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超能力者の魔法大戦  作者: 姫浴衣
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ライバル登場



 勇貴が教室に着いたのは、ホームルーム直前だった。

 教室ではクラスメイト達が、昨日の緊張感を一切感じさせない位に和気靄然としていた。

 皆、校門で配られていたビラを互いに見せ合って見比べている。

 入学式の翌日の今日は、丸一日を使って部活動紹介が行われる予定だ。

 学園に在校する生徒は、必ず何れかの部活に所属しなくてはならない。

 既に希望している部がある生徒もない生徒も、この日一日を使って全員が部を決める。

 何しろメジャーな部から、同好会規模の小さい部まで、この学園には百を超える部活が存在している。入りたい部が決まっている人間ですら、他の部に心奪われることもあるだろう。

 そんな中、既に入部が決まっている勇貴は、自分の机に腰掛けて突っ伏していた。

「あー。しんどい」

 教室に着くまでの数百メートルの間に、ビラ配り七人、強引な勧誘三人、小競り合いでの爆発二回、美少女とぶつかって落としたビラを拾う手伝い一回と言う波乱万丈さで、朝の騒動からもう疲れ果てていた。

 最後の美少女なんて、結局最後に上目使いで、ビラと一緒に入部届を渡してきたから、完全にあれは狙ってやってた。小悪魔的に。

 そんなこんなで教室にたどり着いて安息のひと時を過ごしていた勇貴の後ろから、

「おい市浜! 朝から何ぐったりしてんだよ」

 と背中をバシバシ叩いて覚醒を促してきた坊主頭が一人。体を起こしながら振り向くと、つやつやした笑顔の傍島誠二が立っていた。

「何だよ傍島。今疲れてんだから休ませてくれ……」

「朝からナニ疲れてんだよ。お前朝派なの? 俺は寝る前だけど」

「なんの話だ! いや、言わなくていい。簡単に言うと、高校コワイって事だ」

「模擬戦闘暫定二位がよく言うよ。お前今日の部活紹介どうすんの?」

「どうするって?」

「どっか見て回るの?」

「あー俺は」

「良かったら一緒に行こうぜ。そしてA組の横川湊ちゃん紹介して」

 勇貴の返事を遮って、傍島が下心丸出しで勇貴を誘った。

「ドストレートに要求すんな。俺はもう入る部決めたから、適当に時間潰すよ」

「マジかー。じゃあいつ紹介してくれんだよー。女の子分が足りなくなってきてんだよー」

「女子ならこのクラスにもいるじゃん」

「湊ちゃんレベルの子じゃないとパワー出ないんだよ。はぁー、ムサイ男ばっかの魔法野球部なんてやめて女子研究部にでも入るかな……」

「そんなストーカー予備軍みたいな部があるの?」

「無ければ作る!」

 元気よくガッツポーズをする傍島。

「たぶんその部の部員は女子からキモがられて一生モテなくなりそうだね。野球部なら女子マネとかもいるんじゃないの?」

 言ったところでチャイムが鳴った。

「……やっぱり王道で勝負するしかないかー。美人幼なじみとかマジチート」

 項垂れながら、自分の席に戻っていく傍島。ひとまず親友? を品行方正? な方向に導くことに成功した勇貴は、何とはなしに傍島の行方を目で追っていたが、教室の中央付近に座る女子生徒と目が合った。

 目が合ったまま、見つめられた。

 何かを探るような眼差しで、しかしあからさまな敵意のような物が込められている。

 勇貴は居住まいが悪くなった風を装って、視線をずらした。

 今日もチャイムが鳴り終わると同時に、担任の松下みつばが教室に入ってきた。

「みなさん、おはようございまーす☆ 今日も元気ですかー?」

 やはり間延びした声で、教卓まで歩いていき、生首を置いた。

「昨日はぐっすり眠れましたか? ハードな入学式の疲れは取れたでしょうか? 今日は皆さんの為に一日、部活動紹介の時間が当てられています。ホームルームが終わったら、お昼休みまで自由行動で各部活を見学してきてください。お昼休みには教室に集合してください。それからまた午後の予定をお話しします」

