第16話 いつから取材する側だと錯覚していた?
魔法書を普及するために、雑誌を作ろう。
と、いうわけで、ピアンテの元へ行くことにした。彼女へのインタビュー記事という形で、最初の内容を作るためだ。ページを開いていきなり大魔導士がとうとうと魔法について語ったところで、あまり面白くないだろう。それを面白いと感じるのは、もう魔法の使えるやつらだ。
田舎町で誕生した新たな魔法使いへのインタビューというテイで、ピアンテがどのように文字を学び、魔法が使えるようになったか、その過程を書いていく。彼女は見た目も良いから、写真付きで載せてもちゃんと映えるはずだ。
ところで、この世界に写真があるかないかで言えば、ある、一応。私が作りました! 『光を記録する魔法書』という魔法書を。原理的には一昔前のフィルムカメラのように、魔法書のページに色をつけて焼くような感じである。
これは異世界に来て間もない頃、かなり初期に作った物。これは前世の科学技術を持ち込んで異世界で無双できるやつだ! と、喜んで布教しようと思ったら、速攻でエウロに止められた。こんな物をいきなり普及させたら、とんでもないことになるぞと脅されて、お蔵入りになった。文字でさえ記録を残すことに反対する貴族もいるというのに、精彩に正確に記録が残せてしまうのは、大問題だと。
しかし、今となってはもうどうでも良いことだ。昔は立場が弱かったからそういう心配も必要だったが、大魔法士の肩書きがあればたいていの事は許される。なぜなら、断罪しようと思っても、捕まえられる人間が限られているから。それこそ他の大魔法士を動員しなければいけない。
もちろん進んで敵対するつもりは本当にないので、むやみやたらにこの魔法書をばらまいたりはしないが、やりたいことはやらせてもらおう。
てことで隠居宅の本棚に長年眠らせていた魔法書を引っ張り出し、ピアンテの家へ。あともう一冊、『音声を記録する魔法書』を持っていく。インタビュー用の内容を覚えるために。こちらはエウロとの共著であり、映像を記録する魔法書を作ろうとした際に生まれたものだ。風の魔法書に分類され、風の流れを記録することで、実質的に録音が可能な代物である。同様の理由で、世間に広まることはなかったが。
相変わらず魔法の練習をしているようで、家の外から呼んでも反応がなかった。玄関を叩いて、ピアンテの母に部屋まで通してもらって、ようやく私を認識した。やはり集中して、机にかじりついたために、外の音に気づいていなかった。
集中しているところに邪魔をするのは気が引けるが、幸い拒まれはしなかったのでセーフだろう。雑誌を作るという話をし、ピアンテの記事を作っても良いか聞くと、そもそも雑誌という物が何かピンと来ないようだった。そもそもこちらの世界には存在しない物だし、そう説明を聞いてすぐには分からないのは当たり前である。のちのち、実際にできたものを見せた方が早い。
結局、いろいろ質問するから答えてもらっていいか、という至極単純なお願いをして、そちらは快諾いただけた。
私はピアンテの座っていた椅子を借り、ピアンテは他に椅子がないのでベッドに腰掛けている。
「コホン、それじゃ、聞いてくぞ」
「えっと……まだよく分かってないんですけど、本当に私で良いんですか? なにか大役な気がします……」
「大丈夫だ、そう心配することはない。上手くいけば世界中の人がピアンテを認知するぞ」
「どう考えても大役じゃないですか……」
「案ずるな、今のは上手くいきすぎたパターンだから。で、魔法を初めて知ったのは?」
「最初に知ったのは、イゾラにいつも来てた商人の人から話を聞いて、ですね。王都には大魔導士とか、大魔法士とか呼ばれる人がいて、どんな魔物も余裕なすごい人たちがいるって」
それは誇張しすぎだろ。と、つっこみたくなったが、ピアンテの夢を壊さないように黙った。全くもって余裕ではなく、わりとみんなギリギリである。魔物とやり合えているのは、お互いの得意分野と相性を考慮して、上手いこと押し引きしているからで、逆にこちらの弱点を突かれたら一瞬で殉職しかねない。なお、魔物と戦って死んでも、別に二階級特進するわけではない。
そんなことはどうでも良く、大事なのはピアンテについて。前にも聞いた覚えのある内容もあるが、情報の整理もかねて、改めて。
「じゃあ、魔法を使おうと思ったのはどうしてだ?」
「もともと、いつか魔法が使えたらなとは思ってたんです。かっこいいですから。でも、イゾラに魔物がいるかもってうわさが流れてからは、街のために、魔法が使えるようにならないとと思っていて……タイミング良く、魔法書店ができたって、広場の掲示板で見かけたので、行ってみたわけです」
「で、紆余曲折、いろいろとあり、今に至ると」
「ですね。それ以降は、ルーチェさんと一緒に過ごした通りです。魔法が使えるようになるまで、ほとんど教えてもらいましたし」
なるほど……。大魔導士たちの活躍を聞いていた田舎街の少女が、街の人のために魔法を覚え、魔物を撃退する……記事映えするいいストーリーだと思います! はい!
