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超能力者の魔法大戦  作者: 姫浴衣
10/13

光魔法


12


 いつの間にか、十五分区切りの途中経過発表が無くなっている。

 その事に大した疑問を持たずにゲームを続けていた湊。

 既に五人を地獄へと送り、新たなる標的を探して森の中を探索している。

 指先に生んだ炎を松明の代わりにして道なき道を進んでいると、樹の上の木の葉が擦れる音が聞こえた。

 風で揺れている訳ではない。断続的に聞こえる音はまるで足音の様にも聞こえ、近づいてくる。

 湊は松明の炎を天に放り、呪文を唱えて四散、増幅させた。炎が闇を払い、一本の樹の上に人間の輪郭が見えた。

 その人間は樹の上から飛び降りて、湊の前に立ち塞がった。

「足場が見えなくて困っていたんだ。助かったよ」

 そう言ったのは、身長百九十はあるであろう大男だった。本心から言っているのではないのが丸分かりな、皮肉めいた笑みを浮かべている。

「お礼には及ばないわ。貴方を焼き殺そうと思ってやったことだから」

 湊はと言えば、冷酷な笑みを浮かべて本心を語った。

「お、じゃあ早速戦っても良いかな?」

 男は、自分に向けられた敵意にワクワクしているかのように、戦闘を強請った。

 湊は、言葉を返さず、呪文を唱えた。

 湊の早口での呪文詠唱を、男は動かずに黙って聞いていた。

「炎の(フレア・ランス)!」

 湊の呪文が完成し、右手に生み出された炎の槍を男に向かって投擲した。

 男は一度屈伸すると、その反動を使って大きく真上へ跳躍した。普通の人間の跳躍の三倍の高さはあるだろう。炎の槍は虚しく空を切って、男の後方にある樹を燃やした。

 湊は炎の槍の行く末など見ていない。視線を跳んだ男に定めたまま、別の呪文を唱える。

 攻撃力は殆ど無いが、比較的詠唱時間の短い、炎の矢を生み出す呪文。

「炎の(フレア・アロー)!」

 未だ空中で身動きの取れない男に向かって、完成した炎の矢を放つ。

 実際に弓を絞るような動作をつけて放たれた炎の矢は一本だけではない。複数の炎の矢を放射状に放った。

 降下し始めている男に、回避する術は無いように思われた。しかし男は空中で体を胎児の様に丸め、防御姿勢を取ると、見えない壁に阻まれた様に炎の矢が弾かれる。

 炎の矢を防ぎきると体制を戻し、クッションの様に膝を曲げて地面に着地する。

 着地の衝撃を完全に逃がし、男が立ち上がろうをしたとき、湊が唱えていた新たな呪文が完成する。

「炎の(フレイム・ウエイブ)!」

 右腕を天に突き出し、その場でクルリと一回転をすると、湊から全方位に炎の壁――高さは地面から湊が上げた右腕まで――が波の様にうねりを上げて男に押し迫る。

 既に立ち上がりかけていた男は、再び跳躍することはできない。

 男は迫りくる炎に物怖じすることなく、拳を突き出した。それはまるで空手の正拳突きのようだ。

 拳が炎を薙ぎ払う。 いや、正確には拳から噴出した衝撃波の様なものが炎を蹴散らしたのだ。

 周囲に放たれた炎が森を焼いている。湊は次なる呪文を唱えず、男に話しかけた。

「貴方、ただものじゃないわね」

 話しながら男を観察する。先程から、湊の魔法を防いでいるものの正体を突き止めようとした。

「ただの魔法空手部員さ。部員は俺しかいないけど」

 男は空手の型を崩さず言った。

 構えたままの男の輪郭を、薄っすらと陽炎の様なものがちらついているのが見えた。

「貴方の周り、何かいるわね?」

 湊は目を薄めて陽炎を注意深く見た。熱で生まれる陽炎や蜃気楼の類ではない。

 陽炎の様に揺らめく、オーラの様に男の周りを漂っている塊が見えてきた。

「お、こいつが見えるのか。 じゃあ嬢ちゃんは、光か闇属性の素質があるのかな?」

 属性には、純正属性と混成属性の他に、精神二極属性と呼ばれる属性がある。

 光属性と闇属性。これらを含んで、十の属性が魔法界に存在している。

 純正属性と混成属性は、向き不向きはあるが、基本誰にでも扱えることが出来る。

 しかし二極属性は、生まれ持った素質や才能を持たなければ、扱うことが出来ない。

「残念ながら俺は闇属性の素質を持ってるんだ。だから申し訳ないが、こちらから魔法で攻撃することは出来ない。嬢ちゃんを殺してしまうからな」

「だから空手を?」

 湊は臆することなく問い返した。魔法戦になったら必ず勝てると言われて敵を恐れるような魔力レベルではない。

「なら、実験、しても良いかしら?」

 湊は防御しかしないと言外に宣言した男に対して、不敵な笑みを浮かべて言った。

「実験?」

 男は首を傾けて聞き返したが、湊は答えずに呪文詠唱を開始する。

 呪文詠唱と共に両手を使って印を結んでいく。

 いくつもの印を代わる代わる結び、長い呪文を唱え終えた。

「貴方の闇魔法と、私の光魔法、どちらが強いか試させてもらうわ」

 湊は先の質問に答えた。男は、湊の「光魔法」の言葉に反応した。

「もう、光属性の魔法を!?」

 焦りを見せ、男は陽炎を生み出した。今度は自分を纏うオーラの様に見える。

