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超能力者の魔法大戦  作者: 姫浴衣
6/13

勇貴の見解


 五十分一コマの授業が午前に四、午後に三ある通常の時間割では、放課後と呼べる時間になるのはいつも四時半を過ぎる。

 テスト前などの追い込みの時期になると、授業の進捗が芳しくない科目が八限目にねじ込まれるので、もっと遅くなると聞かされた時には、嫌気が差した。

 みっちゃん先生あたりなら平気でブチ込んできそう、というのがF組の共通見解で、彼女の授業を皆真剣に受けていたのは、究極的なまでに自分のためだった。

 ほとんどの生徒は自主的に部活を決め、毎日楽しく部活動に励んでいるので、その部活の時間が減らされるのは耐えられないらしい。

 本日最後の科目は魔法実技演習で、運動用の制服に着替える時間があるのでさらに終業時間が遅くなる。

 桜光学園では、学年の全てのクラスが同時限に魔法実技の授業をする。

 何も最後の時間にやらなくても……。 と言う思いが全クラスにあり、時間割を決めたどこかの知らない教師はさぞ恨まれていることだろう。

 魔法実技演習は二クラスずつ合同で授業が行われ、そのクラス分けも毎時間違う。

 初めての魔法実技演習はE組と合同で、お互い、魔法の基礎を齧っている程度の知識量で、皆「火の玉出た!」とか「烈風滅豹斬(れっぷうめつひようざん)!」とか言ってそよ風を生み出していたが、本日F組はA組との魔法実技演習であり、その小さな喜びで舞い上がっていたF組生徒の精神を、容赦なしに叩き切っていった。

 A組の生徒の生み出した火の玉は炎の弾と呼ぶに値する大きさだったし、烈風滅豹斬はガチで校庭の砂場を真っ二つにした。

 中でも、やはり横川湊の魔法は目を見張るものがあった。

 たった三週間で目覚ましい成長を遂げていて、早くも複合属性魔法も成功させていた。

 湊の得意属性は『火』で、それ以外の魔法が扱えないものだと勇貴は思い込んでいた。

 しかし火属性と風属性の、炎の渦を生み出す魔法をあっさり成功させて、F組のみならず、A組の生徒ですら畏怖を覚えていた。

 そんな恐怖の大魔王みたいな湊に、勇猛果敢にアタックをしていた人間が二人。

 傍島誠二と達端瑞起だ。

 なんとかお近づきになろうと自分のアピールを続ける二人は、お互いの足を引っ張り合い、遂には魔法合戦にまで突入した。

 二人ともまだ自分の属性すら発見していない――人には必ず得手不得手となる属性が存在する――が、最近覚えたコップ一杯ほどの水を出す魔法や、つむじ風を起こす魔法――掃除のときに便利――を駆使してA組を呆れさせていた。

 目的を失って魔法合戦ショーを繰り広げる二人に生徒たちの注目が集まっている間、湊が勇貴の元へやってきた。

「放課後、部室に集合と佐伯先輩から伝言があったわ」

 必要もないのに声を潜めて勇貴に伝達した。

「なんだろう。いつもは部室に集まらないのに」

 普段、魔法大戦部の部員には放課後に部室に集まる義務はなかった。

 二人は研修の為に初めは通っていたが、研修も終わり、最近では比較的自分の時間を取っても良いことになっている。

「部長自ら集合を掛けてきたんだもの。無視する訳にはいかないわね」

 そう言って勇貴の元から離れていく湊。

 騒ぎに気付いた教師が、傍島と達端に電撃魔法を浴びせたところで、終業のチャイムが鳴った。

 七限目の授業が終わると、ホームルーム開始まで五分とない。

 校庭から皆ダッシュで校舎に帰ると、急ピッチでの着替えを余儀なくされる。

 明日からゴールデンウィークの連休に入るので、ホームルームは幾つかの注意と連絡事項の伝達で終わった。

 ほとんどの部活はゴールデンウィークを使って合宿をする。

 ゴールデンウィークに開催される、桜嶺祭のための部員強化を目的とした合宿で、魔法大戦部も毎年、例外なく行われる。

 大方その話し合いか、――と言ってもゴールデンウィークは明日からなので、決定事項の連絡か――と勇貴は当たりをつけていたが、部室にたどり着くなり、部室内の重々しい空気を感じた。

