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第6話 出会い






時刻は午前11時。

英語にするとAM11:00である。


目を覚ましてよーと有名な歌が流れてしまうような時間帯に起床した。


昨日高梨さんが帰ってから、俺は愛華との距離感をずっと考えていた。


思考が落ち着く頃には既に午前2時を回っており、疲れていた俺は一瞬で眠りへと着いた。


その所為で、俺はこんな時間に起きる事となった。


俺の生活習慣は大丈夫だろうか?


今日はなるべく早く寝るか……などと考えていると玄関が開く音が聞こえ、『ただいまー』と疲れた声が聞こえてくる。


祐美さんが仕事からお帰りになった。


ってか朝帰りとか、この人は一体なんの仕事をしているのだろうか……と気になった。


「おかえりなさい!」


「うわっ、びっくりした。 アンタまだ居たの? 愛華ちゃんとは会いに行かないのか?」


「さっき起きたので……。 もう少ししたら行きますよ。 それより祐美さんって一体なんの仕事してるんですか」


「敬語はやめろ、堅苦しい。 それと呼び方もな。 前にも言ったろ……って覚えてないのか。 仕事は夜間警備をしている………意外か?」


夜間警備………。

意外も何もイメージと合致し過ぎている。

なんか、休日とかに男と混ざってサバゲーやってそうだな……この人。


「う、うん、 分かった。 前の俺は祐美さんの事なんて呼んでたんです………呼んでたの??」


「祐美姉ぇと呼んでたけど、どうする? この際お姉ちゃんとでも呼んでみるか?」


祐美さんはイタズラな笑みを俺に向け、からかってくる。


この人、俺が本気でお姉ちゃんと呼ばないと思っているのか?

姉属性を好みとする俺からしたら、そんな事に対して羞恥心の欠片も感じないというものだ、ってこれ自慢気に言う事じゃなかったですね………。


「それじゃお姉ちゃんって呼ぶ事にする。 お姉ちゃん、おはよう。」


祐美さんは驚いた顔をしながら、少し頬を赤くすると、あわあわしだした。


「おっ、おい、本当にそう呼ぶのか!? さすがにこの歳でそんな呼び方されたらこっちが恥ずかしくなるだろ……」


「いや、お姉ちゃんがそう呼んでもいいって言ったから」


「悪かった。 せめて前みたいに祐美姉と呼んでくれ」


祐美さんは慌てながら俺に頭を下げた。


やだ何これ!、ちょー楽しいんですけど。

この人もしかしたら、からかわれる事に慣れてないのかもしれない。


我が姉のギャップに俺の頬は自然と笑みを浮かべてしまう。


俺の様子をみた見た祐美さんは頬をうっすらと染めながら俺を睨む。


「な、何が可笑しい。 人の顔見て笑うのは失礼に値するぞ馬鹿者め」


「いや、祐美姉ぇのイメージとは少し違ってたから。 もっと怖い人かと思ってたよ」


「失礼な。 一体私のどこを見て怖いなどと思ったんだ? お前の目は節穴か」


いや、きっと誰が見てもヤンキー系女にしか見えないと思うのだが。


祐美さんは気だるそうに伸びをすると、胸ポケットからタバコを取り出し火をつける。

その仕草は様になっていて、渋いな…とかんじてしまう。


俺はふと疑問に感じ、祐美さんに問いかける。


「祐美姉ぇって付き合ってる人とかいるの?」


その時、祐美さんのタバコを吸う手が止まった。


あれ?………怒っていらっしゃる?


「あ? 居ないけどなんか文句あるのか? 居ない事が何故悪いと見なされる?」


彼女は眉間に皺を寄せながら鋭い視線を俺に送る。


これはもう完全なるヤンキーである。

なんだっけ? こうゆうのメンチを切るって言うんだっけ?


スーパーのお惣菜コーナーで働いてる人はさぞかし恐ろしいのだろう…。


俺的にはメンチよりトンカツの方が好みなのだが。


「いや、別に文句はないし、悪いとも言ってないけど……ただ気になって」


「『あ、この人彼氏いなそうだな…』とか思ったんだろ…。 ほっとけ!! 」


この人は彼氏が居ない事を相当気にしていらっしゃるらしい。


まだ若いんだからそんなに気にすることないのに……。


あれ?、そういえばこの人何歳だ?


「いや、思ってないから…。 そういえば祐美姉って歳幾つ??」


「ん?、25だ。 優希も歳は同じだぞ?、元同級生だからな」


なん…………だと?


祐美さんは置いといて高梨さんが25歳だったとは意外過ぎる。


大学生くらいかと思っていたのだが……、 人は見た目で判断してはいけないとはこの事だ。


祐美さんは眠そうに欠伸をすると、手に持っていたタバコを携帯灰皿の中に入れる。


「それじゃあ私はもう寝る。 アンタも愛華ちゃんの所に行くなら気を付けるんだぞ」


俺はそれに『うす』と答えると、彼女は眠そうに就寝室へ向かっていった。


祐美さんは、記憶を失った俺をどう思っているのだろうか。


やはり記憶を失う前の俺と比べてとっつきにくいと感じてるだろうな……。

人間とは育ってきた環境の違いで多種多様な性格へと変貌する。そして、変貌した結果がその個人の結果になり、証になる。


つまり、俺と現実世界の俺は紛れもなく同一人物ではあるが、全く一緒と言う訳ではない。


果たして、他人から見た場合の、その小さな違いはどう捉えられるか。

少し違うからこそ、違う人物だと捉えられるか、少し違うだけなら同一人物と捉えられるかの二つである。


俺は、この世界の人達にどちらとして見られているのだろうか。


まぁ、どちらにしても俺がする行動、しなきゃいけない行動は一つ。


それでも俺は、この現実世界で生きて行くと言う事だ。



ーーーーーーーーーー



ーーーー



ーー







俺は今、神宮寺中央病院へと赴いていた。


相も変わらず外はカンカン照りだったせいもあり、大量の汗を掻いていた俺からしたら病院内は天国だった。


いやぁー、エアコンを発案した人はもっと称えられるべきだと思う。


THE 一家に一台欲しい家電コンテストに優勝するのではないだろうか。


なんだ、その頭の悪そうな名前のコンテスト……………。


俺は一休みすると、愛華の病室へと向かう。


途中、この前話し掛けて来たナースさんが歩いていたので、俺は見つからないように移動し、病院に辿り着く。


え? なんで見つかりたくないかって?

