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超能力者の魔法大戦  作者: 姫浴衣
13/13

帰化











『よう、気分はどうだ?』

 声が聞こえる。ここには誰も居ないはずなのに。

 誰も居ないはずだから、この声はきっと勇貴の幻聴だ。

「最高の気分だよ」

 幻聴の質問に対して、勇貴は満たされている様な返事をした。

『そうか。騒動には気付いていたんだが、力になれなくてスマン』

 幻聴が、まるですべてを見ていたかのように謝罪した。

 自分の声だ。幻聴は全てを主観的に見ていたに決まっている。

「いや、湊を、みんなを守れたから、それでいいよ」

 勇貴はもう会えないであろう仲間たちを思いながら、それを許した。

『こっちの世界に帰りたいか? それとも、元の世界に戻りたいか?』

 いきなり訳の分からない事を言いだした。こっち? 元? まさか魔界なんてことは?

「何を言っている?」

 勇貴は事の真髄を聞き出した。

『昔、俺たちは、世界に取り違えられたんだ。お前は超能力を持ちながら魔法の世界に、俺は魔力を持ちながら、超能力の世界に』

 お前と呼ばれたのは勇貴自身のことだとすぐに分かった。つまり、

「じゃあお前は、違う世界の俺なのか?」

 導かれる答えは、そういう事。

『そうだ』

 幻聴も肯定を示した。

「そうか、これで全て納得がいったよ。俺がこの世界でただ一人、魔法が使えなかった訳」

 勇貴は自分の生まれについて疑問を持ったことはなかった。しかしそこに、自分のルーツがあったなんて。

それは世界の、たった一度のイタズラ。そこに、悪意なんてものはない。

『もう一度聞く。こっちの世界に帰りたいか? それとも、元の世界に戻りたいか?』

 勇貴は最後の審判を下す神にも似た気持ちで考え、答えた。

「俺は――――」











16


 月明かりだけが照らす草原に、それとは異なる光が降り注いだ。

 どこからともなく現れた光は、まるで天使の梯子(エンジェルズラダー)の様に神秘的で、荘厳だった。

 その光に包まれて、一人の男がゆっくりと降りてくる。

 本物の天使かと思わせるような、その光景を見つめていた湊は、降りてきた男を見て、

「勇貴!」

 涙を流しながら男の名前を叫んだ。

「奇跡だ……」

 佐伯が呆然と呟き、

「よかった……」

 日向も目じりに涙を浮かべて言い、

「心配、かけさせやがって」

 杉松は拳を握りしめて安堵した。

 四人は光の先端に向かって駆け出した。

 勇貴は草原に降り立った。光の梯子が天に還っていく。

「勇貴ー!」

 湊は勇貴に飛びついた。その表情は、泣き顔を笑顔が混ざっている。

 勇貴はそっと湊を抱きしめて、

「心配かけて、ごめん」

 と呟いた。

 湊からの返事はない。

 泣き声と嗚咽で返事など出来なかった。

 上空で、小型の魔力飛行船が音を立てて飛んできた。

 下部に取り付けられているスピーカーから、けたたましい声が聞こえる。

「会場のみなさん! 魔法ウェアの被ダメージ値を集計した結果が――桜嶺祭の勝者が今、決まりました! 優勝は、魔法大戦部だー!!」

 無人でカメラを取り付けられている小型飛行船から聞こえた声は、戸斧戸春のものだった。

「そういえば、桜嶺祭の事をすっかり忘れていたよ」

 佐伯が事の発端を思い出して苦笑いした。

 状況を把握しきれていない観戦者たちの飛行船からは、いつまでも祝福の花火を打ち上げていた。




 花火を見上げている四人の視界の隅で、勇貴は――――勇貴と呼ばれた男は、右手に一握りの炎を生み出した。無事に炎が出たことを確認してから、それを握りつぶした。

「よし、帰ってきた!」

 小さいが、力強い声でそう呟くと、勇貴は仲間の内に戻り、湊と並んで花火を見つめた。






17


 魔界から顕れた幾万の魔族の軍勢は、国家警察や国際魔法軍によってたった一夜で掃討された。

 佐伯が桜嶺祭のために勝手に持ち出した竜声玄上を通して、一部始終を見ていた佐伯優の父が関係各所に働きかけていたし、出現した魔族が全て下級魔族であったため、エリート一個中隊程度の人数で魔族を殲滅しきったと言うのだから驚きだ。

