍える冷たい風が家のドアを叩かなくなるのを、買い物へ行く道が雪に埋もれなくなるのを、すぐに日が落ちて急いで家へ帰らなくてもよくなるのを待っていました。


 春の女王様はどうしたのでしょう。冬の女王様と交代してクリーム色の塔に住めば、春はやってくるのです。


 人々は春が来るのを待っていました。雪が解けた畑に小麦の種をまくのを、牧草の芽の出た原っぱに牛を放すのを、町で知り合いと「やあ、あったかくなったね」とあいさつするのを待っていました。


 春を待つのは人間だけではありません。子供を育てているクマはお腹を空かし、恋をしたい鳥たちは歌も歌えず、木も花も芽を出すのをがまんしています。

 このまま冬が続けば食べ物はなくなり、寒さに凍りつき、だれもかれも――動物たちさえも――家に閉じこもってふさいでしまいます。


 そこで世界の真ん中の国の王様は女王様の住む塔に騎士団を送りました。冬の女王様を説得して春の女王様と交代してもらうのです。


 騎士団は女王様の住むクリーム色の塔へ出かけました。都から出るとすぐそこはとても広い原っぱです。草が揺れ、花が揺れ、ちょうちょが舞い、小さな動物たちが飛び、走り回る素敵な草原です。今は冬ですから、ただ一面真っ白な雪景色です。遮るもののない雪原には強い風が吹き、雪を飛ばして馬の足跡もすぐに消してしまいます。騎士団が先へ進めば進むほど風は強くなり、吹雪いて目の前が真っ白になりました。何も見えなくなり、騎士団はもうそれ以上進めなくなりました。

 仕方なく都に引き返して王様に報告しました。すると王様は、今度は春の女王様のところへ行くように指示を出しました。春の女王様が冬の女王様と交代すれば冬は終わるのですから。

 騎士団はまた馬に乗って出かけました。


 春の女王様は都を出て東の大きな川を渡った先の、水色と桃色のお屋敷に住んでいます。お屋敷に近づくにつれて風はゆるくあたたかく、雪もほとんどありません。ところどころに小さな紫の花も咲いています。野うさぎや野ねずみが元気に外を走り回ってもいます。

 お屋敷に到着すると、春の女王様は騎士団をあたたかく迎えてくれました。

「女王様、私たちはあなたにお願いがあってまいりました」

 騎士団長がそう言うと、春の女王様は困った顔をして言いました。

「わかっています。冬の女王のことですね」

「そうです。このまま冬が長引けば、人間どころか動物も植物もみんな凍り付いてしまいます。どうか冬の女王様と交代してください」

 けれども春の女王様はゆっくりと首を振りました。

「冬の女王がどうして塔から出てこないのか、どうしてわたくしと交代しないのかわからないのです」

 春の女王様は悲しげに続けます。

「いつものように塔へ行ったのですが、たどり着く前にひどく冷たい風に吹かれ、雪が木の上まで積もってそれ以上進めなくなったのです。冬の女王がわたくしを遠ざけているのです」

 その理由は春の女王様にもわからないと言います。

「ですが、みんな春がくるのを待ち望んでいます。どうか冬の女王様を説得してください」

 春の女王様は困って悩みました。

 説得するには冬の女王様の住む塔へ行かなくてはなりません。けれども春の女王様はたどり着けないのです。

 どうしたらいいのかと悩んでいると、騎士団のひとりが言いました。

「夏の女王様にご相談されてはいかがでしょうか」

 それはいい考えだと春の女王様は手を打ちました。春の女王様がひとりで悩むよりいい考えが浮かぶかもしれません。

 春の女王様はさっそく騎士団と一緒に夏の女王様の住むお屋敷へ出かけました。


 夏の女王様は都から南に離れた森の中の、緑と白のお屋敷に住んでいます。お屋敷に近づくにつれて、草や木の葉が青々として風に揺れていました。木には赤い花も咲いています。蜜を飲みにきたのでしょうか、ハチやちょうちょも飛んでいます。

 お屋敷に到着すると、夏の女王様は春の女王様と騎士団をあたたかく迎えてくれました。

「夏の女王、あなたに相談があってまいりました」

 春の女王様がそう言うと、夏の女王様は困った顔をして言いました。

「わかっています。冬の女王のことですね」

「そうなのです。早くわたくしと交代しないと冬が終わらないのです。人にも動物にも植物にも、それはよくないことです」

「そうですね。あなたが交代しないとわたくしの順番も回ってきません。それはこの国にとってよくないことです」

 ではどうしたら冬の女王と交代できるのか、春の女王と夏の女王は何時間も話し合いました。ですがいい案は浮かびませんでした。

「秋の女王様にもご相談されてはいかがでしょう」

 騎士団のひとりがそう言うと、春の女王様、夏の女王様は、手を取り合って賛成しました。


 春の女王様、夏の女王様はさっそく騎士団と一緒に、秋の女王様の住むお屋敷へ出かけました。

 秋の女王様は都から西に離れた丘の上の、赤と黄色のお屋敷に住んでいます。お屋敷に近づくにつれて枯葉がくるくると道で踊っているのが見られました。リスは口いっぱいに食べ物を詰めて、小鳥は木の実をつついています。畑の作物は大きく実り、小麦の穂がさらさらと揺れています。

