想い迷いて
初めての短編&ミステリー(&申し訳程度のホラ-要素)。
とりあえず読んでみてくださいな。
セリフ少なめです(でも最後はベラベラ喋ります)。
その人の感じている『想い』というのは一つではないのです。
好きだと感じているのなら、逆の嫌いという感情も同時に感じているということです。
嫌いがあるからこそ好きという感情が生まれてくるのです。
それはまさしく表裏一体、もしくは紙一重。思い方一つで変わっていくのです。
僕はある日、一つの奇妙な出来事に遭遇しました。
その時、あの人は俺にどうしてほしかったのか。
僕にもわからなければ、あの人にも真の感情はわからないのです。
そんな出来事を今からお話ししていきましょう。
───僕は今まで普通に生きてきた。歳は17歳。17年間ほとんど変わらない日常の中で生きていた。世間は変わったとしても僕の日常が大きく変わる、といったことがない。
全くつまらない世の中だ。
いや、つまらないとすら感じない。無の感情ただ一つ。どうなろうが関係ない。生きようが死のうが全くもってどうでもいいとも思える。
たまに感じるこの感情がひどくムカつく。僕という存在が生きているという実感が湧かないこの感覚がとてつもなく腹立たしい。
そんな気持ちの中、僕は授業を終えて帰っている途中だった。
季節は冬。僕は来年は高校3年生へとなる。将来の道も選択しておかなければならない時期だ。
いや、もうすでに遅いか。進学と決めているが、多分大学受験をしても、ロクに何もしないまま卒業となるのだろう。見え透いている。
溜め息をついた。冬の空気に触れて白くなった息が、まさに僕から飛んでいく幸せのように見えた。
誰がこの比喩を考えたのだろうか。この比喩を考えた者は素晴らしいと思う。ちょうどその人も僕と同じような気持ちだったのだろうか。
ふと、気が付いた。
ここはどこだ?
辺りを見回した。僕はどこにいる?何故気づかなかったのだろうか。
何故なら僕が現在立っている場所。それが室内、しかも古い建物の中だったから。
コートを着ている。そして、学校のカバンも持っている。体が冷えているので今まで外にいたという事実もある。ということは僕は急にこの部屋にいたということになる。おかしいどころではない。こんなことありえない。
薄暗いが中が見えないわけではない。床や壁にかかっていた絵を見る限り洋室というのがわかる。
いつの間にこの部屋に入った?
そもそもどこから入ってきたのだ?
建物の一室らしくドアが一つしかない。けれども、そのドアを開けてみるとそこに広がっていたのは廊下だった。窓があったがかなり古いのかガラス越しだと外が見えない。建て付けも悪いのか、窓が開かない。ただぼやけていても人は見えるはずなのだが、歩いている人影は見えないので1階では無いらしい。
それなら尚更ここはどこなのだろうか。とにかく出口を探すことにした。
見知らぬ場所に気づかないうちにいたというのに、自分でびっくりするほど冷静だ。考え事をしていたから、とかそんなレベルじゃない。誰かに連れてこられたのか?そんなはずもない。僕の記憶が正しければ人通りが少ないわけではない。それどころか今の時間帯なら下校途中の学生や帰宅中の会社員だっていたはずだ。
そんなところで目立つような行動はできない。ということは、やはり知らぬ間にこの部屋に入っていたということになる。それしか考えようがない。
にしても、この建物は何なのだろうか。見たところ、ホテルか宿舎といったようなものなのだろうか。
窓はどれも古いのか、外の景色はぼやけてしか見えない。
そこで気づいた。何故、外が見えないほど古くなったガラスが割れていないのか。どれも見えなくなるほど古くなっているのにどれ一つ割れずに、きっちりと窓枠に収まっている。
床もところどころ腐っている場所もあった。
結構都会のほうのこの町にはそれほど古い建物は存在しないはずだ。階段には通れないほどでは無いがかなりの量の瓦礫や木々が積まれていた。
どんどん怪しくなってきた。
1階の玄関らしき大広間に着いた。受付などがあるところを見ると、やはりホテルか何からしい。そして僕は玄関に手を掛けドアを開けようとしたが・・・。
開かなかった。
カギが閉められていた。内側にカギ穴があるところを見ると外から?ドアに体当たりしてみたが木製のドアはビクともしなかった。もちろん、大声で助けを求めたが誰も気づいてないらしい。
ここはかなり危ない雰囲気の場所に思えてきた。早く脱出しなければならない。
ガタン!!
