毒師─APPLE─
バツン。
突如、天井裏から轟く異音。ハッとして見れば、カメラに点っていた赤色LEDが輝きを失って沈黙している。恣意的なのか、それとも何か意図があるのか……?
「どうだっていい」
力任せに殴り付けると、レンズの破砕された欠片が白々しく地面に落ちていった。振るった拳を解いたと同時、視界が歪んで、全身が溶けるように虚脱する。もう、立ち上がる気力もない。
「──夢」
相当に苦しんで逝ったらしい。普段きつく絞られた眦は苦悶に歪み、唇の皮は噛みきれていた。腹部と頭部、致命的な二つの生傷からは、依然として原色のような赤が流れ出している。
そのなかで、未だ濁らぬ翡翠のような瞳と絹のような長髪だけが場違いに美しく煌めいていた。そこだけは、生き生きとしていた。最後の最後まで素直になれなかったとでも言うように。
瞼を、人差し指でそっと下ろす。濁った瞳を見たら、おそらく、自分はそれこそヒトの気で居られないような気がしたから、そうした。自己満足。
そこまでしておいて尚、納得のいかない自分がいる。
「馬鹿野郎、起きてこいよ」
振り絞る。
首筋に手をやって脈を取る。何回やってきたか解らないその動作が、酷く拙くなってしまう。それは、親の手を握る赤子さながらに。
「────ぁ」
こんなことが?
一秒。跳ねる。
「おい、マジか──」
微かに、まだ、脈を打っている。幻ではない。確かにこの指の下で、血液は流れている!
途端、冷や汗が吹き出してきた。
救えないのに目の前にいる、ということ。その重大さ。重み。葛藤と紛擾───その全てが俺を雁字搦めにする。それは、夢が背負っていたもの。今まで、ずっと、ずっと一人で。
舌噛んで死ね、と。あれは慈悲だったのかもしれない。
看取ってやりたい。が、今この一秒ですら俺は焦慮に焼かれている。
血の色。目に焼き付いた、自分にはもう無いものの色。反対に、何色にでもなれる、透明───それは。
あぁ、夢の持っていた色だ。
全ての鎖がほどけたような気がした。背負おう、俺が全て任せてきた分を。
俺は夢の体を抱き起こす。その体は、少しだけ軽い。暖かい。
夢は怒るだろうか。
俺はぐちゃぐちゃに売れた林檎のような脳漿に口付けて──芳醇に血の臭いがする──目を、閉じた。
ガチリ、と歯を噛み合わせると同時。
息の詰まる激痛が、世界を塗り潰した。