『はーい』

 と、まるで小学校時代の遠足のようなやり取りが行われた。

「部活動紹介の会場は、二年校舎全館、三年校舎全館、部室校舎となっています。くれぐれも迷子にならないように気を付けてくださいね☆」

 みつばは小学生を相手取るかのように締めくくった。

 その後、翌日から始まる授業のカリキュラムが配られ、目を通しているうちにホームルームが終わり、クラスメイト達は思い思いに教室を出て行った。

(さて、どうしようか……)

 勇貴は既に入部しているので、この時間は特にやることはなかった。

 見学をしても、他の部を冷やかしているようで気が引ける。

 窓から校庭を見下ろしても、一年校舎では部活動紹介が行われていないので、他の会場に向かう生徒の姿しか見えなかった。

 しばらくその光景を眺めていたが、やがて校庭に人の姿が見えなくなってきた。

「暇だ……」

 机に突っ伏して、思わずつぶやいてしまった。

「なら死んで?」

 だから、いきなり後ろから誰かに話し掛けられたときには驚いた。

「うわ」

 跳ね起きて後ろを確認すると、セミロングのツインテールを頭頂部に携えた少女が、勇貴のすぐ後ろに立っていた。

「だれ?」

達端瑞起(たちばなみずき)

 恐る恐る尋ねた勇貴に対して、凛とした口調で自分の名を答えた少女は勇貴を見下ろしたまま、

「暇なら死になさいよ。アンタみたいのが生きてるのを見てるだけで頭にくる」

 と宣った。

「…………えっと、さっき俺のこと見てたよね?」

「見てない」

「……じゃあ睨んでたよね?」

「睨んでましたよ?」

 それがなにか? と言いたげな口調であっさり返事をした。

「睨んでいた理由が、俺に死んでほしいからなの?」

「その通りです! だから死んでください!」

「…………よし。部活見てくるか」

 元気よく自分の死を願ってくる少女を見なかったことにして、勇貴は立ち上がった。

 軽く背筋を伸ばすストレッチをしてから教室の扉へ向かって歩き出すと、後ろから驚きを隠せないといった風に声が飛んできた。

「えっ? ここまで会話しておいて無視できるの? ちょっと、私の為に死になさいよ!」

 近づきながら声を荒げてくる達端をなおも無視し続け、手にかけていた扉を開けた。

 軽い力を込めたはずなのに、扉は勢いよく開いてしまった。

「うお!?」

「きゃ!」

 二種類の悲鳴が同時に上がる。一つは勇貴の、もう一つは扉の反対側で、勇貴と同じタイミングで扉を引いた横川湊。

「な、なんだ、湊か」

 後ずさりながら状況を先に確認できた勇貴は、恐怖と仰天が混ざった声を出した。

「……開けるなら開けるって言いなさいよ……」

 湊は変にくぐもった声で呟いた。

(あれ湊さんなんかコワイよ?)

「す、すまん」

 未だかつて感じたことのないオーラを感じ、勇貴はすぐさま謝った。

 落ち着きを取り戻してきたのか、教室の中を見ていた湊は、すぐ後ろに立っていた達端の姿を見つけた。

「あら、こんなところで二人きりなんてもうガールフレンドができたの?」

 なんて笑顔で言ってきたけど目が笑ってない。

「ガ! ガールフレンドなんて、かっこ仮をつけてもこんなの願い下げです!」

 と全力で否定したのは当の達端だった。

 全力で否定した割に顔が真っ赤で俯いてしまっている。

 本人は本心でそう言ったが、側から見ている湊は誤解してしまった。

「そう、もし、勇貴に泣かされることがあったら、私に相談して」

 と笑顔で言ったが目が笑っていない。

「え? あ?」

 あ、これ完全に誤解されてる、私本当にコイツのこと何とも思ってないんです信じてください。を二文字で表現するという荒業を見せた達端だが、うまく伝わらなかったようだ。

「あなた、名前は?」

 湊に問われ、

「達端瑞起でしゅ!」

 評価も印象も良くプレゼンが終了した新米サラリーマンみたいな意気込みで、自分の名を学年一位の湊に覚えてもらおうと自己紹介をした達端だが、勢いが良すぎて盛大に噛んだ。

「達端、瑞起ちゃんね」

 噛んだことには触れない優しさをもつ湊だが目が笑っていない。

(なんかこのままじゃ湊のなかで勝手にコイツを彼女にされそうだ)