「やあ市浜くん、お疲れ様」

 佐伯が教卓の前に立って、勇貴に挨拶をした。

「こんにちは」

 扉を閉め、定位置となった逆コの字の黒板と向き合う座席に荷物を置きながら、勇貴は挨拶を返した。

「これで全員揃ったね」

 と、部室を見渡して佐伯が呟いた。

 勇貴から見て左側の隅に日向、勇貴の右隣に湊、そして日向の正面に杉松の姿があった。

 以前名前だけ聞いた『筑紫さん』とやらの姿はなかった。兼部している事しか知らないのだが、こうも顔を合わせない日が続くと――実はまだ一度も顔を見ていない――、本当に存在する人なのかも疑わしい。

 教卓に手をついて佐伯が喋りだした。

「今日皆に集まってもらったのは、ゴールデンウィーク期間に行われる合宿の話――ではないんだ。いや、ゴールデンウィークの話なんだけど、本年度は、魔法大戦部は合宿を開催しません」

「お、じゃあ今年は遊んでられるって事か?」

 船を漕いでいた杉松は、前のめりになり若干の喜びを見せて聞いた。

「残念だけど、自由時間と言うわけはではないよ」

 佐伯の一言に杉松は舌打ちを一つして、残念そうな表情で再び船漕ぎをしだした。

 佐伯は説明を続ける。

「先日の魔法陣騒ぎを僕なりに調べてみたんだ。やっぱり、どうも魔族との係わりは否定できないらしい」

 勇貴と日向は、佐伯のその言葉に頷いた。

「問題は魔族ではなくて、犯人が魔族を用いて何を企んでいるのかと言うこと。 そして恐らく、根拠はないけど犯人は桜嶺祭で何かを仕掛けてくる。 それを阻止するために我が生徒会は、ゴールデンウィークを返上して校内警備と捜査を行う」

「犯人の目星は付いてんのか?」

 杉松は、少し興味を魅かれたかのように机に手をついて佐伯に質問した。

「魔法召喚部と魔法生物部」

 佐伯は二つの部の名前を即答した。

「この三週間、魔法陣を使った儀式を何度も行っている。他にも魔法陣を使う部はあるが、この二つの部は桁違いに多い。それに魔法戦争部の千堂が言っていたが、明らかに異常な魔力を感知することも多々あったらしい」

「どういうことだ?」

 杉松は自分にも分かるよう説明を求めた。

「つまり、悪いことを考えてる人がいるから、気を付けましょうねってことだ」

 あまりにもなおざりな佐伯の説明に、杉松は、

「よっしゃ! ならそいつらをブッ飛ばしてくる!」

 と言って部室から駆け出して行ってしまった。

「あ! 待て! くそ、だからあいつに犯人がどうとか言う話はしたくなかったんだ……。

 日向さん、悪いんだけど、あいつを止めてきてくれない?」

「え? わ、わ、私ですか? 私じゃ、杉松さんを止められないですよ……」

 自身なさげに尻すぼみになっていく日向。

「なら横川さんと二人で行ってくれない?」

「わかりました。日向さん、行きましょう」

 快諾した湊は日向の手を取って、連れだって部室を出て行った。

「私、本当にあの人苦手……」

 小声で呟くように独り言ちて、しぶしぶ湊に従う日向を見ていると、

「なんか姉妹みたいだよね」

 と、勇貴の気持ちを代弁して佐伯が言った。

「さて、市浜くんはあの魔法陣を最初に見たとき、すぐさま魔族のことを推理したわけだけど、その後、何か気にかかることはあったかい?」

 シリアスな口調に戻った佐伯は、今の話も含めての勇貴の意見を聞いた。

「俺は、世界中で起こっている魔力暴走の事故が少し引っかかるんです。時期的に、あの日から事故が起こり始めたような気がしますし」

「魔力暴走? さっきもニュースで取り扱っていた事故のことかい?」

「そうです」

「でも世界中で起きているんだよ? 三週間休み続けている生徒はいないし、いくらなんでも話が飛躍しすぎているんじゃないかな?」

「佐伯さんは、先日の魔法陣事件、どのように解釈していますか?」

 勇貴はここで初めて、佐伯の見解を確認した。

「あの魔法陣は、陣自体は完成していたけど、魔法は発動しなかった。恐らく究極的なまでに魔力が足りなくて、何かが燻る程度の魔法しか出なかった、失敗した魔法。と言うのが僕の考えだ」

