プロローグ─Cl2─
舞う粉塵の津波に、俺は思わずヘルメットを庇うように腕を交差させた。
至近距離の爆発に、右耳がやられたようだ。関節や筋肉の駆動音が鮮明になる。
「────!───────!!」
先行した仲間が、何やら叫びながらこちらへ走ってくる。よく聞こえないが、多分、緊迫した声。ガチャガチャと鳴る装備に動きを奪われた彼の動きには、普段の俊敏性がない。
直感的に。
俺は、防弾ベストを脱ぎ捨て、ヘルメットもかなぐり捨てて走り出した。無意識、夢の中のよう。仲間の声は遠ざかる。
「......──!.........ッ...............!!」
瓦礫が道を阻む。退路を奪われた。やはり、奴は、バケモノじみている。まるで、心に棲んでいるかのような...............
無我夢中で瓦礫を駆け上る。ヘリだ。ヘリポートを目指せばいい。止まったエスカレーターを駆け上がる。崩れた吹き抜けを這い上がる。
ぶしゅ、という異音。
刹那、眼下が薄緑色に染まる。
恐怖に引きずられるまま、上へ、上へ、上へ............
下から声が聞こえる。呻くような、助けを呼ぶような、慟哭のような...............雑多煮された感情の坩堝。走る、登る、走る、
次第に静かになっていくショッピングモール。場違いに明るい店内BGMが、セールの文言を読み上げる。
さてその中に、俺は一つの音群を聞き取った。
硬質な靴底が床を叩く音。手の汚れを払う音。そして、底抜けに明るい笑い声。
いや、驚くべきは違うところにある。
彼が平然と現れた事だ。
───霧の中を、清々しい顔で歩いて。