「光の奔流(シャイニィ・ストリーム)!」

 胸の前に合わせた腕を前に突き出しながら、湊は呪文名を発した。

 人差し指と親指同士をつなぎ、指で作られた三角形。それを底辺とした筒状の光が三角柱を模って、オーロラの輝きを放って男に飛んでいく。

 光とは名ばかりの速度の遅い光線だったが、男は避けることはしなかった。

 両掌を湊に向けて突き出し、その光線を手で受けとるような体制を取った。

 いや、違う。湊の放った光線は、男の二~三メートル手前の位置で静止している。

 男の放つ闇衝撃波が、湊の光線とぶつかりあっていた。

 光線と闇衝撃波はしばらく拮抗していたが、男は急に、衝撃波の放出を止めて左側に転がって光線を避けた。

 同じタイミングで湊も、不毛な魔力消費を避けるために魔法を打ち消した。

 転がって片手片膝を地に付けた状態の男は、あらぬ方向を向いていた。

「なに?」

 森の奥、遠くの方に意識を集中させて動きを止めた男に、湊は眉を顰めながら言った。

 男は、湊の方を見向きもせず、

「スマン、ちょっと用事ができた」

 と言って、その方角に向けて走り出した。

「ちょっと! 待ちなさい!」

 つられて湊は男を追いかけた。

 森の中を軽快に走っていく男と、不安定な足元に苦闘しながら必死についていく湊。

 しかしと言うかやはりと言うか、徐々にその差を離されていく。一分も走らないうちに、男は湊の視界から消えてしまった。

「何があって、あんなに必死になってるのかしら?」

 湊は立ち止まって、男の走り去った方角を見ながら呟いた。ゲームの途中で他に意識が魅かれるものは何なのか湊は考えたが、答えなど分かりはしなかった。

 このまま煮え切らない思いでいるのも何だか癪に思えたので、湊は一先ず男の向かった方向に歩みを進めていく。






13


 森の中を走りながら勇貴は考えていた。

(もし、この世界に魔族の大群が出現したら)

 土の中から飛び出ている木の根の凹凸が月明かりに照らされているのを確認して、それを軽い跳躍で避ける。

(俺らは魔族と戦いきれるのだろうか)

 遠くの辺りが炎で照らされている。ゲームに参加してる生徒の仕業か。それとも魔族が既に顕れているのか。

(佐伯さん一人ではあの魔族を倒すことが出来なかった、と考えると……)

 勇貴の念動力の援護があって、やっと倒すことが出来たたった一体の魔族。

(学校最強の魔法使いですら、全魔力を消耗して一体が限界という事になる)

 先の戦いで魔力切れとなった佐伯は、杉松の容体の確認と魔力補給のため、日向の元へと戻っていった。

(魔法大戦部クラスの部員二人で一体を倒せる計算だとすると、学園の生徒全員で対処すると考えても精々三十体程度か)

 勇貴は魔界へのゲートを開ける魔族の探索を、佐伯から任されていた。

 超能力の事を知り、少なからず魔族の攻撃から身を守る手段を持つ勇貴に、佐伯から託された使命は、学園からの援護を待つこと。

(もしゲートを開くにあたって、準備期間があるとしたら、それが終わるのはいつなのか)

 ゲートをすぐに開くことが出来るのなら、魔界の空間魔力を補充した段階で攻めに来て居るはず。

(桜嶺祭の運営チームは、既にこっちの異変に気づいていると思う)

 既にゲームの途中結果発表が止んでいるのは二人とも気づいていた。学園からの救助が来るのも時間の問題だと思われていた。

(まだゲートが開かれていなければ、その魔族を止めればこちらの勝ち。だけど、もうゲートが開かれていれば、最悪の結果になる)

 桜嶺祭は連休の最終日に、学生主体で行われているイベントだ。魔法教育期間中の未熟な子どもではなく、一人前の魔法使いである教師たちの援護は、殆ど受けられないと考えている。

(転送魔法は、そう簡単に使える技術じゃない。先生たちがこちらを援護出来る状態が整っていたとしても、戦力アップは格段に、という訳にはいかないだろう)

 勇貴は援護や救助がある可能性を一切打ち捨てた。「常に最悪の状況を想定すべし」と言う言葉を昔の学者も残している。

(だから、俺がやるべきことは、一刻も早く魔族を見つけて、ゲートが開く前の時間稼ぎをする事)

 勇貴は走る速度を上げた。障害となる岩や茂みを念動力で払い、一直線に、当てもなく走り続ける。




 月の位置である程度男の走り去った方角を記憶していた湊は、月の位置を気にするあまり、足元の注意が散漫になっていた。

 その先が傾斜になっていることに気が付かなかったので、足を踏み外して尻餅をついて斜面を滑り落ちていく。

「痛ったい……」

 こんなところ勇貴になんて見せられない。と恥ずかしい思いでさっさと立ち上がって、尻に付いた土を払った。

 月の位置を再度確認して、見当をつけた方角――落ちてきた斜面に対して平行な道――に向かってまた歩き出す。

 幾許も歩かないうちに、進行方向真正面で轟音が聞こえてきた。

「あの方角、さっきの男が?」

 何者かが戦闘をしている音だと確信した湊は、それを確かめるべく走り出した。

 そして、




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