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第15話 作戦続行



 この扉からは、何処となく禍々しさを感じる。

 この先に何があるのか分からない。

 その恐怖心が、クハパリを刺激した。

  

「ねぇ、ここ不吉だよ……もう戻ろ――」


 だが、ウチは扉の奥が無性に気になった。

 まるで依存しているかのように。

 気になる……めちゃくちゃ気になるのだ。


 そう思い、この禍々しく(しつら)われた巨扉を開こうとした。


 ――開かない。


 ウチは扉に顔を擦り付けながら手探りで何とか向こうに行けないか探した。

 扉の隙間に足や手を引っ掛けて、登った。


「はぁ……はぁ」


「ねぇ……早く行こって……」


「はぁ……はぁ……」


「ねぇって」


 息が荒くなるほど、ウチはこの奥に興味があった。

 いや、興味という言葉で片付けていいような生半可な感情じゃなかった。

 誰かに誘われているような、そんな執着を見せていた。


「はぁ、はぁはぁ……!!」


「ねぇってば!」


 背後で何かが振り下ろされる気配がした。

 思考より先に体が強張り、その瞬間、我に戻った。


「え……」


 ウチは戸惑った。

 目の前には聖本を両手に息を切らすクハパリ。

 何が起こって、何が行われたのか分かっていなかったのだ。

 

(……殴られたのか)


 今さっきまで、ウチが何をしていたのかはよく覚えている。

 だけど何でウチは、こんな奇行に走ったのかが覚えていなかった。

 ウチはこの本に然程の興味もなかったのに。


「もう……行こ……」


 唾を飲んで、息を整えるクハパリを見て、ウチは漸く冷静さを取り戻した。 


「う、うん……」


 あの巨扉の奥には、何が置かれているのだろう。

 そんな疑問を抱きつつ、そんな考えは墓場まで持っていこうと誓った。


――――――――――――――――――――――――


 一階に戻ってきたウチらはマダグの元へ戻った。


「お、シロとクハパリじゃねぇか。丁度呼びに行こうと思ってたんだ」


 さっきマダグは全員揃ったら作戦会議をするって言っていた。

 人がさっきより多くなってきた気がする。

 全員揃ったってことだろう。


 でも……作戦会議って何についてだ?

 罠を張るにしてもここ図書館だよ?

 ……いいのか?

 いや、何も罠についてではないか。

 ……だとしても何についてだ?


「ねぇねぇ。おーい、シロくん……」


 何処からか声が聞こえる。

 この声はネルだった。

 そう言えば、今は机上に顔を疼くませながらお昼寝タイムだった。


「ここにいる人全員ギャングの人……? 怖いんだけど……」


 ネルは机に額をつけたまま、声だけを投げてきた。

 おそらくグローブの人と目を合わせるのが怖いから、顔を上げられなくなったってところか。


 もしグローブの奴らがウチらを裏切ることになってもこいつは置いていこう。


 横目にニアスが見えた。

 ニアスは険しい顔をしていた。

 やっぱりニアスも文字だけしか書いていない本は読みづらかったか……。わかるよ。


 ウチだって小説は読みづらくって仕方がない。

 挿絵が唯一の救いだ。


 ウチのそういう想いが顔に出ていたのか、ニアスの眉は眉間に寄っていた。

 顰めていたって表現するほどではなかった。


「よーしお前ら作戦会議を始めるぞ! 円卓に並べて」


 ここで、マダグからの掛け声が入る。

 その声によって素人組全体はマダグの近くに身を置いた。


――――――――――――――――――――――――


 まずウチらはアビリティの術式を教え合った。

 グローブの一員は数多くいた中で僅か五人しかアビリティ持ちがいなかった。

 ……やっぱりアビリティって結構レアなのか。


 アビリティの術式は以下の通りだ。


 ウチ:

 よくわからん


 ニアス:

 水を固める

 頑張れば柔らかくすることも可能


 ネル:

 聴覚の感度を上げる

 誰でも対象内

(それ以外言ってない)


 マダグ:

 触ったものをストックし透明でアイテム化する

 弾丸などは形はストックできるが、火薬は作れない


 ギスターナ:

