自宅訪問
「あら? おかえりなさい。退院は今日だったか……し……ら……」
母はリズの姿を視界に入れると、段々声が尻つぼみになって消えた。
「突然お邪魔してすみません」
「急にどうされたんですか? リズルさん。うちの息子が何かしましたか」
※リズルはリズの日本での名です。
俺とリズは現在離れている。
「そこの公園で偶然会って話をしていたら、意気投合しちゃって。家を聞いたら隣だって言うからケーキでも食べながら話そうかと思って……」
俺は一気に説明をした。
母は……。全く信用していない目だ。
「あなたはこの人を知らないかもしれませんが、町内でも『男嫌い』『潔癖症』で有名な人ですよ。偶然会った人と話をすると思いますか。また何かしたんですね」
リズ……。お前は有名人か。いや、この容姿でずっと彼氏がいなかったら、ご近所のいいウワサのネタにもなるか……。
「運命を感じました。息子さんとお付き合いをさせて下さい」
リズさん。褒められてないからね。嬉しそうな顔で突拍子もないことを……。
「ごめんなさいね、リズルさん。よく理解できませんでしたわ、もう一度言って下さるかしら」
「赤さんと結婚を前提にお付き合いをさせて下さい」
今度はリズが俺に抱き付いてきた。そして俺の手を自分の顔に触れさせたり、頭に乗せたりする。
『男嫌い』『潔癖症』で有名な人が、ここまでできる相手はそうはいない。
リズは行動でもって母を説得したようだ。
母もそれがわかったのだろう。絶句していた。
「……とにかく立ち話もなんですから、入って下さい」
リズは第一関門突破しました。と言わんばかりにピースサインを送ってくる。
俺も母に本当のことは言えないから、どうやって説得したらいいか悩んでいた。
まさか自分の短所をうまく利用して説得するとは……。こちらの世界のリズは頭がいいらしい。
「リズルさんが、うちの息子を生理的に受け入れられることはわかりました」
「はい。私も産まれて初めてです。これを逃すと一生結婚できないと思います」
母はため息を吐く。
どうやらすでに退路を断つことには成功したようだ。
「もうリズルさんは成人されていますし、お2人の関係に口を出すつもりはありません。ですが、本当にいいのですか」
「はい。もう決めましたから」
リズはまた抱きついてきた。
俺たちは3人でケーキを食べた。最後の1個は妹の分だ。
リズは自分のケーキを俺に食べさせてくれた。
俺もリズにお返しに食べさせた。
そのやり取りを母は信じられないものを見るように目を見開いていた。
「んじゃケーキを食べたし部屋に行くか」
「はい」
リズが急にしおらしい声を出す。
母は口を開いたが、何も言わなかった。
「ここがご主人様の部屋ですか。宝物はどこですかニャ~」
目がキラーンとなっている。
俺はリズをネコ掴みする。
「まず落ち着け。俺の部屋だが、1年ぶりだ。『潔癖症』なんだろ。外で待ってろ」
「ご主人様の部屋なら平気だと思いますが……」
俺が平気じゃない……。
窓を開けて換気をする。部屋の掃除はされているようで、塵1つなかった。
「全然ご主人様のにおいがしませんね」
そりゃ1年ぶりだからな……。
「エッチな本はどこですかニャ~。私は寛容な方ですよ」
会話の節々に『ニャ~』が出てくるな……。
さっきから興奮し過ぎだ。
「リズは男の部屋に入ったことがあるのか」
「あるわけないじゃないですか。だからこうやって色々観察しているんですよ」
「こっちにおいで」
俺はベッドに座って横を叩く。
リズは一気に顔を赤くする。
「お、お、お、お、お母様が下にいますが……。それにですね、窓も開いてますし……。あ、閉めましょうか……。でも暑いですよね。あれ……おかしいな……」
俺はリズの手を握った。
「落ち着け。何もしないから」
「何もしないのは、それはそれで……、じゃなくて、うー。はい。お願いします」
どうやらもうどうしていいのかわからなくて、パンクしたようだ。
リズは隣に座って、俺の胸に頭を埋めてきた。
「これからはずっと一緒にいられますね。お母様にも許可はもらえました」
俺はリズの頭を優しくなでた。
「この手は幸せです」