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超能力者の魔法大戦  作者: 姫浴衣
11/13

勇貴の魔法



14


 近くで聞こえた轟音に当てをつけて、勇貴はそちらに向かって進路を変えた。

 少し先に斜面が見える。緩やかな斜面を走るより、飛び降りた方が速いと確信し、斜面の淵に足を掛けて、一気に飛び上がった。

 そして、

 眼下に走る湊を発見した。

 ちょうど勇貴の着地予想地点を、今にも通過しようとしている。

「ちょ! おまああああぁぁぁぁ!!」

 絶叫を上げながら為す術なく落ちていく勇貴と、

「へ?」

 間の抜けた声を上げて、声のした方を見遣る湊。

 そのまま二人は向き合い、激突した。

 激突と言っても、上から落ちてきた勇貴は内腿で湊の頭を挟み、肩車の様な体制でクルリと半回転をして、そのまま背中から地面に落ちた。

 湊は鼻に当たる暖かいものを感じながら、抵抗する暇を貰えずに、前のめりに倒れた。

 背中の衝撃と、内腿と股間の痛みを感じて、勇貴はその場で右に左に転がり回った。

「ちょっと! いきなり飛び降りてくるなんてどう言う了見!?」

 大したダメージを受けなかった湊は、すぐに立ち上がり勇貴を怒鳴りつけた。

 それでもまだ転がっていた勇貴だが、やがて、

「は! こんなことしてる場合じゃない! 湊、お前今戦えるか?」

 我に返った勇貴が、仰向けのまま湊に聞いた。

「今すぐアンタを燃やしてやろうか?」

 指関節を曲げ、パキポキ音を鳴らして一歩勇貴に近づいた。

「ち、違う! そうじゃなくて、魔族を倒したいんだ!」

「魔族?」

 全身を使って弁明する勇貴。それを見てと言うよりも、聞きなれない単語に眉をひそめて歩みを止める湊。

「今、この場に魔族が紛れ込んでいて、止めるなり倒すなりしなければ、大変なことになるんだ」

「魔族って何よ。詳しく説明して」

「今は説明している暇はない。とにかく、さっきの音の方へ行くぞ」

 言って走り出す勇貴と、それに付いて来る湊。

 走りながら、要点だけを纏めた説明をした。湊は黙って聞いていたが、最後に、

「じゃあ、その魔族を倒せばいいのね?」

 と心強いような、不安が募るような返事をした。

「この辺りから聞こえてきたと思うんだけど……」

 勇貴は立ち止まり、周囲を見回した。

 湊も一緒になって辺りを探る。

「ねぇ勇貴、あそこの広くなっている空間、何かいる」

 湊が左側に開けている空間を発見した。勇貴もそちらを見遣る。

 確かに、何か人の影が二つ、距離を置いて佇んでいる。

 勇貴と湊は樹木の影に隠れて様子を観察した。大柄な人間と小柄な人間が対峙している。

「あ、あの男」

 湊が微かな音量で喋る。

「さっき私と戦って逃げた男だわ」

 湊が大柄な方を指さして勇貴に教えた。勇貴が目を凝らして見ると、大柄な男はその場で倒れ込み、光を放って消えた。

「地獄に転送された……。 という事は、大男は学園の生徒か」

 もう一方も勇貴たちと同じ、魔法繊維でできたウェアを見に纏っている。

「どっちかが魔族だと思ったんだけど、違うみたいだ。他の場所を探そう」

 今は普通にゲームをしている場合ではない。そう思って移動をしようと考えた勇貴だが、

「待って」

 湊に静止をかけられ思い止まる。

 湊は声を掛けた勇貴にではなく、草原の人影に目を向けている。

 体に凹凸の無い細い身体――男性のようだ――を少し反らせて、両腕を天に掲げている。

 両手の指は忙しなく動き、何かを描いているかのようにも思えた。

(何を……?)