 炎、水、風、雷タイプの一つをランダムで配る

 これらは四竦みである

 タイプ相性は以下の通り

 炎→風→雷→水

 タイプ相性で有利不利になると以下のことが可能

 ・受けるダメージの増加

 ・炎の場合、持続的ダメージを付与

 ・水の場合、移動速度低下を付与

 ・雷の場合、一定時間行動不能を付与

 ・風の場合、ふっとび率増加を付与


 他にもいるらしいけど、ウチらとは別行動ということで、ウチらには教えてくれなかった。

 素人組の中では全員知っているみたいだし、部外者に教えるってのも犯罪者なだけあって危険だからな。


 でも今回はネルは参加しない。

 そもそも攻撃力が弱いんだと。

 ネル自身が言っていた。

 さらに使いすぎると効果がなくなる。

 焼け石に水だ。


 そしてマダグ。

 銃と弾丸は生成できるけど、弾丸の中の火薬は生成できないから発射されないらしい。

 銃をニアスに向けたのは、あくまで脅しだったのだろう。

 ってことはやっぱりこの世界に銃はあるんだな。

 でも、銃より強いアビリティなんていっぱいあるんだろうな。


 ギスターナ。

 こいつはもう作戦を伝えてあるからここにはいないらしい。

 今は玄人組の偵察だ。

 大人だけど素人組って言ってた奴か。


 ゲームをやっていた身からすると、こいつの能力は結構強い。

 特に雷の属性だ。

 殴るだけで動けなくするってことだろ。

 つまり連打すれば一方的に攻撃ができるってことだ。


 ただしこいつの能力は武器を通しての攻撃ができないところは残念だ。

 つまり、アビリティが通るのは拳だけ。

 マダグがそう言っていた。


 あとそもそも相手が水、自分が雷という状況を引ける確率は低いだろう。

 再抽選はあるにはあるらしいが、条件が難しいらしい。

 しかも立場が逆なら諸刃の剣というわけだ。


 そして玄人組との対決の内容はこう。

 ギスターナの伝言によると、明日玄人組が来る。

 明日ということは計画的な犯行だろう。


 何なら、ここからグローブ事務所は遠い。

 もう出発しているそうだ。

 多分ギスターナも同行していると思う。

 っていうか思いたい。


 門にきたらマダグが足止め。

 話がしたいと言いライグ(マダグの親父)だけを書庫の中に連れてくる。

 今回はライグだけを倒せばお終いだ。

 後の玄人組は素人組が足止めしてくれる。


「はいはーい!」


 ネルが手を上げて元気よく言った。


「はいそこ」


 マダグがネルに指を指し、発言を許す。


「何でライグを倒せれば終わりなんですかー?」


 今回の作戦、ネルは関係ないだろ。

 そう思う反面、やっぱり気になる。

 作戦は詳細であればあるほど効くからだ。


「全員アビリティ持ちじゃないからだ。無論、拳で抵抗はしてくるだろう。だが、親父抜きではグローブは機能しない。みんな親父についてきたからな」


 ギャングとも言えど、友情を大切にするのか。

 ウチらもだけど……

 ウチらは犯罪を犯すほどの悪人じゃないからさ。

 

「ごめん。私情な上に水を差すようで申し訳ないんだけど……俺らの報酬って具体的に何を貰えるんだ?」


 ニアスがここで疑問を呈した。


 報酬をもらえるって話はニアスから聞いていたけど、ニアス自身何をもらえるのかは聞いていなかったのか。


 何だろーなー。

 お金かな。

 普通はそうだよな。

 でも、今回の相手は()()じゃない。

 反社の人だからな。

 食べ物か?

 食べ物でもいいなぁ。

 乗り物?

 まさか……


「――別荘は?」


 へ?


「別荘……? それってどういう?」


「あ? そんまんまだぜ。グローブの事務所を使っていいってこった」


「僕たちはギャングなんてやりたくないからね。世界を股にかけて冒険したいんだ」


 グローブの仲間と思われる人がそう言った。


 マジ?

 貸してくれんの?

