毒師─” “─
「──は?」
死ねないから、ここにいるんじゃねぇか。
殺してもらいたいから、生きてたんじゃねぇか?
暫く考えは低回して、あぁ、そうかと行き着く。
つまり、
“自分で死ぬ”ことは、
──いつでも出来たのだ、と。
腑にすとんと降りてきた余りにも単純な事実。気づかなかった自分は何て盲目に過ごしていたのだろうか。
依然、電話口からは息の音がする。足元には、深紅が転がっている。噎せ返るようだった血の臭いも殆ど感じなくなって、激情だったなにかが萎んで空気に溶けていった。
「あぁつまり、ご自分でどうぞ舌噛み千切って死ねってか」
鋼鉄の檻。俺の、否、俺達の、棺桶。
生きたい夢が死に、死にたい俺が残った。後にはなにも残らない。エクスマキナの大団円──?
───────プツッ
画面、暗転。
モニター越しには何も映らない。カメラを壊したのだろう。意図は分からないが、実害はない。所詮カメラはカメラであり、それ以上でもそれ以下でもない。
背凭れに預けていた首を起こして回せば、凝り固まった筋肉が悲鳴を上げて軋んだ。
「あぁ、報告──」
言いかけ、違和感を感じる。
チクッとした首筋への痛み。
どうも、体がうまく動かせない。椅子に座っているはずなのに、急に体に浮遊感が伝わってくる。景色は、変わらない。
視界に影が落ちる。気配もなく、声もなく、あるのはただ恐怖。輝夜で味わったような感覚、突如降って湧いたような危機感──『既視感』。
「裏切りもの」
その声は。なぜお前が。何のために。
「僕は彼女と約束したのに」
シャキン、とハサミの音がする。金属と革が擦れる音がする。絶え間なく、絶え間なく。二本の腕では足りないだろうに、そんな音は途切れることがない。
「僕は──“人”となんて居たくないのに」
くるり、と俺は椅子に回されて後ろを向いた。丁度、声の主が立っている。
「や──しゃ──────?」
夜叉斗は、躊躇いなく俺の唇に縫合糸を通した針を突き刺した。血飛沫が飛んで、視界にパッと赤い色が散る。
幼稚園児のような感情まかせな動きで、縫い合わされていく。
「そんなの、」
「酷いよね」
『酷い酷いよ僕はこんなにも渇望しているのに飢えているのに今にも自分の腕を指を目を噛み砕いてしまいそうになっているのにどうしてそれを取り上げるんだいやめてよ持っていかないで僕は何も持っていない与えてくれないと何もない命も無い無い無い無い何も無いからせっかく与えてくれる約束だったのに全て台無しになってしまった僕はもうあの虚ろで腐った目のうろと見つめ合うこともずるりと皮の向けた手と握手することもできなくなってしまうそんなの耐えられないしあっていいことじゃないなんで壊してしまったんだ全て全て生きている世界なんて嫌いだ死にたくない生きていたくないそれでも死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全ては』
なにをいっているかよくわからないが
───もう、何も聞こえない。