 魔族に心身を乗っ取られていた魔法召喚部の部長も、記憶の欠乏が見られるだけで、無事回復してきているという。

 アガーテが最初に魔族を召喚した辺りで学園との中継が切れたので、経過と勝敗の確認に魔法通信部が会場に来たのだが、運良く魔族との接触はなかったらしい。

結局桜嶺祭は、魔法ウェアの被ダメージが一番少ない勇貴の所属する魔法大戦部が優勝となった。

 魔法大戦部に勝つための秘策があると豪語していた魔法戦争部のその策とは、魔法通信部に働きかけて、桜嶺祭をジャックする行為そのものだったと言う。

 その事が佐伯に知られ、涙目で平謝りをしていた千堂七海は、佐伯が立ち去った後に「校内代表戦では覚えてなさいよ!」と意気込んで新たな企みを思い浮かべていた。

 桜嶺祭から明けて一日。つまり、連休が終わりって通常授業になる平日の早朝。

 勇貴は湊と一緒に魔法大戦部の部室にいた。

 二人して机に突っ伏して、昨日の桜嶺祭の名残りに浸っている。

 筋肉痛という名の。

『あー。全身痛いー』

 二人揃ってうだる様な悲鳴を上げている。

森の中を延々歩き回って走り回って、今朝起きた時から全身に強張るような痛みが走っているというのに、山道の通学路を一歩ごとにイタイイタイと呪詛の様に呟く姿は、まるで闇属性の魔法の儀式でもしているようだった。

「皆おはよー」

 あくびをしながら部室に入ってきたのは佐伯だった。

「おはようございます」

「おはようございます」

 勇貴と湊は机に突っ伏したままの状態で首だけを佐伯に向けて挨拶を返した。

「二人ともいい感じに憑かれて(疲れて)いるね」

 佐伯は、これが桜嶺祭後の風物詩だと言わんばかりに大きく頷いて、満足そうに言った。

 二人はそれを聞き返す元気もない。

 佐伯が自分の席に荷物を置いたタイミングで、部室の扉が大きな音を立てて開かれた。

「おおーっす! 一か月ぶりの部室だ、懐かしいねー!」

 扉以上に大きな声を上げて部室に入ってきたのは、身長百九十はある大男。

 音に驚いて急に起き上がった二人は、全身の指すような痛みに身を捩らせる――捩ってまた痛みが走る、の繰り返し――。

「あ、貴方は」

 湊が男の正体に気が付いた。

「お、光の嬢ちゃん」

 男が湊を見て言った。

「あれ? 二人は知り合い?」

 佐伯が、湊と男を交互に見ながら問い掛ける。

「桜嶺祭の時にドンパチやった仲だ」

「魔法空手部の陰険魔法使いよ」

 湊と男の間の認識は、若干ズレているようだった。勇貴も男が何者なのかとそちらを見遣った。

「もしかして、筑紫さん、ですか?」

 勇貴は思い当たった人名を口にした。

「おう。和野筑紫(かずのつくし)だ。よろしくな」

 和野は二人に向かって片手を上げて名乗った。

「よろしくお――」

「ったくあの生徒指導、マジムカツク!」

 勇貴の言葉を遮って、またも大きな音を立てて開いた扉から、杉松が怒鳴りながら入ってきた。

「なーにが『そんなにアクセサリーを付けたらダメよ、高校生の女の子は着飾らない方が綺麗なの』だ! 自分の宝石付王女様風カチューシャはどうなんだよ! お前は着飾ったところで全て手遅れだろうが!」

 指関節を鳴らしながら辺りを見回す杉松。佐伯はその様子を見て、また殴られないようにそっと物陰に隠れた。

 杉松が和野がいることに気が付いた。

「おう和野、久しぶりだな、一発どうだ?」

「おう、相手になってやる」

 杉松と和野は戦闘態勢を取って、窓から飛び降りて行った。

「ここ、三階……」

 二人を目で追っていた勇貴は、驚いたような唖然としたような気持ちで呟いた。

「ふう、今回は回避できた。筑紫のおかげだよ」

 冷や汗を袖で拭いながら、ケタケタと笑う佐伯。

「私も混ざってみようかしら?」

 そう言って窓から身を乗り出して、二人の戦闘を見つめる湊。

 勇貴はその姿を見て身震いした。

(まさか来年あたり、俺が佐伯さんみたいに殴られるポジションに?)

 湊を品行方正に育て上げなければ、と義務感が勇貴にの中に芽生えた瞬間だった。

「まあ二人は放っておくとして、日向さん、まだ来ないなー」

「私は、ここにいます」

 佐伯の言葉に日向御星は、自分の机に座ったまま返事をした。

「あれ? いつからそこに居たの?」

 佐伯が失礼な事を聞いたが日向は、

「市浜くんと、横川さんの来る、前です」

 と答えた。つまり最初からいたらしい。勇貴たちも気が付いていなかった。

「あ、そうなの? 全然気が付かなかったよー」

 またしても笑いながら超失礼な事を言った。

 日向はまた俯いて本を読み始めた。無表情だったが、少し残念そうな、悲しそうな雰囲気が見えたのは勇貴の気のせいだろうか?

「じゃあ、今日集まってもらったのは、夏に行われる校内代表決定戦の為の――」

 佐伯の言葉を遮って窓の外で爆音が鳴った。中庭から舞い上がった土煙が部室に入り込んでくる。

 勇貴は咳き込みながら、またこの日常と呼べる空間に帰ってきたことを再認識した。

 まだ入学してひと月しか経っていない。

 勇貴の高校生活は、まだ始まったばかりだ。




完 


電撃大賞落選につき投稿したものです。

お読みいただけたなら、皆さまのアツいダメ出しをいただきたいです!

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