と、後ろのタンスから音がした。知らない場所に閉じ込められたという動揺と早く脱出しようという焦りからか、かなり驚いた。
何がいるかはわからない、だが、とにかく脱出の手がかりが欲しい。
僕は意を決してタンスを開けた。
そのタンスの中には女性がいた。
女性はかなり怯えていたらしく僕を見るやいなや、僕に抱き着き他の人がいたことに安心して気持ちが緩んだのか泣いてしまった。
無理もないのだが、今はこんな時ではない。
僕は彼女の話を聞いた。
「私は夏奈と言います。さっきはすみませんでした、いきなり泣いてしまって。私以外に人はいないと思ってたんですが、他にもいて良かったです」
彼女がタンスに隠れていたのは、人とも非ずまさに化物、怪物と呼ぶに相応しいものに追いかけられ、殺されそうになったかららしい。
その化物は、手に大の大人の身長ほどある斧を持っていたという。
夏奈さんも玄関から出ようとしたが開かず、カギを探していた途中にその化物に出会ったらしい。
顔は鉄仮面で隠れていて、髪はボサボサに伸びきっていて、ボロキレの様な服を着ていて、理性が無く本能のままに殺しにかかってきたという。
僕と夏奈さんはお互いがあった出来事を話し、一緒に行動して脱出口を見つけようと行動に出た。いつ化物がでてきても大丈夫なように警戒しながら進んでいく。
途中で、何体かの死体を見つけた。
見たところ、死体は切り刻まれていて壁や床に傷があったのを見るとその化物による斧で殺されたのだろう。
死体から腐敗したにおいがしておもわず吐きそうになる。先に進むほど死体はひどくなっていく。残酷だ。
そうだ、これが死だ。
何が生きるも死ぬも一緒だ。馬鹿だ、僕は。命を軽く見ていた。
僕はこんなところで死にたくない。なんとしても脱出しよう。
「すみません、2階にも部屋があるなら2階見てみませんか?」
夏奈さんは最初から1階にいたというので2階には行ってないとのことだった。たしかにまだ見ていない部屋もいくつかあった。僕らは2階へと移動した。
そして、そこにいた。あいつが。
鉄仮面にボサボサの長髪、そしてボロキレのような服。そして、手には大人の身長ほどの斧。
まるで野生の動物のような匂いがしてくる。
恐怖しか感じなかった。足が動かない。逃げれない。殺される。
ゆっくりとこちらへ近づいてくる。処刑人のように。まるで今から殺すのを当然というように。
遂に目の前まで迫ってきた。
そして、斧を振りかざし、僕と夏奈さん、二人にめがけて振り下ろした。
人を切る鈍い音がして。
僕は横に吹っ飛ばされた。
いや、横だと?だが、すぐ把握した。身の前の光景を見ればすぐわかった。
夏奈さんが僕を庇ったのだ。
なぜなら、化物の斧が切ったもの。それは夏奈さんだったから。
違う、こんなもの人じゃない。
人なら上半身と下半身が真っ二つになるはずない。こんな、池のように血が出るはずがない。
そんなはずない。人形か何かだ。嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
こんなはずないこんなはずは・・・ないんだ・・・・・・。夢・・・じゃないのか・・・。
夏奈さんの目はもう曇っている。目の焦点が合っていない。どこか遠くを見ている。もう、生きている人の目ではない。僕でも見ればわかる。
血は遂に僕のところまで流れてきた。
なんだろう、この感覚は。人が目の前で死ぬとこんな気持ちになるのだろうか。化物は床に刺さった斧を抜いた。次は僕か。殺すのか、僕を。
もうだめだ。逃げ切れる気がしない。殺せばいい。本能のままに。
もう諦めるしかない。いや、駄目だろ、諦めたら。でも、諦めるしかないじゃないか。死ぬのを待つのか。それしかもうないじゃないか。
でも、死にたくはないんだろ。
・・・そうだな、もう少しがんばるか・・・・・・。
僕はゆっくりと立ち上がった。同時に化物が斧を床から抜いた。
夏奈さんが逃げ切れたなら、そこまで足は速くないはずだ。
廊下を駆け抜けた。そして、1階へ降りた。
化物は足が遅いのかすぐ撒けた。
実は心当たりがあった、カギの場所に。多分そこにあるはずだ。
そして、そこで脱出できるか決まるだろう。
多分、それなら辻褄が合う。
この建物は分からないが、閉じ込められた理由も。
場所は、1階一番奥の部屋。ここで夏奈さんに提案され、2階へと引き返した。そしたら、化物がいた。
まるで仕組まれたように。
ここの時点でおかしいと気付くべきだった。焦りと動揺のせいなのだろうか。
冷静に見返せばおかしいことばかりじゃないか。
「ねぇ、夏奈さん。ここにあるんでしょ?玄関のカギ」
僕は話しかけた。
化物とその横にいた夏奈さんに。
「そうよ、そこにあるのが玄関のカギよ。で、どこで気が付いたのかしら?わたしが死んでいたって」