 勇貴は、空を見た。視線の先には――――魔法陣。

 上空の高いところに描かれている、超巨大な魔法陣が、徐々に文字を書き加えられている。

 完成は間近の様に見受けられた。

「湊! あいつを攻撃しろ!!」

 勇貴は襲い来る恐怖を感じながら、湊に命令した。

「――――!」

 湊は樹から身を出し、無言で生み出した炎の球を投げつけた。

 しかし呪文詠唱無しで生まれた魔法はイメージの固定が定まらず、人影に届いたものの、触れると同時に霧散した。

「距離が足りない!」

 湊は駆け出した。走りながら呪文を詠唱する。

「炎の(フレア・ランス)!」

 今度はしっかりとイメージを作って発動した魔法。走りながらの投擲なので、陸上の槍投げの様な体制で地面と平行に炎の槍を飛ばす。

 槍を向けられた男は槍を一瞥し、左手を使って槍を正面から受け止めた。

 槍の先端が炎で燃え盛る。槍を掴んでいる男の手も燃えているが、そんなことはお構いなしに、未だ上空に向けられている右手で魔法陣を書き続けている。

 炎が弱まった槍を無造作に投げ捨てて、男は左手の指で小さな魔法陣を書き始めた。

 湊に向けられた魔法陣は、複雑な文字や記号を含んでいる。

 それなのに魔法陣の作成速度が異常なほど早い。物の数秒で完成した魔法陣は邪悪な輝きを放ち、湊へ向けて一条の闇色の雷を飛ばした。

 雷は湊に触れる前に、後ろから追い付いてきた勇貴の念動力によって軌道を変えられ、あらぬ方向へ飛び去った。

 男は勇貴に注目したようだ。右手で書いていた魔法陣を中断し、正面の勇貴を見据えて相対する。

「お前は誰だ? この魔法陣の目的は何だ!」

 勇貴は声を荒げて男に問いかけた。

「我が名はアガーテ。貴様達の言葉で魔族と呼ばれる種族だ」

 アガーテと名乗った男は、今にも高笑いをしそうなほど大胆不敵な仁王立ちで答えた。

 返答があったことに勇貴は驚いた。先に戦闘をした魔族は、奇声を上げるばかりでまともな言葉を聞いた記憶がない。

「魔族って、喋れるのか?」

「ふむ、我輩のような純魔族だと、意識の疎通を図るのに言語など必要としないのだが? 貴様等下等生物に合わせて言語化している」

 何を今更と言った風な、半ば呆れているような言い方だった。

「我輩が先程こちらに呼び寄せたペットたる下級魔族は、その範疇ではないが」

 勇貴には意味が理解できなかった。 いや、アガーテの言っている意味が、という事ではなく、

「さっきのが、『下級』魔族?」

 先程倒した魔族。勇貴と佐伯が二人掛かりでやっと倒すことの出来た魔族。それを下級だと言い切るアガーテとは……。

「じゃあお前は……?」

 恐ろしさのあまり、絞るような声しか出なかった勇貴の問いに対して、アガーテは、

「純魔族。魔族の王である」

 悠然たる態度で、自らを王と名乗った。

 勇貴は魔力を持たない。だから魔力の流れなんてものや、空間魔力なんてものは見えないし感じない。

 しかし、魔族の王の周囲に漂う、得体のしれないオーラのようなものを感じ取ることが出来た。出来てしまった。

 初めて感じる魔力――それも膨大な量――と言うものに対して、勇貴は畏縮して動けなかった。なのに、

「それがどうしたって言うのよ」

 今の間中、ずっと呪文詠唱をしていた湊は、恐怖など微塵も感じさせず自分の現在扱える、最高クラスの魔法を解き放った。

「光の(シャイン・レイン)!」

 アガーテの頭上数メートルの位置に光の球が生み出され、そこから光の粒が雨の様に降り注ぐ。

 アガーテは初めて湊の魔法を回避した。光の粒を全て紙一重で躱している姿は、まるでワルツを踊っているように見えた。

 光の雨が弱くなり始めた。その時、

「炎の(フレア・ロッド)!」

 湊は新たに唱えていた呪文を解き放つ。鞭のように撓る炎を手に持ち、アガーテの足元を掬うように振るう。

 アガーテは足に迫ってくる鞭を蹴り上げた。その反動で湊も腕を上方に引っ張られてしまった。

 そのままの勢いに負け炎の鞭を手放す。鞭は円を描きながら飛んでいき、地面に付く前に消えた。

 鞭が消えると同時に光の雨が止み、周囲は上空の魔法陣の明かりのみで照らされることになった。

 その明かりに照らされながら、アガーテは不敵な笑みを浮かべた。

