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最強の大魔法士、TSしてのんびり魔法書店の看板娘になります  作者: 冬葉月
魔法書入門編

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第7話 初めてのお客

『北の果てには魔物の巣窟があり、魔物は人々の住処を食い荒らすため、南へと進行している。人々は魔物の進行に抗うための方策を考えたが、主義主張は真っ二つに分かれ、最終的に二つの国を建てることとなった。一つは、西側にリブロもう一つが、東側にコルポ。リブロは魔法を、コルポは剣を極め、それぞれが魔物への対抗手段を生み出した。


 東側には剣聖、剣豪と呼ばれる七人が、西側には五人の大魔導士、加えて二人の大魔法士が生まれ、魔物の進行を大きく押し返すことに成功した。現在はどちらの国も魔物の全滅を優先せず、時折人の国に現れる魔物の対処、および長期的な争いに対する備えとして、教育を優先、知識と技術の普及、継承に努めている。


 我が国リブロでは、三度、魔法における革新が起こっている。一度目は魔導書の誕生、二度目は魔法書の誕生、三度目は魔法書の発展である。中でも三度目の革新では、現在も未だ存命のルミエール(敬称略)によるインデックスの発明が大きな転換点となり、魔法書の歴史を大きく書き換えることとなった。


 発明の過程で生まれた魔法書の大量生産技術は、我が国の魔法書普及における大きな要因となっており──』


 と、ここまで本棚に並んでいた適当な本の解説、魔法史を読んで、現実に意識を戻した。


 堂々の開店を迎え、期待を胸に夢の魔法書店スローライフ生活が始まった。開店からはあっという間に数日が経ち、ぽつぽつと街の住人が足を運ぶようになり、次第に魔法書店としての賑わいを見せる……はずだったが、一つ問題が生じている。それは極めてシンプルで、かつ致命的だ。


 お客が来ない! たったの一人も! これではスローライフどころかストップライフだ!


 当然と言えば当然だ。たいした広告もしていないのだから。一応街の寂れた掲示板に開店のお知らせを書き込んできたが、見ている人間がいるのかも疑わしい。下手をすれば、大多数の人間がここに店が存在することすら知らないだろう。


 そもそも街の住人に魔法書への興味を持つ人が少ない事と、私がスローライフのためにお客を呼びすぎないよう広告を抑えた事とがきれいに相乗効果を生み、誰一人として足を運ばない、ただの倉庫としての本棚となってしまった。


 どうしよう。おおっぴらに掲げた店の看板が、今となっては恥ずかしいくらいだ……。


 初日はドキドキしながらカウンターに座り、立ち上がったり、また座ったりを繰り返して、誰がどう見ても落ち着かない様子だっただろうが、誰もどうも見ていないという結果だった。


 まあまだ初日だし、これからだろうと迎えた二日目、初日よりは落ち着いてお茶を飲みながらゆったりとした雰囲気を醸し出し、内心はドキドキしていたが、それでも見かけ上は店主そのものな風体を取っていた。


 そして今、諦めの境地に達し、一切の期待なくゆったりと茶を楽しんでいる。どうだ、これが売れない個人店の店主の極地だぞ。思えばかつての日本、個人がやってる古本店に入ったとき、カウンターの店員(おそらく店主)がやたらとゆったりした様子で座っていて、本当に仕事をする気があるのかと言いたくなってしまったが、逆なのだ。仕事が来ないのだ。ようやっと仕事が来たときには、すでに事切れた後なのだ。別に死んではないが。


 さて、今日は何しようか……昔の隠居生活通り、魔法書でも書いて暇を潰すか……やれやれ、幸い資産にはたいして困っていないがゆえに、赤字になろうとたいした損ではないが、これじゃなんのために店を開いたというのか。ルミエールの名を出せば一瞬で人など集められるものの、それこそなんのために女の子でいるのかという話である。


 野望はあくまで、ルーチェとして魔法書店を経営し、ちやほやされながら好きな魔法とともに生きていくことなのだから。


 ……いつまでもお茶ばっか飲んでないで、本棚の整理でもしておくか。しかし、再三言うがお客が入っていないせいで、本棚が荒れることもなく、整理のしがいもない。せめてもの抵抗として、本棚の中で個人的な偏見とともにジャンル分けでもしておくか……。異世界に来る前の書店でも、棚になんか見出しがくっついてた気がするし、あれでも作ろう。そのうち。


 なにはともあれ、もういっぱいお茶でも飲も。待っているお客もいないのだから。


 ──ガチャリとドアが開いた。


 ビックリして、手に持っていたお茶を容器ごと落としそうになってしまった。いつだって、機会は突然にやってくるものとはいうが、心臓には悪いのでやめてほしい。老体の心臓はちょっとの刺激で止まってしまうのだから。今は違うか。


 街の掲示板にしか出していないようなへんぴな魔法書店にわざわざ足を運ぶ人間など、それこそ風変わりな高年の男くらいだろう。その点に関しては安心だ。こちらも風変わりな老齢の男であり、向こうの考えていることなどたかが知れている。気を使う必要もない。私はかつて見た古書店の店主のように、じっとカウンターに座って、自分のやりたいことをやっていればそれがベストなのだ。


 さて、ドアが開いて映り込んだ人間は──全く知らない、若い女の子だった。一応言っておくが、テッラではない。服装は田舎っぽく、ところどころ裾がほつれていたり、縫って直した後が見える。ドアの開き方、入店の仕方がおどおどとしていて、頼りない印象を受ける。その数倍、今の私は頼りないだろうが。


 ビックリしすぎて、手に持っていたお茶を容器ごと落とした。床に熱々の液体がぶちまけられる。魔法書店の店主としては水を嫌う紙の近くで水をぶちまけるなど会ってはならないのだが、もはやそれどころではない。


「わ、す、すいません勝手に入ってきちゃって……え、女の子!?」


 向こうもビックリしている。そりゃそうだ、こんなへんぴな魔法書店の店主など、風変わりな高年の男が務めているに違いない……うん、これは完全にお互い様だな。どっちの立場でも、まさか女の子がいるなんて予想だにしないだろう。


 しばしお互いを見つめ合い、かける言葉を考えて、私が絞り出した答えといえば。


「ご、ごゆっくり~、ルーチェの魔法書店だよ~」


 まるでNPCかのような棒読みのセリフだった。あまりにも情けない!


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