 ま、まぁ、この恩義を潰すような真似はできないよな。

 勿体無いし。


「シャーネーナー。モラッテヤルヨ」


「あ、別に要らないんなら――」


「要ります」


――――――――――――――――――――――――


 作戦会議でマダグが言うには、明日ライグが来るって言っていた。

 まぁ相手の気まぐれで早足で来るかもしれないけど……

 時間ができちゃったな。


「何しよぉぉぉぉ!」


「うるさい……」


 暇だ……

 現実の世界なら全部体験できない程娯楽があるのに。

 この世界の人たちって何して遊んでるんだ?

 じゃんけん?

 鬼ごっこ?

 

 でもウチインテリだし。

 クハパリもネルもいないし。

 ニアスは……さっきから怖い顔してるし。

 マダグとグローブたちは忙しそうだし。

 遊ぶ相手が……いない。


 ――とりあえず外に出て空気でも吸うか。


 そう思い出口に向かった。

 すると出口には本が並べられてあった。

 見出しを見る限り、ここ書庫イスベルトの創設者の背景が書いてある本が並んでいるそうだ。


 ――武勇伝みたいなもんかな。


 そう思って手に取って、パラパラとめくってみた。


――――――――――――――――――――――――


 〜イスベルトブリュー 栄光の数々の裏側には〜


 3ページ

 ――以下の功績を挙げてきたイスベルトブリューは、なぜこの様な発明を作るに至ったのか――


 (これはこの人の出所についてのページか。パスだパス)


 18ページ

 ――中でも、イスベルトブリューの成した初の功績の結晶がこの『ワプール』。壁や天井などに貼り付けると通り抜けることができる。だが、読者の皆さんには知らない方が多いかもしれない。何故ならこれは17年前の産物だからだ。現在は実物は残っていなく、本人も行方不明に。研究記録だけが――


(おぉ! どこかでみたことがあるぞ! 確か名前は通りぬけフ◯プだった様な……っていうか、書庫イスベルトってこの人から来ているのか)


 32ページ

 ――ということがあったのだ。ちなみに、現在の硬貨の単位である『ルト』やイスベルトブリューの出身である場所の港『ベルトポート』はここから由来する。


(あぁ、ここから来ていたのか。偉い人を単位にするのは珍しいよな? 日本だとお札に偉い人を起用していたな。某首相さんと同じくらい偉いのか?)

 

――――――――――――――――――――――――


 一通り読み終わった後に疲労感が募ってきた。

 

 駄目だ……

 文字ばっかで読む気が失せる。

 だからと言って断片的に見たけどよくわからない。

 まぁでも、時間は潰せただろ。


 そう思い、外に出てみた。

 やっぱり人は時間を気にしたくなるだろ。

 ウチもだ。


 だが、この世界、時計がない。

 そしてウチは世界の空に注目した。

 前に夜は赤色に輝くとか何とかいってたが、昼間でも若干赤いんだ。

 純潔な青色じゃない。

 だから、空がどれくらい赤いかで見ることにした。


 空を見上げた。

 そしてウチは絶句した。


「――尻だ」


 ウチは空の色に驚いたわけではない。

 確かに本を読む前と後ではだいぶ色が変わっていたから、意外と早いなんて思った。

 だが、次の瞬間――視界には宙に浮かぶ尻が見えた。


 ウチはあれをみたことがある。

 確かこの世界に来た時だ。

 宙に舞うウチがそれを見た。

 その後ネルに話した時は軽く一蹴された。

 あの時は自分の目の悪さも疑ったが、今この瞬間、尻が宙に浮かんでいたことに確証を得た。


「ねぇ! ニアス!」


「あ?」


「宙に尻が浮いてるよ!」


 その言葉でニアスは目を見開いて空を見上げた。

 そしてウチもこの瞬間を逃したくないという思いで、すぐにまた宙に浮かぶ尻をみた。

 だが、そこにはもう尻はなく、あるのは虚空だけだった。


 ニアスはウチに蔑む様な視線を向けていた。


「いや、あったあったって。あったあった。本当にあった」


 違うんだ!

 ウチは虚言癖でも何でもないんだ!