「フ。 人間にしては面白い魔法を使う。だが、脆弱すぎるな」

 魔族からしたら最大級であるだろう賛辞を送った。それに喜ぶ湊ではないが。

「どれ、我輩が本物の魔法と言うものを見せてやろう」

 そう言って両腕を大きく広げ、

「――――」

 空気を吐くような声で呪文を唱えた。

 するとアガーテの手前に、直径一メートル程の魔法陣が七つ連なって描かれた。

 魔法陣を向けられた湊から見たら、たった一つの魔法陣の様に見える。

 七つの魔法陣がそれぞれ意味を持ち、一つの魔法を組み上げていく。

「これが、魔法だ」

 アガーテの合図で、魔法が発動する。

 先程の闇色の雷とは比べ物にならない質量の闇が湊に迫りくる。プラズマの様な形をした闇のエネルギーが、悪意を持って襲ってきた。

 闇が湊に届く直前、勇貴は動いた。

 湊を後ろから抱きしめるように両腕を伸ばしすと、念動力を使ってそれを防ぐ。

 アガーテにペットと呼ばれた先の下級魔族との戦闘では念動力の使い過ぎで意識を失った勇貴だが、今はそれ以上の力が出ているのを感じる。

 勇貴の超能力は、実戦続きでパワーアップしていた。

「貴様も先程から面白い術を使うな。どれ」

 アガーテが勇貴の念動力に興味を持ち、どちらが強いのか勝負、と言わんばかりに気軽に闇に力を込めた。

「湊、光魔法だ」

 闇を防ぎながら負担が大きくなったのは感じたが、まだ心なしか余裕がある勇貴は、湊の耳元で囁いた。

「あいつ、火属性魔法は打ち消したくせに、光属性魔法は触れもしなかった。多分、光属性は魔族に効果があるんだと思う」

「わかったわ」

 湊はそれだけ答えると、呪文の詠唱を開始した。湊の顔が少しだけ赤いのは、魔力の使い過ぎか、それとも。

「まだ耐えるか。もう一つ」

 グン、と音を立ててまた更に闇の力が増大した。

「ぐ、」

 勇貴は目を閉じて歯を食いしばった。辛いが、また意識を飛ばすわけにはいかない。

 少しずつアガーテの魔法に押されていく。闇が近づいてくるにつれて、具象的な恐怖感が二人を襲う。

「負、け、て…… 堪るかあああぁぁぁぁぁぁ!!」

 勇貴は叫んだ。 ミシ、と音が鳴り、ジワリジワリと闇の力を押し返し始める。

 少しずつ、闇を引き離していく。徐々に闇を追いやり、二人とアガーテの中間でまた拮抗した。

 湊の呪文詠唱が終わる。あとは詠唱文のイメージを呪文名と共に固定化し、この世界に顕現させるだけ。

 湊は準備ができたと勇貴を見る。勇貴は目を閉じ、力を振り絞って、

「み、なと、 今だぁぁぁ!」

 今扱える最高の気力を以て、闇のエネルギーを一気に押し返した。

 七つの魔法陣が手前側から順番に砕けて消えていく。

「神槍の(ロンギヌス・ライト)!」

 絶好のタイミングで、湊は最強魔法を発動させた。

 雷の様な槍の様な、一筋の光を握りしめてアガーテに向けて放った。

 音も無く高速で飛んでいく光を見て、アガーテは慌てたように上空に退避した。

「そんな!?」

 自分の全魔力を使った魔法を回避されて、湊は金切り声をあげた。

「フ。我輩に見窄らしく回避行動を取らせるとは、末恐ろしい人間よ。褒美として、次の魔法で一思いに消してくれるわ!」

 空の高い位置から二人を見下ろしてアガーテが言った。両腕を上にあげて、呪文を唱え始める。

「ゆ、勇貴!」

 湊がすぐ横に居る勇貴にしがみ付く。

 勇貴は、

「どうして最初に気が付かなかったんだろう」

 と呟いた。

「魔族の魔法には触れられる。湊の魔法にも触れられた。つまり俺の超能力(ちから)は、魔法に対しては、絶対の効果を発揮するって事なんだ」

 呟いた声は湊にまでしか届かない。だがそれも、湊に向けられた言葉ではなく、独り言のようだった。

「だからさ、湊、お前の魔法は俺が使わせてもらうよ」

 近い距離で目を合わせた勇貴は、微笑んで湊に囁いた。

湊には意味が分からなかった。恐怖の中、首を傾げることしかできなかった。

「俺の、最初の魔法だ! 『神槍の(ロンギヌス・ライト)!』」

 勇貴は湊の使った呪文名を発した。

 上空にいるアガーテの、遥か頭上高くに光り輝くものが見えた。

 それは光速でアガーテを打ち、弾けた。

 先程回避された湊の魔法を、勇貴が超能力で魔族の後ろから天に回し、アガーテに叩き落としたのだ。