 お屋敷に到着すると、秋の女王様は春の女王様と夏の女王様と騎士団をあたたかく迎えてくれました。

「秋の女王、あなたに相談があってまいりました」

 夏の女王様がそう言うと、秋の女王様は困った顔をして言いました。

「わかっています。冬の女王のことですね」

「そうです。春の女王が塔に行けなくて困っているのです。冬の女王はどうして交代をしないのでしょう」

「それはわたくしにもわかりません。何か悩みごとがあるのかもしれませんね」

 その悩みごとが何なのか、春の女王様も夏の女王様も秋の女王様もまったくわかりません。四人の女王様たちはとても仲がいいので、しょっちゅうお茶会をしたり、ピクニックに行ったりします。もちろん、困ったことがあれば助け合います。だけれど、冬の女王様が何を考え、何に困り、何を悩んでいるのか三人の女王様たちにはわかりませんでした。

「冬の女王様のお屋敷に行ってみるのはどうでしょう。使用人たちが何か知っているかもしれません」

 騎士団のひとりがそう言うと、女王様たちは口々にそうしましょうと言いました。

 三人の女王様たちはさっそく騎士団と一緒に冬の女王様のお屋敷に向かいました。


 冬の女王様は都の北側にある湖のそばの、青と銀色のお屋敷に住んでいます。今はクリーム色の塔に住んでいるので、お屋敷には使用人たちが留守番をしています。

 お屋敷の周りは粉雪が舞ってキラキラときれいです。湖も凍りついてとても静かです。どこかで鳴く鳥の声が響くばかりです。

 お屋敷に到着すると、使用人たちは三人の女王様と騎士団を丁寧に迎えました。

「あなたたちに尋ねたいことがあります」

 春の女王様がそう言うと、使用人たちは深く頭を下げて言いました。

「わかっています。冬の女王様のことですね」

「そうです。冬の女王はなぜ塔から出てこないのですか。何か悩んではいませんでしたか。あなたたちは何か聞いてはいませんか」

 使用人たちは頭を下げたまま黙ってしまいました。使用人がしらの男性が思い切ったように一歩前へ出て言いました。

「私たちにもまったくわかりません。塔に住む期限が過ぎても冬の女王様はお帰りになりませんでした。一度お迎えに行きましたが、期限を延ばしたのでまだ帰らないと言いました。それからひと月たちましたが、女王様はまだお帰りになりません。こんなことは初めてなので、わたしたちも心配しています」

 使用人がしらの話は初めて聞く話でした。


 冬の期限をのばす。


 そんなことは三人の女王様たちは一言も聞いていませんでした。冬がのびるということは季節の移り変わりが変わってしまうということです。春に春がこないで夏が春になり、秋がこないうちにまた冬になる。季節はめちゃくちゃです。

「困りましたね。なぜ冬の女王は勝手に期限をのばしたのでしょう」

 秋の女王様がそう言うと、夏の女王様も、

「何か理由があるのでしょう。その理由をつきとめなくてはなりませんね」

 と言い、春の女王様も、

「もう一度塔に行ってみます。冬の女王に理由をたずねましょう」

 と言いました。使用人たちはどうかお願いしますと三人の女王様に頭を下げました。


 女王様たちと騎士団はまた白い原っぱを通って、冬の女王様の住むクリーム色の塔を目指しました。何もない原っぱに吹く風は強く冷たく、女王様たちも騎士団も凍えそうです。雪が飛んで目の前は真っ白になり、塔にたどり着く前に一歩も進めなくなってしまいました。

「これでは前へ進めません。引き返しましょう」

 騎士団長がそう言うと三人の女王様は首を横に振り、

「冬の女王に会うまでは帰れません」

 と騎士団の前へ出て先に進みます。進めば進むほど風は強くなり、吹雪いた雪が行く手に山を作り始めました。

「冬の女王! 風を止めてください! あなたと話がしたのです!」

 春の女王様が風の音に負けないくらい大きな声で言いました。

「冬の女王! 雪を止めてください! あなたと話をしにきました!」

 夏の女王様も吹雪と一緒に消えてしまわないように大きな声で言いました。

「冬の女王! 私たちを通してください! あなたの話が聞きたいのです!」

 秋の女王様も寒さに震えた大きな声で言いました。

 少しすると風が弱くなってきました。そよ風くらいになると、目の前にあった大きな雪山がどんどん小さくなっていきました。馬が通れるほど低くなって、三人の女王様と騎士団は冬の女王様の住むクリーム色の塔へ向かうことができました。


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