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最強の大魔法士、TSしてのんびり魔法書店の看板娘になります  作者: 冬葉月
魔法書入門編

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第8話 初めての問い合わせ

 くだんの女の子のお客が来店後、私はカウンターの中で座ったままじっとしていた。正確には、床にこぼれたお茶を雑巾で拭いた後、じっとしていた。彼女はこんなへんぴな魔法書店にわざわざ来ただけ会って、別に遊びに来たわけでも、様子を見に来たわけでもなく、ちゃんと魔法書を探しに来たようだった。


 本棚を眺めながら店内をうろうろとし、何かしら、お目当ての物を探している様子。しかし、あまり魔法に詳しいようには見えない。最初、真っ先に一番奥へ向かい、ランク9の魔法書が詰まった本棚を見始めたために、むしろ見かけによらずとんでもない熟練者なのかと戦々恐々とした。


 が、お目当ての物がそこにないと分かると戸惑うようにうろうろとし始めて、並ぶ魔法書の背にあるタイトルを眺めて、店の中をぐるぐると回り始めた。回遊魚のように漂う彼女を眺めて、もう三周目になるような気がする。


 どうしよう……店主としては、ここで図々しく話しかけたりせずに、ゆったりと待ち構えるべきか、はたまたむしろ店主として、積極的にお客の要望を聞き出すべきなのか……。でも押し売りみたいになるのも嫌だしな……そうでなくとも、こちらから急に魔法のレクチャーをしだしたところで、初心者にやたらと話しかける自称上級者になりかねない。


 ともかく、あまりお客の様子をじろじろ見ているのは良くないだろう。魔法協会からもらった魔法書店経営のマニュアルでも読んで、仕事してるっぽく振る舞うとするか。


 現時点で開店に必要な本がそろったわけだが、これからは新しい本の注文と、それと入れ替える本の返品がある。と、説明されているのだが、いまいち作業の流れがピンときていない。やはり近いうちに、また魔法協会の支部を訪れて、質問しに行かなければならないか……。


「あの……すいません」


 と、自らの作業に集中しだしたとたん、お客に話しかけられた。うん、懐かしい感覚だ。昔っから、なぜか自分の仕事を始めようと思って、集中モードに入った瞬間に別件で話しかけれて、振り出しに戻されるのだ。


 今回に関しては他人に命令されて行う給料のための仕事ではなく、自分の趣味でやっている暇つぶしの仕事のようなものなので、何ら不快感はないが。むしろ来ていただいているだけありがたいし、話しかけもらえるのもこちらからぐいぐい行きにくい以上、とてもありがたい。


「はい!? あ、失礼。なんでしょう?」


 ただ、まさか話しかけられるとは思っていなかったので、間の抜けた声が出てしまったが、そこはまあ、TS後のかわいい声ならまだマシだろう。老人の間の抜けた声ならば、魂が抜けている状態と区別できない。


「一番上の本を取りたいんですけど……踏み台とかありませんか?」

「お任せあれ。このくらいなら、私にも取れるぞ」


 と、彼女が指さす本の前に立ち、つま先立ちになりながら手を伸ばして本をつまみ……届かない! そうだった、身長が昔よりはるかに縮んでいるのを忘れていた。いやしかし、ここでさっと手助けをして風格を見せなければ、魔法書店店主としての尊厳に関わる! 意地でも取らなければ! 全ての関節を伸ばし、思いっきり片手を上に突き出して、指先が本棚の一番上の段にギリギリ触れるくらいまで──は行けたが、やはり本を取るにはあと手が一つ分は足りない。


「あ、あの……やっぱりいいです……」


 お客の女の子は、気まずそうにその場を立ち去ろうとした。

 まずい、尊厳が砕け散るどころか、初めてのお客までいなくなろうとしている! そんな訳にはいかない!


「まあ待て! ちょっとだけ待ってくれ! 今取れるから!」


 時間稼ぎの言葉を並べて、慌ててカウンターに走る。カウンターの裏側には自前の魔法書が並んでいて、一番下の一冊を抜き取った。それは物を吹き飛ばす魔法──を、めちゃめちゃ低出力にアレンジした魔法書である。用途はベッドに寝たままちょっと机の上に忘れ物をしたときに、ぴょんと吹っ飛ばしてキャッチするためだが、このさい高い物を取るためにも使えるだろう。


 魔法は応用が大事だ。こういう機転の利かせ方が大事……というか、そもそも高いところなど、本当に手の届かないところの物を取るときに使うべき魔法書であって、かつての私がやっていたように、面倒くささゆえに使うべき物ではないのでは? と気づいたが、すでに過去のことなので気にしないことにしよう。


 さて、急いで走っても戻り、取りたい魔法書を右手で指さして、左手に持った魔法書を起動する。指さした魔法書は、まるで本棚の裏にバネでもくっついていたかのように、ひとりでに本棚から飛び出す。私が上手いことキャッチして、お客の女の子に差し出した。


「こ、これで間違いないか? 他にもあればまとめて取るぞ?」


 念のため聞いたが、彼女からは返事がない。口を開けたまま、まっすぐ魔法書を見ている。何かやらかしたか? と心配したが、実際は驚嘆しているだけだった。


「す、すごい……これが本物の魔法なんだ……」


 やはり見立てどおり、魔法に関しては素人のようだ。その口ぶりを信じるなら、魔法を見たことすら初めてのよう。


「まあ曲がりなりにも魔法書店の店主をやっているからな、私」

「そうですよね……やっぱり、魔法にも詳しいんですか?」

「もちろんだ。聞きたいことがあったら、何でも聞いてくれていいぞ」

「助かります! ずっと聞こうか迷ってたんですけど、静かに作業してたからあんまり良くないかなって……」

「いやいや、ぜんぜん気にしなくていい! ガンガン話しかけてくれ、話すの大好き!」


 それは嘘だが、まあ、会話の最初にフランクなイメージを作るのは大事だろう。


 魔法で解決したことが功を奏し、信頼を得る結果となった。確かに、魔法書店の問題は魔法で解決した方が、魔法書店の店主っぽいもんな。踏み台をもってこいというマジレスは、焦ったために取ることに必死だったという言い訳の元受け付けない。