 と不穏な未来予想図が浮かんだので、とりあえず勇貴は話題を変えてみることにした。

「それで、この教室まで何しに来たんだ?」

「そうそう、今佐伯先輩に会ったから伝言を頼まれたの。午前中は一先ず部室に来てくれ。とのことよ」

 強烈なインパクトのある事件のせいで、度忘れしていたことを思い出すように、連絡事項を告げた。

「じゃあ伝えたから。私は先に行くから」

 そう言って足早に教室から去っていく湊。

 残された二人は何とも言えない雰囲気に、ならなかった。

「湊、お姉様……」

 達端はその場に立ち尽くしていた。蒸気が見えるかと思うほど顔を赤らめて、湊をアブナイ敬称で呟いた。

「え? ってかお前の所為で要らん誤解を受けたんだが」

「は!? 確かに! こいつなんかと付き合ってることが湊お姉様に誤解されたままじゃ、私が湊お姉様と付き合えない!」

 そして頭を抱えてモジモジしだした。

 先程の危険な呟きは空耳ではなかったらしい。

 勇貴はそっとしておこう教室を後にした。

 音もなく扉を閉めて、達端に見つからないように部室へと向かった。







 部室に着くまでも平坦ではなかった。

 ビラ配りも爆発も、先程の倍以上巻き込まれた気がする。

「失礼します」

 髪の毛の一部を焦がしながら、部室の扉を開けて入室したら、

「うおらぁぁぁぁぁぁ!!」

 と佐伯に殴り掛かる金髪の女子生徒と、

「げぶしっ!?」

 と殴られて吹き飛んできた佐伯と、

「ぐふぅ!」

 とその直撃を腹に受けた勇貴の三コンボが発生した。

「ったくあの生徒指導、マジ腹立つ!」

 女子生徒は、術後硬直の状態で殴った体勢のまま、怒りを露わにした。

「だからって僕を殴ることはないだろう!」

 仰向けに倒れたままの佐伯が、顔だけを女子生徒向けて抗議の声を上げた。

 巻き込まれて吹き飛ばされて、廊下の壁に頭をぶつけた勇貴が一番抗議をしたかったのだが、先輩相手に怒鳴れるわけがない。ましてや生徒会長――校内一魔法技能に長けた人物――を素手で殴り飛ばすような、ピラミッドの最頂点に君臨するかもしれない人間相手に。

「なーにが『高校生に金髪はダメよ、明日までに戻してきなさい』だ! 自分のラメ入りドピンクファッションの方が社会人にふさわしくねーだろ!!」

 人一人殴り飛ばしておいて全く怒りが収まる様子がない。勇貴は一先ず部室から離れようと思ったが、金髪剛拳女と目が合ってしまった。

「なんだお前、まさか生徒指導の手の者か?」

「ち、違います! 今日から魔法大戦部に入部した者です!」

 指関節を鳴らしながら近づいてくる金髪女に対し、勇貴は必至で弁明した。

「そうそう、今年の新入部員だからいじめんなよ」

 佐伯がダメージから回復し、立ち上がりながら金髪女に説明した。

「市浜くん、こいつは三年の杉松李音(すぎまつりおん)。これでも歴とした魔法大戦部の部員だ。李音、この子は市浜勇貴くん。昨日勧誘して入部してもらった一年生だ」

 相互に紹介され誤解が解けたことで、杉松には笑顔が戻ってきた。

「なーんだ。そう言うことなら早く言ってくれりゃ良いのに。よろしくな!」

 言いながら手を差し伸べられたので、それを握り返す勇貴。ニコリと屈託がない笑顔の隙間に、犬歯が目立った。

 手を握ってブンブン振られ、杉松の制服の下に潜んでいるブレスレッドなどの大量のアクセサリーが、滑り出てきて音が鳴る。

「よろしくお願いします」

 と言ったものの、

(この学園にはロクな女子が居ないのかも)

