魔力レベル
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入学式と言う名の殺戮ショーが終わってから、上級生の治療を受けていた新入生全員が気絶から復帰するまでの間、勇貴たちは教室で待機を命じられた。
と言っても、入学式の後に予定されている健康診断がA組から順に開始されるので、必然的に最後になるF組の治療が後回しにされただけである。
意識が戻った生徒から教室に戻ってくるのだが、その数はまだ半数に満たない。
勇貴は特にする事もないので、自分の席に座って校庭を眺めていた。校庭では、今まさにA組の健康診断が終わろうとしていた。
高校課程から健康診断と言ったら、通常の身長体重の他に血中の魔力を量る項目が追加される。血中魔力は数値化され、他者と比較できる。
魔力が高ければ、強力な魔法が使えるが、魔法とは魔力と知力の粋を集めた結晶であり、強力な魔法=高度な魔法とはならない。
魔法戦闘で勝利するには、より高度な魔法を、より多く習得しているかが鍵になる。
先の入学式デモンストレーションで、湊が佐伯に敗北したのは、佐伯の方が高度な魔法を用いていたからだ。
ふいに、校庭から歓声が上がる。A組出席番号三十番の、横川湊の血中魔力の数値が出たらしい。
「横川さん、レベル56!? どうしてこの年齢でそんなに高いの!?」
A組の全員が驚いていた。
それもそのはず、普通、血中魔力は、生まれた時から十歳位までの一次成長で緩やかに増えていき、十六歳から二十歳にかけての二次成長期で、急激に生涯魔力と呼ばれる数値に成長する。
今年の新入生が、今日、生涯魔力に達している訳がない。
そういう背景を含んだ驚愕が起きていた。
ちなみに、湊の魔力レベルは日本第三位。しかも二次成長前で、である。この後数年で、日本のトップに君臨するであろうことは想像に難くない。
さらに、日本人の平均血中魔力はレベル29で、これは国連加盟国ランキング百五位と言う不名誉な記録を持っている。
そんな世界情勢から近年日本は、魔法教育に力を入れるようになった。
国立の魔法学校を立ち上げ、卒業生はそのまま直結で、国立魔法軍や宮廷魔法師などのエリート職と呼ばれる職業に就くことができる。
また、魔法を使った競技やスポーツも世界的に盛んに行われている。
日本でもそういった競技やスポーツを取り入れ、競争志向を盛り込むことで、自国の魔法力を高めている。
国立の学校に限らず、ここ私立桜光学園でも魔力レベルによるクラス分けが行われている。
魔力が高い生徒はA組に、低い生徒はF組に。
しかし、魔法研究などの分野に精通する者の多くは、魔力が高くない――魔力が高くなくても務めることができる――ので、魔力の他に学力やその他の才能を見極め、入学の許可が与えられる。
魔法関連でもその他でも、マルチな才能を発掘する高校として、桜光学園は県下一、二を争う倍率と偏差値を誇る。
よって、魔力が低くても入れて、より高等な魔法教育を施してくれる高校に、勇貴は進学を決めたのだ。
勇貴はF組で魔力レベルは優秀ではないが、その分知識をため込むことでこの学校に見事合格を果たした。
「よ」
校庭を眺めていた勇貴の肩を何者かが叩いて声をかけてきた。
後ろを振り返ると、坊主頭の傍島誠二だった。
「よ」
勇貴はとりあえず同じく挨拶をした。
傍島は、まだ空席になっている勇貴の後ろの席に座って喋りだした。
「おい勇貴、お前入学式準優勝したんだって?」
「たまたまだよ。優勝した奴と知り合いで、助けられているうちに生き残った、みたいな」
「それが問題なんだ。入学して間もない、クラスも違うスーパー美少女と知り合いなんて事実は不可能なんだ!」
「……いろいろ使う単語が間違ってるけど、訂正しないでおくね。幼なじみなんだよ。家が近所ってだけ」
「幼なじみ……! 家が近所……!」