「えっと……お名前は、『ルーチェの魔法書店』だから、ルーチェ……さん? で合ってますか?」

「うむ。ルーチェだぞ。もし良かったら、そちらの名前を聞いてもいいか?」

「あ、はい。私はピアンテといいます。でですね、私、身を守るための魔法書を探してまして……」

「ほう、別にいくらでもあるが……一応、なんのためか聞いてもいいか?」


 あまりプライベートに詮索は良くないのだが、ちょっと範囲が広すぎて逆に困るのだ。攻撃魔法にしても火力属性様々だし、攻撃魔法以外も含めれば、相手が近づけないよう呪いをかけるのだって身を守るに含まれる。適切な一冊を選ぶためには、目的に応じて選定しなければならないのだ。


「ルーチェさんは、最近魔物が現れたって話、知ってますか?」

「いや、全く知らん」


 一人引きこもってずっと過ごしているのだから、知っている訳がない。が、そもそもここイゾラは魔物の本拠地である北側からだいぶ離れていて、魔物などそう出ないはずだが……。


「イゾラに都市部で仕入れたものを売ってくれる商人さんがいて、よくお世話になっているんですけど、この前、イゾラに来る途中に、魔物の姿を見たって言うんです。夜だったので、姿はハッキリ見えなかったそうですが、慌てて逃げたので、積み荷のほとんどを置いてきてしまったと。いつも朗らかな人だったのに、顔面蒼白で街の集会所に駆け込んできたから、何かと思いましたよ」

「それ、単に見間違いじゃないのか?」


 日本と違い、街と街の間の道に、街灯があるわけではない。その分星の光があるが、街灯に比べれば微々たるものだ。ろうそくを持ち歩くなり、光る系の魔法を使えれば解決はするが、急に現れたのでは対処が難しいだろう。一般人ならば、夜道に突然現れた何かの正体を見破るのは難しいだろうし、見間違いの可能性が高いように思う。


「確かに見間違いかもしれませんけど、本当だったときが大変ですから……私以外の若者はほとんどエストセッテに行っちゃってますし、残った人たちはみんな魔法に興味ない人たちばっかで。それは悪いことじゃないんですけど、せめて私が魔法を覚えて、他の人たちも守れるようになっておきたいなって」


 ピアンテはすごく真面目そうに相談してくれた。真面目そうというか、街の現状とこれからを真剣に考えているのだろう。


 ……なかなか意識が高いな。ただスローライフしたいだけの私で本当に力になれるのだろうか。もっと国の魔物狩り専門機関とかを頼った方がいいのでは……。いや、どうせあいつらは事が起こるまで動かなかったような気がするし、結局魔法を覚えるか、剣を覚えるかでしか根本的に魔物の対処はできないか。


 その点、使い方を覚えるだけで魔力の有無にかかわらず発動できる魔法書は、目的に非常に合っている。もちろん才能ゼロで使えはしないが、それは絵が上手いか下手かのようなような問題で、最低限使うだけなら誰にでもできるはずである。


 ここまで真剣な相談、しかも初めてのお客となれば、こちらも気合いを入れねばなるまい。


 さて、どれにをおすすめしようか……火属性はまず除外だ。初心者には取り扱いが難しい。魔物討伐に使えるほどの火力だと目標を外したときに、辺り一帯を焼け野原にする恐れがあるし、火力を落とした魔法書を買ったところで無駄だろう。


 う~ん……ちゃんとした攻撃魔法はどれもリスクがあるな……護身用に薙刀を渡すような物で、オーバーパワーだったり、自分や周りを傷つける恐れがある。


 一番手っ取り早いのは私がいい感じの魔法書を作ってしまうことだが、それではいろんな意味で意味がない。わざわざ私が魔法書店を始めた意味がない、というのもあるし、なにより彼女に必要なのは特注品ではなく、手に入れやすい護身用の道具なのだ。


 できる限り他の魔法書店でも取り扱いがあるような、今後も安定的に手に入れられるくらい一般的な物であり、かつ魔法の入り口として適していて、他の魔法にも手を伸ばしやすい、最初の一冊に似つかわしい魔法書を選ぶべきである。


 しかし、私は他の魔法書店の売れ筋など当然のように知らない。もっといえば、私は魔法書に対するモチベーションが高く、あまり入門用の魔法書などと、いちいち考えたこともない。おすすめしようにも、あまり無責任なことも言えないし……。


 う~む、ダメだ、一度考える時間をもらうことにしよう。


「すまん、しばらく考える時間をもらってよいか? 明日には用意できるよう手配しておくということで」

「すいません、わざわざありがとうございます」


 ピアンテはうやうやしく頭を下げる。身なりは庶民そのものだが、下手な貴族より丁寧なんじゃないかと思わせるほどだ。少なくとも私やテッラよりはちゃんとしている。明らかに、私より一生分若いだろうに。


 もはや申し訳なさを感じる。本来ならば店主として即答すべき問い合わせなので、謝るならばこちらのほうだ。


 やれ、大魔法士なだけあって、魔法のことなら何でも語れると思っていたが、いざ魔法書店という立場になると、難しいものだな。



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