42鬼 霧
追いかけてくるバイク集団。
崖と言っていいような斜面を下れるだけあってその腕前はすさまじく、
「絶妙に離しきれないっすねぇ。飛び道具とか使って攻撃してこないのが幸いっすか?」
「あっしとしては拳銃くらいならどうとでもなりまさぁ。使われても問題ございやせんよ。ただ、問題はこっから先。いつまでもカメラや人目がない地域を走っていられるわけでもないことでさぁ」
「どういうことだ?住宅街に近づいているのか?」
「警察が監視していることが多い地域に入っちまうんでさぁ。さすがにそこを最高速度で走るのはやめさせてくだせぇ」
「それはもちろん構わないが…………面倒だな。できる事なら、もう少し距離を開ける要素が欲しい」
ずっとこのまま走っていられるなら数時間でどうにかなったかもしれない。
しかし、そうできる程道路にずっと監視がない状況が続くわけでもないんだ。
「なら、霧を出す術を使えるからそれで妨害しようか?どこまで効果があるかは分からないけど」
「滅魔士ってそんな術も使えるのか?とりあえず、やれるものは何でも試してみるしかないから頼む」
「了解。ボスが思ってるようにこのへんの術は滅魔士が得意な分野じゃないから、あんまり期待はしないでね」
ここで少しでも相手の妨害をして距離を稼げるようにしようと増華が手札を切ってくれる。
どうやら霧を発生させる術があるらしく、増華が何かを唱えた直後には靄が出始めて、
「おい!?これ、俺たちの方にも霧がかかってないか!?」
「そうなんだよねぇ。私ができるのって、術者を中心として霧を発生させるものだけなの」
「それを先に言えよ!期待するなって言うから、効果が低い方向性で想像してただろうが!これじゃあ、圧推の運転にも支障が出るだろ!」
「ご、ごめん」
まさかの事態となってしまった。
増華の口ぶりからそんな可能性は全く考えていなかったため、急に俺たちの周りに霧なんて出てきても対処のしようがない。
と、思っていたんだが、
「大丈夫でさぁ。安心してくだせぇ。あっし、霧くらいなら支障なく運転できまさぁ」
「そうなのか?………そういわれても霧が濃すぎて圧推の運転がどうなってるのかさっぱり分からないんだが」
「ハハハッ!あっしも証明のしようが今の状況ではございやせんが、信じてくだせぇ。一応、カーナビでなら最低限速度の方は分かると思いやすが」
「ああ。確認させてもらう」
圧推としては問題ないということらしい。
言われた通りカーナビを見てみると、確かにそれなりの速度で動いていることは分かる。
とは言っても、さっきまでの速度がどの程度だったか覚えていないから、これで支障がないかどうかという判断はできないけどな。
「もし遅くなっちゃってるとしても、今なら大丈夫だと思うよ。追ってきてる人たちも、さすがに速度を落としてるし。さっきまでより断然距離を開くことができてる」
「本当か?それなら何よりだ」
増加によれば追手は霧の影響を受けているらしい。
それなら安心、とまでして良いのかは分からないが少し改善したと考えていいだろう。
ついでに、
「あっ、今、1人止まった。あと、1人ガードレール超えちゃったかな」
「うわぁ。ご愁傷さまだな。おそらく探索者だろうから生きてはいると思うが…………これで敵からより恨まれたりしてないと良いんだけど」
敵が減った報告も受けられたら大満足と言ったところ。
今のところ事態はこちらの都合のいいように進んでくれているみたいだ。
「さて。そろそろ監視の多いエリアに入りやす。速度を落とすんで気をつけてくだせぇ」
「了解。このエリアの間に必要なことは終わらせておこう」
ここまでうまくいってきたが、さすがにそろそろこちらも速度を落とさざるを得なくなる。
そうなると向こうが気にしない場合さすがに距離を埋められてしまうと思われるわけだが、
「あっ、今、白バイが行ったっすね。それに、パトカーも」
「もしかして、追手の方に動いてくれたのか?」
「ラッキーだね」
「結構な数行きましたし、さすがに動きは止めてくれると思うっす」
都合よく警察が向こうの動きを捉えてくれたようで、動いてくれた。
増加が感知した限り追手のバイク部隊もそれには苦戦しているようできれいさっぱり追手は消えたと伝えてくれた。
「これで一安心か」
「いや~。なかなか刺激的だったっすね。これは対応を本格的に考えないとマズそうっす」
「調べられると住所もバレるだろうし、お姉ちゃんが危ないかも。引っ越しとか検討した方が良いかな?」
「全員戸籍を変えて新天地で動いた方が良いかもね」
俺たちは安心はしつつも、今後の事を憂いため息をつく。
だが、それは油断だった。
今の俺たちはすっかり忘れているが、ダンジョンで襲ってきた中には圧倒的な格上だっていたんだ。
ならば、
「っ!?前、人が!?」
「っ!?まさか!?」
前に待ち受けていた、1人の大男。
そいつは、止まらず突き進もうとする圧推を迎えるように両手を広げ、
「ふんっ!」
「なっ!?止められた、だと!?」
「うそでしょ!?そんな力してんの!?」
その直進を止めて見せた。
圧推は即座にカーナビなどを映す中央の画面に、
「『動けなくなった』か」
「多分、何かしらスキルでも使われたんじゃないかな?」
「出ていくしかなさそうっすね。とりあえずオイラはいつでも飛び出せるようにしておくので、最初の対応はよろしくお願いするッス」
「ああ。任せて置け」
いやいやながらも俺が出るしかないため圧推から降りる。
そして、
「ビビらず出てきたか。俺様の名は、」
「ちょっと待ってくれ。もう限界なんだ…………オロロロロッ」
「…………分かった。待ってやろう」




