第3話 家族
結局、俺はあれからすぐに高梨さん
に電話をかけて自宅まで案内してもらった。
そして、俺はその自宅を見て目を丸くした。
自宅の前で立ち止まる俺を見た高梨さんは心配そうな顔で訪ねた。
「五木君? どうしたの?」
彼女の問いに、俺は抱いた疑問をそのまま伝える。
「いえ、現実世界の俺は高校生と聞いたので。 1人暮らしをしているとは思いませんでした」
俺の自宅は、お金のない大学生が借りるようなボロいアパートだった。
てっきり新しいパパンとママンが出てきて初めまして状態になるのかと思っていた俺は凄く拍子抜け状態である。
まぁ、そっちのが気を使わなくていいんですけどね。
その言葉を聞いた高梨さんは途端に暗い表情をした。
ややあって彼女は言いにくそうに口を開く。
「仮想世界内の五木君がどういう状況で暮らしていたかは分かりませんが、現実世界の五木君のご両親は既に他界しています」
言い終えると高梨さんはとても悲しそうな、切なそうな顔をした。
「はぁ……そうなんですか? 」
俺の答えを聞いた高梨さんは、キョトンと目を丸くした。
「何も………感じないんですか?」
「えぇ、まぁ。 何も…」
いや、むしろ感じる方がおかしいのである。
記憶がない状態で、家族は既に他界していると聞いたところで、何も感じない。
いや、厳密に言うなら悲しい感情は襲ってくる。
だが、それはニュースなどで殺人事件の記事を見ている時のような『あぁ、かわいそう』と似たような感覚だ。
高梨さんさ更に表情を暗くして俯くと、小さな声で呟いた。
「本当に……私達の所為で…。 すいませんでした」
「いや、本当に気にしないで下さい! 現実世界の俺がもし家族がいない事を引きずってたんだとしたら、むしろ今覚えてなくて良かったです!!」
すると高梨さんは潤んだ瞳で俺を見上げると『でも……』と食い下がる。
あっ、可愛すぎる。
愛華たんには敵わないが、高梨さんの泣き上目遣いの映像は是非とも永久保存したいものだ。
むしろ布教してしまうまでである。
こんな事を言ってはいるが、これは立派な犯罪である為、よい子のみんなは真似ないでね?
まぁ、とにかく。
きっと高梨さんは今、罪悪感に苛まれているのだ。
優しい人ほど失態を犯してしまった時に責任を取りたがる。
それは何故か。
自分に罰を与えて貰う事によって、罪悪感から逃げる為だ。
なので、俺は食い下がってくる高梨さんに罰を与える事にした。
いやいや、決してエッチな罰を下そうという訳ではない。
…………本当だよ?
そんな事をこれっぽっちも考えなかったかと言えば嘘にはなるが…。
膝枕とか?
頭を撫でて貰うとか?
ってか膝枕や頭を撫でてもらうがエッチな罰とかどんだけ純粋だよ……俺。
脳内で猛烈な童貞思考を繰り広げながら俺は高梨さんに向き直る。
「じゃあ高梨さん? 今度ご飯でも奢って下さい。 それでチャラにしましょう」
俺のばかぁーーー!!
何カッコつけてんだよぉ!!
意気地なし!、甲斐性なし!、スケコマシィーーーーー!!
って、最後のは違うか。
スケコマシ以外を認めてしまう自分の器の広さが怖いです。
高梨さんは少し驚いた顔を見せる。
そして瞳に溜まった涙を指で拭うと『わかりました』と微笑んだ。
本当可愛いな……この人
「それじゃあ、家まで案内してくれてありがとうございました。 おやすみなさい。」
「いえ、当然の事をしたまでです。 何か一つでも気になる事があったらいつでも連絡下さいね。」
俺が『了解です』と答えると高梨さんはタクシーを拾い、帰っていった。
ややあって少し緊張しながら自宅に入ると、部屋の中はとても綺麗に整理整頓をされていた。
あれ?
俺こんなに片ずけスキル高かったっけ?
仮想世界内での俺の部屋は芸術と言ってもいい程散らかり放題だった。
なんならピカソがキャッキャッと言いながら喜んで絵を描いてしまうレベルである。
きっとタイトルは『散らかった部屋』とかになるだろう。
ってそのままじゃねぇーか。
ネーミングセンス無ぇな……ピカソ。
そこで俺は、棚の中にあるカップ麺を発見したので、お湯を沸かし始めた。
これは俺自身の物だから泥棒にはならない………よな?
などと思いながら俺は豚骨味のカップ麺を美味しく頂いた。
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とある病室のベットの上。
黒く艶のある長い髪の毛を弄りながら彼女は窓の外へと視線を向ける。
月明かりに照らされる彼女の相貌は誰もが虜にされてしまうのではないだろうかと思うほど儚く、美しい。
「今日は来てくれなかったな。」
そう呟くと、彼女は悲しそうに近くにある枕をギュゥッと抱きしめた。
まるでその枕を誰かの代わりにするように。
どうも!
牧野悠です!!
見てくれてありがとうございます!!
今回は3話目の投稿です