会話の内容を風の魔法書に記録しつつ、その他の差し障りのない情報、好きな食べ物とか趣味とかをしれっと聞いて、最後に椅子に座って魔法書を読んでいるところを写真に撮らせてもらって、インタビュー終了となった。
物珍しそうに魔法書の写真を眺めたり、それから録音を聞いたりしたが、一応隠し持っている物だから、あまり言いふらさないようにと忠告しておいた。
いずれ雑誌ができたら見せに来ると約束し、ピアンテの家を出た。
とりあえず、一つ分内容確保。ひとまず、ピアンテの分を整理するため、魔法書店に戻ることにした。最近、店を放棄して動き回ってばかりで、我ながら店を開いた意味があるのかと文句を言いたくなるので、できるだけ店にいる時間を増やしたい。
まあ、来客などそう来ないので、どちらでも変わらないのかもしれないが……と、帰ってきた魔法書店には、なぜか人が三人いた。
え、急に来店フィーバー? どっかでバズったのか?
ありもしない可能性が頭をよぎったが、見つけた一人の姿で、元凶がハッキリした。エウロがいたのだ。
「おや、また会いましたね」
「……」
さも偶然会ったかのような顔をしているが、絶対に私を狙って待ち構えていた。何かを企んでいるのは間違いなく、よからぬ事であるのも間違いない。
「お前、どうやったら私より先にここにいるんだよ。私のほうが先に王都を出発したはずなのだが?」
「私が風の大魔導士であることをお忘れですか? 馬車よりはるかに早い移動手段くらい持っていますよ。さて、初めてあなたの魔法書店を見ましたが、なかなか物静かで良いですね」
「客が入ってない皮肉か?」
「おっと、そんなつもりは全く。静かなところは好きですので」
「で、何しに来た? 私は雑誌作りで忙しいのだが。そもそもお前、やることがあると言って早々に席を外さなかったか?」
「お忙しいようですし、本題に入りましょうか。ではアファレさん、後はお願いいたします」
「え、アファレ?」
「ルーチェちゃん! また会えてうれしいわぁ!」
思わぬところでまた出くわしたのは、以前開業の際に手続きをかねて話したアファレという人物。どうやらもう一人も、魔法協会の人間らしい。
「おい、どういうことだ?」
「雑誌流通のために、魔法協会と協議した結果です。彼らは今回の件に協力的なようで、ルーチェを表紙とし、新たな魔法書店の誕生を雑誌の記事とすることにも賛成でした。このたびは、その手伝いとして来ていただきました」
「待て、まさかここを」
「もちろんです。拒否権はないですよ? 人にインタビューしているのですから、自分がされる覚悟はおありでしょう?」
くそ、変な主人公みたいなセリフを言いやがって。
「わ、私が雑誌のネタになるとは思えないが」
「突如として田舎街にて魔法書店を開いた美少女店主──その正体は謎に包まれており、大魔法士ルミエールが関わっているとうわさされるほどの大物──これほど魔法雑誌の創刊で取り扱う内容に、ふさわしい物はないでしょうに」
「ぐっ……」
自分の事だから失念していたが、言われてみればそうだ、格好のネタだ。私が赤の他人なら、間違いなく取材して巻頭に載せる。
しかし、エウロの条件通りに私が表紙となり、あげく『ルーチェの魔法書店』を雑誌に取りあげるとなれば、もはやそれは私が客寄せの役割を担う雑誌だ。
「さて、後のことは魔法協会の方々に任せますので、私はこれで失礼します」
「あ、問題を撒くだけ撒いて逃げさせはしない! せめてお前の写真一枚ぐらいは──」
と、魔法書店を出て行くエウロを追いかけたが、私が建物の外に出たときには、すでにエウロは空の彼方にいた。ありゃ、確かに早いわ。空飛べるならもうどの交通手段でも叶わないだろ。反則だ。というかそれができるなら、私も一緒に移動させてくれよ。
悔し紛れに米粒サイズになったエウロの写真を魔法書に収めて、とぼとぼと建物の中に戻った。
「さ、ルーチェちゃん、まずは座って。これから写真撮影と、記事を作るに当たって魔法書展開業の話を聞いていくからね!」
と、アファレはとても楽しそうである。う~ん……格好の餌にされそうだ。まさかこうも短時間に、先ほどのピアンテの立場にされるとは。よからぬ事をされる間に、逃げたほうが良いのでは? というか、しれっと写真撮影って言ったな。ということは、エウロに魔法書の情報を吹き込まれているな。
まあ、手に持っている本さえ渡さなければ、って、もう手元から消えているんだが?
アファレの奥に控えている人が二冊とも持っていた。図書館にいそうな読書好きの少女って感じの見た目をしていて、前髪で目元が隠れた女の人だ。私が持っていたのとは別に自前の魔導書も持っていて、おそらくそれの効果だろう。相手の持ち物を奪う的な。
魔法協会の人間が、魔法に精通していない訳がない。このくらいは余裕でできるのだろう。
次に何をするつもりなのか、じっと見つめていたら、羽織り物のポケットからペンを取り出して、何か魔導書に書き込み始めた。
くるっと本を回転させて、こちらに見せてくる。『逃がしませんよ』と、書かれている。魔法じゃなくて、単なるメッセージかい。喋らないタイプの魔法使いか……強キャラ感半端ないな。
一体何をされるんです? 私は。本当にインタビューだけで済むのかな……。
「あ、撮影用に、かわいい着替えもいっぱい持ってきたからね! メイド服とか」
……本当に何が始まるんだ?