勇貴の言葉を繰り返して、その度に少女漫画のようなリアクションと効果音を響かせ後ずさる。
「何ですか……?」
傍島の不審な態度に思わず敬語になってしまう勇貴。
「なぁ勇貴。俺たち親友だろ?」
「……文章にして十行程度しか会話してないのにもう親友?」
「じゃあこれから親友になろうぜー。それよりもその子の名前教えてくれよ」
「横川湊」
「みなとちゃんかー。当然お前ら付き合ってるんだろ?」
「俺と湊が? それはないよ」
「へ? そうなの? じゃあさー、俺に紹介してくれよー」
傍島は無駄に甘ったるい声で勇貴に嘆願した。
「別に良いけど、それやめてくんない?」
若干後ろに体を引きながら勇貴は承諾した。
そんなくだらない会話を二人がしているうちに、ほぼ全てのクラスメイトが教室に戻ってきていた。
最後の一人と同時に担任の松下みつばも教室にやってきた。
「みなさん、入学式お疲れ様です。改めて、入学おめでとうございます。入学式はいかがでしたか? 中学時代に魔法の塾に通っていた人が今年は多かったみたいですねー。あんなに高度な入学式は先生初めて見ました☆ そして今年は入学式から回復する時間が過去最高に早かったみたいですねー。先生はみなさんの将来に期待が持てそうで嬉しいです」
「どういう意味ですか、センセー?」
後方の席に座る男子生徒が、みつばの言葉に疑問を投げ返した。
「魔法のダメージから回復が早いということは、一日でより多くの魔法ダメージを受けられるってことなんですー。と、いうことは、魔法をより多く受けて、反復練習することができるってことなんですー」
教室が恐怖に凍りついた。
入学式でこれほどのスパルタを見せる学園の闇は、これからも毎日続くらしい。
「なんて冗談です☆ でも統計的に、回復魔法を受けて、回復時間が早い人ほど、強力な魔力に目覚めるものらしいので、皆さんに期待ができるのは嘘じゃありません。先生は皆さんのうちに眠る、純粋な潜在能力に期待しているのです。ですからみなさん、これから三年間、一日一日を全力で魔法習得に励んでください」
みつばは激励の言葉を送った。
F組で、魔力が低くても、自分たちにはまだ秘めたる力を持っていると。
その力は磨けば必ず輝くと。
「先生! おれ頑張る!」
と半泣きで答えたのは、傍島だった。
次々と、俺も私もと自らの決意を語りだすクラスメイト達を横目に、勇貴は一人黙り込んでいた。
(潜在能力……か)
「ということで、改めて一年間よろしくお願いします☆」
みつばが締めくくって、
「それでですねー、みなさんの回復が早かったので、体育館も健康診断に使用出来るようになりました。今はB組が校庭で健康診断をしていますが、体育館はF組から使わせてもらえますので、すぐに体育館に移動してください」
と連絡事項を述べた。
皆体育館の位置は知っているので、今回は列を成さずに思い思いに教室から出ていく。
ほぼ全ての生徒が教室から出て行ったあと、勇貴は深いため息をついて、重い腰を上げた。
体育館は幾つかの什器が設置され、まさしく健康診断と言った雰囲気を醸し出していた。
先のデモンストレーションで、佐伯優によって引き裂かれた床は、まるで何事も無かったかのように平坦は姿を見せている。
それだけこの学園の魔法力が高い証拠か。
勇貴が体育館に到着したのを確認し、みつばが健康診断の段取りを説明する。
「みなさんご存じの通り、高校生からは身長や体重の他に、血中魔力の測定が定期的に行われます。血中魔力と言うのは、皆さんがその体の内に保有している魔力の総量のことです。この血中魔力は……って、みなさん基礎的なことは中学生のころに学んでいますよね」
てへへ、と自分の頭を撫でて、舌をペロッと出した。
クラスの男子共はこれで完全にみつばの虜になった。まぁ、本人にはその自覚はないが。あくまで天然みつば先生なのだ!