「そうですね、思い返してみれば言動もおかしかったんですよ。『2階にも部屋があるなら2階も見てみませんか?』って言ってたんですよ。最初はあの死体が嫌だから言ったのかと思ったんですけどね。こんな広い建物なら1階にも他の部屋はけっこうあったはずだから、普通は『他の部屋も見てみませんか?』っていうところだと思うんですよ。ここの廊下のじゃなくて他の廊下の、ね。それなのに夏奈さんは2階へ行こうといったんですよ。だって、僕は2階はかなり調べましたもん。来た直後は冷静だったもんなので。そのことも話しましたよね、僕。あと、もう一つ。化物に会ったときです。夏奈さんは化物に一度会ってるんですよね。その時はすぐ逃げたのに2回目はなんですぐ逃げなかったんですか?少なくとも一人で逃げられたはずですよね。あと、化物の狙い方も不自然だったんですよ。僕たちを狙いはしたものの、僕らのまさに真ん中を狙ってきたんですよ。そして、夏奈さんはまるで自分から死ににいくように僕を庇った。まぁ、これは微妙なんですがね。僕なら出会って数十分の見ず知らずの人なんか絶対庇えないですよ。どうです?こんなもんです。誰でも思いつきそうでしょ?」
夏奈さんは笑った。狂ったように笑った。笑い笑い、笑い転げるほど笑った。
「私もなまったわね。久しぶりの獲物だったから。あの時のあなたみたいな奴は本当に漬け込みやすくって。こうやってここに誘導して精神的に追い詰めてからなぶり殺すのが好きなのよ」
やっぱり今までの死体も夏奈さんがやったものだったか。
だが、もう一つ引っかかっているもの。
「なんで、あの時点で殺さなかったんですか?なぶり殺しもできたし、精神的にも追い詰められていたと思うんですけど」
そう、あの時点でもう僕のことを殺せたはずなのだ。
夏奈さんのシチュエーション通りに。
精神的に追い詰め、なぶり殺しに。
「本当は殺そうとなんか思ってなかったんでしょ?本当なら庇う必要だってなかったわけですし。あの時点で夏奈さんのことは信じきっていたから。死んだ後からなんかおかしいと思いましたよ」
「・・・・・・」
夏奈さんは俯いたまま顔を上げない。
「・・・・のよ。私だった苦しいのよ!なんで私だけこんなところに閉じ込められて!殺してもみんなはどこかへ消えていって!私が残る!おかしいじゃないの、それ!私だけが苦しんで!誰も私を救ってくれない!なら、みんな苦しんで死ねばいい!あなたもよ!」
夏奈さんが怒りを露わにした。
そして、化物の持っていた斧を持ち、僕に向かってきた。
「死ねぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
だが、もう大丈夫だ。振り下ろされた斧はドアをぶち破った。
そして、その部屋にあったのは人形のように綺麗な死体、そしてその首にかかっていたのは、
「あれがカギか!」
カギを取り、玄関へと向かった。
まだ夏奈さんは追ってくる。だが、僕のほうが一歩早かった。
カギ穴に差し込んでドアを開けるとまぶしい光が差し込んできた。
「お願い、帰らないでよ・・・、私も・・・助けてよ・・・」
ふと気づいたら歩道の真ん中に立っていた。ボーっとしていたらしい。なんだか記憶が曖昧だ。
まさか、道路の真ん中で寝ていたわけではあるまい。
なんか晴れ晴れとしない。なんだかこれで良かったのかという、そういった気持ちだ。なぜ、こんな気持ちなんだろうか。だが、さっきのような感情はどこかへいってしまった。
雪が降ってきた。そういえば冬なのに今年はまだ降っていなかった。初雪か。
そういえば、体が暑い。走っていたわけでも無いのに。
そして、カバンがない。どこへいった。
初めての短編です。制作時間2時間。
言葉の掛け方もまるで素人ですな。
謎が謎のままだったんで自分でも少ししっくりこない終わりになってしまいました。初めてはこんなもんかな。ホラー要素も申し訳程度しか入っていませんでしたし。
今回のテーマは『想い』でした。
ヒロイン兼ラスボスの夏奈さん。来た人を苦しませて殺そうとしていましたが、同時に助けてほしいという想いが入り混じってましたが、本当の気持ちは夏奈さんでもわからない。そんな感じです。ハッピーエンドでもなければバッドエンドでもないですね。
※裏設定
僕:17歳。来年受験。クラスでも浮いてる存在。今回の出来事は残念ながら人生を変えるには至らなかった。カバンはどうなったのやら・・・。
夏奈:?歳。昔、あるホテルで殺された。その後、ホテルでは怪奇現象が起き、坊さんに念を掛けられ、このホテルに封印された。だが、そのせいで成仏ができなくなってしまったので助けを求めてるが、誰にもその想いは届かない悲劇の少女。