そりゃ面倒くさいからですよ。


なんかあのナースさんのテンションの高さが苦手なんだよな……。


嫌な事からは逃げる、これ鉄則。


カードをかざして部屋の中に入った俺は真っ先にベッドの上にいる少女に目を向ける。


彼女は身体を起こしながら眠いのかうとうと、と船を漕いでいた。


相変わらず可愛いな……この子は。


心の中で呟く俺は無言でカメラを構える………ってやめいっ!!


構えるなっ!


何考えてんだ俺、捕まるって!!

いや、でも彼女だから大丈夫なのか?


いやいや、盗撮は盗撮。

盗むの字が使われてる時点で犯罪である。


そんな事をしていると彼女はふ、と俺の存在に気付いた。


すると彼女の表情は途端に明るくなり、俺に笑顔を向ける。


「幸也くん来てくれたんだっ!! 待ってたよ!」


「あぁ、まぁ一応な」


「一応とか言わないでよー。 でも…嬉しいから、許す!」


何この子、めちゃくちゃ可愛いんですけど。

なんなの? もしかしてわざとやってるの? 小悪魔なの?


愛華はおいでおいでと自分のベッドの端を叩く。


俺はそれに従い大人しくベットに座ると、彼女は俺に抱きついて来た。


「会いたかったよー! 今日も来くれてありがと」


いや、マジでやめてっ!

また暴走しちゃうからっ!!

俺を犯罪者にしないでください。


『幸也くんの匂いがする』と幸せそうに呟く彼女を尻目に俺は深い深呼吸をする。


そう、俺は今日この子に言わなければならない事がある。


愛華と俺がしっかりと本当の意味で向き合う為に……。


「なぁ、愛華? そうゆうの止めにしないか?」


彼女は俺の言葉を聞き、動きをピタリと止めたと同時に抱きつく事をやめてシュンとする。


「ごめん……迷惑だったよね…」


「いや、そうゆう意味じゃなくて。 もうこういう風に恋人みたいな事をするの、やめにしない?」


俺の発言で部屋の空気が一瞬で変わるのが分かった。


「なんで……なんでそうゆう事言うの? 私の事、嫌いになっちゃった?」


「いや、違う。 俺が愛華が好きでいる五木幸也とは別の人物だからだ。 記憶を失った俺が愛華とこういう関係にあり続けるのはおかしい」


そう、結局俺は俺であり、俺でしかない。

俺は彼女の好きな俺では無い。

なのに、それになりすまして付き合いを続けるのは間違っている。


だから、俺はこの関係性を一度ぶっ壊す。


そして、新たな関係を構築する。


「だから、最初から始めよう」


意味が理解できない愛華は、涙目になりながら俺に問う。


「んと……どうゆう事かな?」


「つまり、俺と秋山は今初めて会ったって事。 そこから始めよう」


そうすればきっと、俺は彼女を……仮想世界内でずっと好きでいた愛華にそっくりな彼女の事を好きになるだろう。


いや、今だって好きだという感情はある………だが、それに戸惑ってしまうのもまた事実。

いきなり付き合っている、という関係をぶっ壊して、最初から積み上げていけば戸惑う事もなくなるだろう。


「それじゃあ、私が今幸也くんを好きでいる気持ちはどうしたらいいの?」


愛華の瞳からはついに大粒の涙が流れ出した。


「ごめん、それはどうしようもできない、俺の記憶はもう戻る事はないらしい。 俺は、秋山に俺の代わりとして俺を見てもらいたくはない、俺を俺として見て欲しい」


愛華は泣いた事により腫れた目を見開き俺の事を見つめる。


しばらくの間、俺と彼女は無言で視線を交わしていた。


すると愛華はややあって瞳を閉じ黙考を始める。


彼女は今何を考えているのだろうか、少なくとも俺が今言っている事は極めて自己中心的であり、最低な事だ。


そんな発言をした俺を軽蔑でもしているのだろう。


やがて彼女はゆっくりと瞳を開き、屈託のない綺麗な笑顔を向ける。


「初めまして、五木くん。 良かったら私とお友達になってくれませんか?」


軽蔑されなかった…………。

彼女はこんな事を言った俺を認めてくれた。


その事がどこまでも嬉しかった俺は、無意識の内に笑顔になってしまう。


「初めまして、秋山さん。 こちらからもお願いします、友達になって下さい」


俺達は、今此処で初めて出会った。

形だけかもしれないが、俺がこの世界の中で本当の意味で出会った最初の一人。


人と人との出会いとは奇跡である。

何億分の一の確率だなんだとありきたりな事を言うつもりはない。


だが、きっと偶然が重なり合い形となった物は奇跡といっても過言ではないだろう。


だから俺は必然的に、少し歪な出会い方とはいえ今奇跡を起こしたのだ。


どうも、みなさん!


牧野悠です!!

見て頂いてありがとうございます。

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