「なので血中魔力の詳しい説明は省きます。入試の時に簡単な血中魔力の測定をしましたが、それから二カ月経ちました。既にお医者さんなどで調べている人もいるかもしれませんが、今回は実数での計測となります。早い人でもう二次成長が始まっていますので楽しみですねー」
楽しみ、の言葉にクラスメイトはそれぞれ、期待感に胸を躍らせた。
「センセー! 早く魔力測定がしたいでーす!」
と言ったのは、自己紹介の時にテンプレを瓦解させ、クラス中に笑いをもたらした唯一の立役者、加間禎幸。
「加間くん、もうちょっとだけ待ってください☆ さて、今日の健診ですが、魔力測定も含めて全部で八項目あります。測定の順番は決めていないので、好きな項目や、空いている列を選んでそれぞれ健診を進めてください。終わった人から教室に戻って待機をしていてください。それではどうぞー☆」
みつばの健診開始の合図とともに、クラスメイトは散り散りになっていった。
一番長い列を作ったのは、やはり魔力測定だった。その他の項目に並んでいる生徒は全体の半分以下程度か。
(やっぱり魔力は最後かな)
勇貴はまず身長から測定を開始した。身長は二人しか並んでいなかった。
待っている間に一人目の生徒の魔力数値が出たようだ。
「レベル6だ! 入試前より一つ上がった!」
と大声で喜んだのは加間だった。
A組の健診と違って、F組は魔力レベルにコンプレックスを抱える生徒が多いため、測定数値は本人にしか見えないように配慮されている筈だが、こう叫んでしまっては意味などないだろう。
そういう意味で、加間は広くオープンなメンタリティの持ち主だった。
勇貴が三つほど測定を終わらせる間に、魔力測定の列は随分と短くなっていた。
魔力レベルは生涯、上がることはあっても下がることはないのだが、それでも生徒たちは自分のレベルに一喜一憂していた。
全体的に、レベルが横ばいの生徒が大半を占めているようだ。
大声で自己申告をしたのは加間と傍島だけで、二人ともレベル6だったが、クラスメイト同士の会話の中で、一番多いのはレベル5だと判断できた。
最大は8、最低で2、と言った会話が聞こえてきた。
魔力測定から始めた生徒は、その後列の短い項目を選んで終わらせていき、結果他の項目から始めた生徒より早く健診を終わらせた。
加間と傍島が、同じレベルであることで意気投合したのか、肩を組みながら体育館を後にしていった。
体育館から生徒がほとんど居なくなり、喧噪より静寂が大きくなりはじめる。
魔力測定エリアに誰もいなくなったのを確認してから、勇貴は意を決して魔力測定をした。
封のされたコネクタを開けて装置にセットする。それに右手人差し指を入れてスイッチを押した。
針の刺さる痛みを感じながら、モニターに計測結果が表示されるのを待つ。
他の生徒は数秒と待たずに結果が表示されたが、今回に限ってなかなか表示が出ない。
測定中と表示されたまま数十秒が経過し、やがてエラーを示す表示に切り替わった。
不審に思った学校医が再測定するように促したが、結果は同じだった。
「市浜くん、どうかしましたか?」
みつばも不安感を抱えながら近づいてきた。
「エラーが出るわね。君、こっちへ来て頂戴。私が魔法で直接診ます」
学校医にステージ近くまで誘導された。みつばも付いて来る。
僅かに残ったクラスメイトも、その行方を目で追っている。
学校医は持参していた鞄から、折りたたまれた布を取り出した。広げると二畳ほどの大きさになる。
それを床に置いて、四隅を重石で留めた。作業を終えた学校医が鞄からまた何かを取り出しながら言った。
「君、この上に立って」
その布の一面には大きな魔法陣が描かれており、仰々しい儀式でも始まるのかと勇貴は思った。
魔法陣の中央に立ち、次の指示を待つ。
しかし、勇貴のすることは魔法陣の上にいることだけらしく、学校医が着々と準備を進めている。
勇貴の立つ魔法陣を囲むように、三角形に配置された小ぶりの魔法陣の布をまた重石で留めながら、学校医は儀式について説明をした。
