手記 1
記憶。
────。
倒壊したビル。息耐えたり、風前の灯となっている仲間。かろうじてぶら下がるようについている階段の下の階は瓦礫で埋まっている。
見えた空は曇り。太陽の陰った世界。
そして目の前の、『絶望』。
「………。」
彼は何も言わない。私も何も言わない。
彼は私を、心底辛そうに─だがそうしなければいけないとでも言うように─伏せ目がちに、私の瞳を見た。
彼の右腕は見るも無惨に引きちぎれ、床にころがっている。だがそれを彼が気にする素振りはない。視線は私にのみ注がれていて、彼の世界にはもうその腕は存在しないのだ。
なぜか。いや、愚問だ。
めき、と音を立てて、抉れた肉の隙間から、白い骨が早回し映画のように現れた。そのまま、関節、筋が這うように伸びて教科書通りに収まる。そう、パズルだ。一つ一つの部品が、あるべき場所へと。
それがすっかり完成して、彼は居直る。
彼が恐る恐る、手に、ツールナイフを降り下ろす………。
キィン。
『絶望』は、絶望する。
「────もう、サヨナラだ」
私は手を伸ばすことすらしないまま、飛び降りる彼の背中を見送った。
そんな資格、私にはないのだから。