 信じてくれ!

 というか、嘘ならこんなすぐわかる様な嘘を吐くわけがない!

 ウチもそこまでヴァカじゃない!


 ウチは頭の中で必死に弁明する。

 それでも、ウチの思考をニアスは汲めない。

 口で言っても「何言ってんだ」とウチを邪険にするだろう。

 二度あることは三度ある。

 次見た時は何も言わないでおこう。

 ウチは諦め、そう硬く誓った。


――――――――――――――――――――――――


 翌日、眩い日光に身体を晒されて朝を迎えた。

 昨日は書庫で夜を過ごしたが、布団もシーツもなかったため朝が早くくるのを願うばかりだった。


 今日は玄人組が来る日。

 昨日来なかったということは気まぐれは起こさなかったのだろう。


 クハパリとニアスが起きてきた。

 怠そうな表情。

 肩に手を置く仕草。

 こいつらは筋肉痛や肩凝りなんかで悩まされる朝を迎えたそうだ。


 ストレイダーズとは対照的にグローブはテキパキ働いていた。

 書庫の本や棚をなるべく避けたり、何か紙を持って指揮を執る者もいた。


(ウチらだってグローブとは関係ないものの、家を貰える立場なんだから少しぐらい頼ってもらって構わないのに)


 そう思いながら申し訳ない気持ちに陥った。


 ――準備が終わった。

 ここからはライグ率いる玄人組を待ち伏せるだけだった。

 ウチらは書庫の中の端に待機。

 素人組は書庫の外の森に姿を隠す。

 マダグだけが入り口にて待機。

 なるべくマダグ一人きりだと思わせる作戦だ。


「本当に今日くるの? 明日って可能性は?」


「知らねぇよ。俺らグローブじゃねぇし」


 相手はギャングだから、負けたら拷問とかされんのかな。

 ――そういえばギャングの中に一日一回は拷問しなきゃ気が済まないってやつがいるって言ってた。


「きゃぁぁぁぁ!!」


「うるさい」


 ウチのほっそい声を聞いて一蹴するニアス。

 そんなやりとりを小声でしていると、ネルが何かに気付いた。


「シー。来たかも……」


 その瞬間、一気に真面目モードになった。

 ウチは息一つ音を出さない様にゆっくりと深呼吸をする。

 こういう真剣な状況はあんまり好きじゃないけど、今は我慢しなくちゃな。


 そう思いウチも息を潜めた。


――――――――――――――――――――――――


 ――門の前で待ち構えていたマダグはついにライグと玄人組と顔を合わした。


「邪魔だ。退けマダグ」


 ライグは実の息子であるマダグに対して冷たかった。

 玄人組もそうだったらしい。

 だから今回で片をつけようとしていたらしい。

 ――なんてひどい親だ。

 心底そう思った。

 ウチが親になったらライグを反面教師にしよう。


「親父、中で――話がしたい……他の人らは待ってて欲しいんだ」


 窓を覗いて見えるのはマダグと玄人組。

 マダグは震えている様にも見える。

 どういう表情かはわからない。

 けど、震えているということは何か怖い思いをしているのか、外が寒いかだ。

 ――流石に前者か……?


「そんなんでボスが行くわけ――」


「黙れヒョムスル殺すぞ」


 窓越しには、ライグが凄い形相で部下の言葉を遮ったように見えた。

 あんな顔で睨まれたらオレのウィークポイントが小さくなっちゃうよ。


「うおッ!」

 

 マダグとライグがこっちに来たぞ。

 作戦通りってことでいいんだよな……?


 マダグとライグがこちらに一歩踏み出す度に部屋には緊張感が増す。

 巨扉の左右の角にはウチらが待ち構えている。

 仲間同時で顔を見合わせる。

 

(頼む……気づかずに中に入ってきてくれ……!)


 マダグは書庫の扉を叩いた。

 ゴゴゴと大きな音をたてながら二人は入ってきた。

 段々と奥へ向かう。

 彼らはこちらを振り返らない。

 気づいていないんだ。

 そんな二人を見てわかった。


「――作戦続行だ」


 


       〜 第十五話 完 〜

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