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黒コ

黒コ

   黒コ


 外では雨が降っていた。今の季節は梅雨だ。当然と言えば当然の光景だ。

私は梅雨という季節が嫌いではなかった。この暑い季節にコートを着ていても周囲から浮かずに済むからだ。

両親は私が小さいころに交通事故でなくなった。私はその後、親戚の叔父夫婦に預けられた。

叔父は私を本当の娘のように育ててくれた。いくら感謝してもしたりないぐらいだ。

両親が残してくれたものはそう多くはなかった。残ったのはそこそこの遺産と父が愛用していた黒のコート。

 叔父は私によくしてくれたが、寂しくなかったと言えば嘘になる。そんなとき、私はよく形見のコートを羽織っていた。そうしていると、両親が傍にいるように感じられたからだ。

 だから私は雨が嫌いではなかった。


 ●


 ある日のこと。大学から帰った私は沈み込むようにベッドへ倒れこんだ。

 ここ最近は忙しくて疲れがたまっていたのだ。意識はすぐに薄れていき、数秒ほどで寝入ってしまった。

 不意に目が覚める。意識はまどろみ、夢か現か判断ができなかった。

 それでも、誰かが頭を撫でてくれているのだけは感じることができた。顔を見ようとするが、フードを深くかぶっていて誰だかわからない。わかったのはその人が着ていた黒のコートとどこか懐かしい感覚。その気持ちよさに誘われて、私の意識は再び闇へと落ちて行った。


 ●


 結局、あれが夢か現か判断のつかないまま数日が過ぎた。今日も雨で、少し気分を高揚させながらコートを羽織る。昔は十二単のようだったコートも、ぶかぶかとはいえ着れるようになってきた。

「行ってきます」

 逆さのテルテル坊主に挨拶し、大学へ向かった。


 今日は講義が長引いてしまい、帰るのが遅れてしまった。ドアノブを掴みつつ鍵を探すと、鍵がかかっていなかった。

 きっと鍵をかけ忘れたのだ――そう自分に言い聞かせ、ゆっくりとドアを開ける。

 中に誰もいないことを確認し、ホッと一息ついた瞬間、ドアの裏から手が伸びてきた。悲鳴を上げる間もなく部屋に引き摺りこまれ、ドアに体を押し付けられる。

 男の眼は血走り、手にはナイフを持っていた。恐怖で体が強張る。死を覚悟した瞬間、コートが突然脱げていた。そして、空き巣の男に絡みついたのだ。男は必死にコートをほどこうとするが、拘束が強く離れない。やがて、首を絞められた男は酸欠で倒れこんだ。

 とりあえずの危機を脱したものの、形見のコートはボロボロになっていた。

「もしかして、あれは君だったの?」

 コートは何も答えず、ただ懐かしい温もりを与えてくれた。


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