 佐伯の見解を聞いて勇貴は、

「やっぱり、失敗魔法だと考えていたんですね」

 と、軽いため息をついて答えた。

「俺の考えは違います。あの魔法陣は失敗なんてしていません。完成していたんです。魔法が発動して、強力な魔族が召喚された。しかし、召喚者は召喚することに魔力を使いすぎて、召喚した魔族を制御しきれなかったのだと思います。それとも魔族の魔力が高すぎたのか。いずれにしろ、魔族は魔法陣を破り、この人間界に逃げ出した」

 ここまで一息に話し、息を吸って最後の一言を付け加えた。

「つまり、あの魔法陣は広義では失敗していたけど、ただの失敗ではなく、暴走した失敗。つまり、魔族は今もまだこの世界に居ます」

 佐伯は黙って聞いていた。黙っていたというよりも、何か自身の恐怖体験を思い出すかのように固まっていた。

「魔族が……。現世に顕れている……?」

「そう考えると、最近の連続魔力暴走事故も納得がいくんです。魔族なら空間を渡ることが出来ます。世界中を時間差なしで移動することも容易いはず。佐伯さんは、今ニュースになっている動画は見ましたか?」

「あ、ああ。観光客が偶然撮ったって言う?」

 問われて思い出すように佐伯が答えた。

「あの連続した魔法陣、最初俺は複数の人間が、それぞれ異なる魔法陣を作成して生み出しているものだと考えました。ですが、複数の人間が犯行を行っているとしたら、あまりにも無目的すぎる。狙われているのは十六年前かその前後に建てられた、あるいは研究チームが発足した研究機関が大方を占めていましたが、その研究機関を潰すことで得られるものは、デメリットの方が格段に多いんです。しかし」

 一度息を吸って、佐伯を見る。

佐伯は勇貴が突拍子もない事を言いだすのではないかと、不安げに勇貴を見ていたが、説明には理解が追い付いているようだ。

「しかし、これらを魔族がやっていた、と考えると、全ての謎に合点がいくんです」

「どういうことだ? 魔族の目的が分かっているのか?」

「図書室で得られた情報だけをもとに考えると、まず、事故にあっている研究機関は皆、空間魔力に関する研究を主にしているところでした。空間魔力の研究が大掛かり的にされるようになったのは十六年前。その時に建てられた研究機関が事故に遭っています。そして十六年前に、空間魔力を増大させる装置が開発されたのですが、何もないところから、魔力が生み出される訳がありません。今もなおこの世界に増え続けている空間魔力は、どこから引っ張ってこられていると思いますか?」

 無から有は生み出せない。それは魔法であってもそうだ。呪文や魔法陣などを媒介にこの世界に顕現する法則は、やはり、魔力をその力の源としなければ操ることはできない。

 空間魔力もやはり同じで、空間魔力が豊富にあるところから持ってきていると考えなければ世界の法則が捻じ曲がってしまう。

 つまり、

「魔界――から吸収しているのか……?」

 少し考えて結論に至った佐伯の解答を肯定するかのように、勇貴は大きく頷いた。

「魔族が顕れてからの一連の事件から、魔族の目的を逆算すると、それはおそらくこれ以上の空間魔力吸収の阻止」

 勇貴は推理の総括を述べた。

(そして、もしその先にも魔族の目的があるとすれば、それはこの世界を巻き込んだ大事件になるだろう)

 その考えを今言うべきなのか考えたが、余計な混乱を招かないよう、勇貴は黙っていることにした。






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