「ごめんなさいね、私も魔力は高くないから補助の魔法陣を複数架けなければならないの。これから君の魔力を量るのに魔法を使うんだけど、計測器の様に正確には測定できません。また、数値を可視化してしまうので、プライバシーを確立することもできません。それについては了承願えるかしら?」
質問の形で一度会話を切られ、勇貴は仕方なしに頷くしかなかった。
「ありがとう。では、もう少しそのままで待ってて」
そう言って、先に配置した三角形の外側、今度は逆三角形になるように、また三枚の布を置いて留めた。
「準備ができたわ。始めるわよ」
学校医は、ポケットから小瓶を取り出した。そこに入っていた砂をまき散らすと、砂は勇貴の体に触れるか否かの距離で漂い始めた。やがて勇貴を中心に足元から大きく渦巻き始め、頭頂まで達すると弾けて散った。
「いいわ。魔法陣からでて頂戴」
学校医が指示を出したので、これにまた従う。
勇貴が魔法陣から出てしばらくすると、散って落ちていた砂が魔法陣の中央に集まる様に動き出した。
集まった砂は、一つの円を表していた。
それは十進法でも二進法でも、0を意味する文字。
「レベル……ゼロ」
学校医が神妙な面持ちで呟いた。
この世界において、魔法が使える使えないは、魔力の高い低いに起因する。
魔法が使えないというのは、その魔法を使用できるレベルに達していないというだけで、火を起こすだけの魔法とか、光で周囲を照らすだけの魔法とか、初歩中の初歩の魔法なら誰でも簡単に扱える。
だから、魔力ゼロなんて人間がこの世に存在している事実は、ありえない、はずだった。
ただ一人、市浜勇貴を除いては。
そんな世界の常識を覆した勇貴の噂は、体育館に居たたった数名の生徒から、その日の健康診断が終わるまでの時間に学校中に広がった。
幸い、桜光学園の学校医は治癒魔法以外の魔法は得意ではないらしい、という噂が元々学園にあり、学校医とみつばの二人で、これは誤診であるという噂を必死に流して回っていた。
なので、全クラスが健康診断を終え、ホームルームで翌日からの予定を担任から聞き、その日の下校の時刻になるまでに勇貴は、既に五十人以上の人間から噂の真偽を確認された。
これまで返答をうまくはぐらかしてきた勇貴だが、そろそろ疲労の色が見えてきている。
しばらく机に突っ伏して、ホームルームの記憶すら曖昧になっていた勇貴だが、教室に誰も居なくなった頃に気力を多少回復させ、家路に付くことにした。
大して荷物の入っていない鞄を気だるげに持ち、教室を出る。
下駄箱までやってくると、そこに横川湊が立っていた。
「噂、大丈夫?」
「あぁ、あれこれ聞かれて疲れたよ」
「そうじゃなくて、皆信じてしまったの?」
「うーん、半々ってところかな。そもそもこの世にレベルゼロの人間なんか存在しないなんてのは常識だろ? 理性の部分では誰も信じてないと思うよ」
「でも、いずれ周知されてしまうことよ。これから魔法の授業だって始まるんだから」
「そうだね。そうなったら、俺は本当にレベルゼロなんだ、って改めて発表でもするよ」
勇貴は下駄箱から革靴を取り出して履き替えた。湊も少し離れた下駄箱に向かい、校庭に出る。
「でも、フォローできるところはフォローするわ。今日みたいに」
「ありがとう。でも俺ごと人を焼こうとするのはやめてね」
歩きながら入学式のことを思い出して渋い顔をする。
校門に差し掛かろうとしたとき、後ろから二人を呼び止める声がした。
「おーい! 待って!」
二人が同時に振り返ると、校舎から走ってくる人影が見えた。
生徒会長の佐伯優だ。
「はぁ、はぁ、よかった、見つかった」
「これはこれは生徒会長殿、私共に何の御用で御座いますか?」
いきなり上級生相手に喧嘩腰の湊に、勇貴は若干笑顔を引きつらせた。あろうことか両腕を組んで、膝に手をついて肩で息をしている佐伯を見下ろしている。
実際、まっすぐ立っても湊の方が身長はあるだろうが。