 と絶望的なイメージが勇貴の頭に刻まれた。

「じゃあお互い紹介も終わったことだし、生徒会を始めちゃうよー」

 佐伯が取り仕切って黒板に向かった。

「あれ? 湊は来てないんですか?」

 そういえば湊の姿が見えない。部室には三人しかいなかった。

「横川さんは、日向さんと一緒に校内警邏に行ってもらってるよ」

「俺もさっきここに来るまで爆発に巻き込まれました。それの収拾に向かってるんですか?」

「この時期爆発一つ一つに対応してたら人数足りなくなるよー。校舎が蒸発する位の規模にならなきゃ僕らの出る幕はないね」

 ケタケタ笑いながら否定した。三年生にもなると、魔法に対する感覚がおかしくなるのかもしれない。

 あるいは高校で、これくらいの価値観に育て上げられなければ社会に出ていけないのか。

「午前中は二人に校内のことは任せよう。僕らはこの時間、桜嶺祭の準備をしなければならないんだ」

 面倒だ、と言う本音を態度に出しながら、黒板に文字を書き込んでいく佐伯。

「桜嶺祭って、ゴールデンウィーク明けに行われる体育祭ですよね?」

 勇貴は、入試前に読んだ桜光学園のパンフレットに書いてあった知識を口に出した。

「表向きはね。桜嶺祭は新年度の部員補充が終わって、各部のレベルチェックの意味合いを込めて行われる、部活対抗魔法競技会なんだ」

「表向きって、隠す必要はあるんですか?」

「インターハイや、その予選会の模擬戦みたいなことだからね。他の高校にバレないような工夫がされているんだよ。と言っても、どこの学校も同じようなことをしてるんだけどね」

 みんな同じことをしてるのにそれを隠す必要なんてあるのか、と勇貴は訝ったが、

「偉い人ってのは、無駄なことが大好きなのさ」

 と佐伯がまるで知っている風に言ったので、そんなものかと納得した。

「それで、準備って何をするんですか?」

 勇貴は作業内容について質問した。

「準備って言っても、昨年の各部活のデータをもとに、トーナメント表を作るだけだよ。簡単な作業だけど、偏りが出ないようにしなければいけないから結構神経使うんだ。あとは桜嶺祭のルールを作るんだけど、めんどくさいから去年のを使おうと思ってるよ。市浜くんも後で確認しておいてね」

 言って佐伯はチョークを置いた。黒板には十六の部の名前が書かれている。

「ここに書いた部はシード枠に入れる部だから、それ以外の部をトーナメント表に書き込んでいこう」

 筒状の段ボール紙から大きな模造紙を広げて、トーナメントの線を書き込んでいく佐伯。

 コピー用紙を勇貴に手渡して、

「これが今ある全部活のリストだよ。僕はこっちから書き込んでいくから、市浜くんは反対から書き込んでいってね」

 作業の指示を出した。

「李音は……」

 言いかけて佐伯の動きが止まって、

「あいつまたサボりやがった……」

 と独り言ちた。

 既に杉松の姿は見えなかった。

 野郎二人で向かい合って、黙々と作業する時間がしばらく続く。




 時は戻って少し前。

 湊は勇貴に伝言を告げた後、そのまま部室に向かっていた。

 部室にたどり着くなり佐伯に、

「さっそくだけど、研修だと思って日向さんと校内警邏に行ってきてよ。君の魔法技能なら、その辺の二年生位なら抑えられると思うから」

 と言われた。少し前に日向が出たらしいので、早足でとんぼ返りをすることになった。

(その辺の『二年生位』なら、か)