「ガアアアァァァァァァァァ!!」

 アガーテは初めてダメージを受けて、低く唸るような悲鳴を上げた。

 稲妻のような閃光を瞬かせたあと、それは小さくなって消えていく。

 閃光が消えたその後には、アガーテの姿も消えていた。

「や、やったの?」

 湊が勇貴に抱きついたまま呟いた。抱きしめている腕の強張りが、少しずつ解けていき、

「魔族を、倒したわ!」

 大きく万歳を取って、また勇貴を力強く抱きしめた。

 抱きしめられた勇貴は、少し照れながらもされるがままになっていた。

そして、抱きしめたまま、勇貴にもたれかかって倒れていく、湊の姿を目で追った。

「みなと?」

 勇貴は間の抜けたように、足元で地に伏す湊の名前を呼んだ。

 しかし、湊からの返事は聞こえない。うつ伏せので倒れている湊の背中の辺りから、血が滲み出ている。

「矮小なる人間の分際で、我輩を怒らせればどうなるか、目に物を見せてくれるわ」

 勇貴の正面から声が聞こえた。そちらを見遣ると、そこに居るのは、倒したはずの魔族。

 己の腕を歪な形の槍に変えて佇んでいる。その切先からは液体が数滴、滴っている。

 アガーテは、槍とは反対の腕を天に掲げ、上空の魔法陣を完成させた。

 魔界とのゲートが完成し、その扉が今、開かれる。

 大きな機械仕掛けの、止まっていた歯車が一斉に回りだしたような段階的な音が鳴り、異世界が顔を出す。

 その次元の狭間から、一体の異形が顕れた。

 続いて何十、何百、何千、何万の魔族の群れが、次々と人間界に侵攻してくる。

「フハハハハハ! 人間よ! 貴様らはこれで終わりだ! 恐怖と苦痛を我々に捧げ、死んでいくがよい!!」

 完成した魔法陣を背景に、アガーテは大きく両手を広げ、高笑いをした。

 勇貴はその様子を見て、しかしそのまま湊に視線を戻した。

「湊?」

 もう一度問い掛ける。やはり返事はない。

 既に呼吸さえも止まっている湊の不条理な姿を見て、勇貴の意識は弾け飛んだ。


『力を望むなら願え、俺が叶えてやる!』


 誰かが、そう言った。

(湊を助けたい! この世界を守りたい!)

 勇貴は薄れゆく意識の中で、命に代えても叶えたい願いを祈った。

 途端、勇貴の内から溢れ出る力を感じた。それは形容しがたいエネルギーで、使い方も分からない異能の能力を突然持たされたような感覚。

 しかし、不思議と勇貴はそれの扱い方を理解していた。

 まるで昔から使っている手足のように、簡単に力を振るう。

「ォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」

 まず、目の前にいるアガーテを殴った。アガーテは物凄い勢いで飛んでいく。

 高速で宙を飛ばされているアガーテの後ろに突如「現れた」勇貴は、右足を振り上げて蹴り下ろした。

「ガ!、ァ」

 木々をへし折って、地面に叩きつけられ、土埃を立ち上らせながら、アガーテは苦痛の悲鳴を上げた。

 普通魔族には効果が無いはずの物理攻撃が効いている。

「な、んだ、貴様の、その力は!?」

 アガーテは恐怖に顔を歪めて勇貴に問いかけた。

 勇貴は森の中を悠然と歩いてアガーテに近づいていく。

「知るかよ、お前を消滅させられたら、なんでもいい」

 勇貴の纏う得体の知れない力に、アガーテは後ずさった。

 勇貴は、ふ、とその姿を見て鼻で笑い、

「魔族の王が聞いて呆れる」

 侮蔑の言葉を口にした。

 勇貴は再び拳を握りしめた。内から溢れるエネルギーを拳に集中させると、空気が歪んでスパークが起こる。

「や、やめ」

 アガーテは命乞いをした。しかし、

「おいクソ魔族、俺を怒らせればどうなるか、目に物を見せてくれるよ」

 勇貴は一切聞く耳を持たず、その拳を叩き込んだ。

 解き放たれたエネルギーは閃光となり、アガーテの内から光が弾ける。

「ギィィィヤヤヤヤヤアアアアアアアア!!!!!!」

 甲高い声の断末魔が響き、今度こそアガーテは消滅した。

 辺りに木霊していた悲鳴が消えて、勇貴は長い息を吐いた。

「湊……!」

 勇貴は幼なじみの名前を呟いて、元来た道を飛んでいった。




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