「いやぁ、噂を聞いたもんだからさ。レベルゼロって本当?」
勇貴の顔を見て、単刀直入に聞いてきた。
「いえ、噂ですよ。レベルゼロはありえないですから」
勇貴は嘘を答えた。
「でも入学式では魔法を使った様子はなかったよね?」
「まだ入学したてですから」
「でも横川さんはバリバリ使ってたよ? 幼なじみ同士なら魔法掛け合ったりするでしょ? 俺も昔は幼なじみの子に良く泣かされたよー」
「……あー。泣かされたことはたくさんあります……」
「でしょ」
笑顔で暗い過去を語る二人。
仁王立ちの湊は、横目で勇貴を睨んだ。
「でもあの時、一度だけ、魔法みたいな能力を使ったよね?」
「いつです?」
「鉄拳の子とタイマン張った時。横川さんの炎を倒れこみながら避けようとした時」
「あれは湊が庇ってくれたんですよ」
「そうは見えなかった。明らかにあの軌道は市浜くんが作り出したものだよ」
「…………」
勇貴は言葉に詰まった。これほど早く自分の能力が露見するとは思っていなかった。
しかし、その能力と、自分がこの学園に来た目的を、他人に話すつもりは今のところまだない。
「まぁ、話したくないなら別に良いんだけどね」
頑なに口を閉じているつもりだった勇貴に対して、しかし佐伯はその詰問を引き下げた。
「君の能力がどんな魔法なのかは、今はそんなに興味が無いんだ。今君たちを追いかけていたのは、君たちに魔法大戦部に入部してほしいからなんだ」
「魔法大戦部?」
湊が威圧的な態度を崩してオウム返しに聞いた。
「そう。僕が所属している部活動なんだ。またの名を生徒会と言う」
「生徒会が魔法大戦部と兼任しているんですか?」
勇貴が興味を魅かれ会話に入った。
「いや、魔法大戦部が生徒会なんだ。毎年どんな人間が生徒会長を務めるのかは知っているかな?」
「確か、最高学年で、校内一の魔力レベルの生徒がその職務に就く、だったかしら」
「その通り。でも、生徒会長に任命された人間を最後の一年だけ別の組織に組み込むのは、当人らの意向ではないんだ」
「どういう意味です?」
勇貴は疑問を投げた。
「魔法競技会よ」
「正解。毎年夏に開かれる魔法競技会は、チーム戦では部単位での参加が義務付けられているんだ。『生徒会』として毎年別のチームを作ると、それまでの二年間で培ってきたチームワークとか作戦とかって言うのが一切の無駄になってしまう。そんな中校則で決められたのが、今の生徒会長の制度なんだ。」
「なるほど。つまり、今年は生徒会長を務めることになった佐伯先輩が所属している、魔法大戦部が生徒会を担うことになったんですね?」
「そうなんだ。と、いう訳で二人を魔法大戦部に勧誘したいんだけど、いいかな?」
笑顔で手を差し伸べる佐伯。
勇貴と湊は顔を見合わせ一瞬迷ったが、すぐに返事を出した。
「お誘いありがとうございます。魔法大戦部に入部します」
「勇貴が入るなら私に迷う理由はないわ」
「ありがとう。心から歓迎するよ」
それぞれが佐伯と握手を交わし、佐伯は満足そうに頷いた。
「それじゃ僕は明日の準備があるから、これで失礼するよ。明日の朝、部室に来てくれないかな? 部員を紹介するよ」
最初の連絡事項を告げ、佐伯は小走りで校舎に戻っていった。
それを見送り、二人は踵を返して校門を出る。
「勇貴、あんなに簡単に決めてよかったの?」
「いずれはどこかの部に所属しないといけない校則だからね」
「でも、他にもあなたの目標を達成出来うる部もありそうだけれど」
「それは俺自身がやることだから、部活動には執着しなくてもいいんだ。それより湊の方こそ俺がいるってだけで決めていいの?」
「私はあの会長様に一発お見舞いしてやりたいだけよ」
「……それなら、その内に部の対抗試合があるんだから、他の部に入部した方が直接対決できたんじゃないの?」
「あら、同じ部の方が毎日でも勝負を掛けられるじゃない」
「……俺に被害が及ばない時にしてね」
嬉々として語る湊に、勇貴は渋い顔で願った。