 現状での佐伯からの湊の評価がその程度のものだと言う意味。一年生にしては高すぎる評価であるはずなのに、湊は不服だった。

 湊の魔力レベルは、二次成長を前にして日本三位である。中学校入学頃から中学生向きの魔法教育をする塾にも通って、少しずつ魔法を体得していった。

 その高魔力から、中学時代は弱いものを守り、いじめや嫌がらせをする人間を蹴散らしたりして、一切の敵無しだった。

 そんな自分が、佐伯に手加減された上にあっさり敗北してしまった。

 そのことに昨日から湊は酷く落ち込んでいた。

 そして今朝、日向御星の魔法を見た。

 二年生にして、湊の考え付きもしないタイプの魔法を扱う少女。

 日向の魔力レベルは知らないが、湊の知らない知識も技術も、それを扱う生徒も、この学園には沢山眠っている。

 早くその知識が知りたかった。早くその技術を修めたかった。

 魔法が使えなくなってしまった父を助けるために。

 魔法を使うことの出来ないアイツを守るために。

 これからの魔法教育を余すところなく自分のものにするために、魔法大戦部に入部した。

 きっとこれからの出会いの全てが、湊の糧になるだろう。

 そんな想いを胸に、湊は部室校舎に面した校庭に出た。

 校庭では、校舎ほどの大きさの奇怪な鳥が雄たけびを上げ、二足歩行の恐竜のような生物と戦闘していた。その足元では生徒達が火の玉や雷をそれらに浴びせている。

 騎馬戦のような、棒倒しのような競技だと誰かが説明していた。

 校庭の隅のベンチに、日向が腰掛けているのを見た。

「日向先輩、あれは放置していても平気なんですか?」

 近づいて声を掛けると、日向は驚いたように肩を跳ね上げ、湊の方を見た。

「あ、横川……さん?」

「はい。佐伯先輩から、日向さんを追いかけて警邏に加わるように指示されました」

「そうですか……わかりました」

 なんとも消え入りそうな声で話す日向。

「それで、あの生物たちは放っておいても大丈夫なんでしょうか?」

「あれは大丈夫です。魔法生物部と、魔獣使役部の、模擬戦闘です。術者の魔力はともに安定しています」

「魔法生物と魔獣って違うんですか?」

「魔法生物は現世に生きる、魔力を持った生物です。一方魔獣は、魔界と呼ばれる、違う層の世界の生物です」

「その二つに違いがあるんですか?」

「違いについて、完璧に定義されている文書はありません。住んでる世界が違うだけで、元は同じだった種族もいます」

「今朝のヘドロの塊とは違うんですか?」

「あ、あれは、魔獣の呼び出す際に、魔界からの干渉が強すぎて、魔法が失敗したために発生した害獣ですっ。処分するしか方法はありませんでした……」

 ヘドロの害獣の記憶と一緒に、自身が注目を浴びてしまった魔法ショーのことが脳裏に蘇ったのか、またしても顔が赤くなってきた日向。

「今朝と言えばあの魔法」

「け! 今朝のことは忘れてください!」

 問いかけた湊の発言をかき消すように、日向が大声を出した。

 普段出しなれない声を出したものだから、思いの他声が大きくなりすぎてしまい、注目を浴びてしまった。

 魔獣たちもその声に反応した。二体の怪物は、それぞれ火の玉と氷の矢を生み出し、湊たちのいる方へ放った。

 湊はいきなりの攻撃に驚いて動けなかった。しかし、日向は違う。

 懐から厚みのある本を取り出して、適当に開いたページを一枚破り取り、飛んでくる魔法に向けた。

 瞬間、ページは魔力の光に包まれ燃えだし、透明なバリアのようなものに変化した。

 魔力の塊でできたシールドは二人を軽々包み、怪物から飛来してきた魔法を防いで消えた。

 怪物たちはそれで満足したのか、また足元の抗争に集中した。しかし付近でその光景を見ていた生徒の内、数名――ほとんどが一年生――は呆然と日向を見ていた。

 湊もまた、呆然としていた。

「魔法の即時発動なんて…… かなりの高位術者でなければありえないわ……」

 通常魔法を使うには、呪文を唱えたり魔法陣を書いたり、それ相応の準備をしなければならない。

 それらの予備動作を省略して魔法を発動させることも可能であるにはあるのだが、それにはかなり高い魔力レベルと、高度な技術が必要になる。

「日向先輩、貴女はもしかして……?」

「わ、私のこの魔法は、ちゃんと、準備期間があります……」

 湊の言葉を遮って簡潔に質問に答えたが、またしても魔法で注目を浴び、恥ずかしさで赤面してしまう日向。

 やはり立ち上がり、その場から逃げてしまった。

「あ、ちょっと!」

 湊は追いかけた。校庭を横切り、二年校舎へと入っていく日向を見たが、そこで見失ってしまった。

 荒い息を吐きながら左右の廊下を見渡しても、日向の姿は見つからない。

(やっぱり、凄い!)

 湊は感動と興奮で心が躍っていた。

「この学園、サイッコーに面白い!!」

 表情に輝く笑顔を張り付けて叫んだ。





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