39鬼 覚醒?
避けられない。
俺はアイテムすら使用することができず、せいぜいできることと言ったら両手で抱えていたダストを解放して攻撃がダストまでに当たらないようにしつつ近くにいたメリーも突き飛ばすなりして逃がすことで、
「あれ?」
「なんでボスも一緒なの?」
当たると思ったその瞬間、俺は本来見えるはずがないものが見えていた。
それこそが、相手の背中。
メリーが襲い掛かるその背中だ。
「ぐぅっ!?」
「と、とりあえずよく分かんないけど首に傷は作ったよ。毒と麻痺も多少だけど入ってるはず」
「よし。ここは俺もアイテムを惜しまず使うから巻き込まれないようにだけ注意してくれ!!」
よく分からないが、俺はメリーの転移について行く形で相手の後ろに回り込めていた。
とりあえず助かってはいるから、詳しいことは考えずにまずは相手を倒すことに集中する。
持っていた緊急用のアイテムをいくつも活用し、そのすべてが相手に命中する。
「っ!?」
「動けないのか!?」
「あっ、足にダストが絡みついてる!」
何故か敵が動かないと驚くわけだが、理由は足元を見ればすぐに分かった。
ダストが足にがっしりと絡みついており、足を動かなくしているんだ。
当然、消化も同時に行なっているようで足の腱か何かは既に切れてしまっている様子だ。
ただそこまでされたまま黙っている敵ではなく、俺の使ったアイテムを全て食らってもなおまだダストをまずは引きはがそうと動いていて、
「させるわけないよね!」
「ッ!」
そこに増華が襲い掛かる。
敵はそれに反射的に反応をしたという風にみせていたんだが、
「っ!?マズッ!?」
それはあえて見せていた隙。演技だった。
完璧に増華の攻撃に合わせて反撃が繰り出されようとしていて、
「よらせるわけないよねぇ」
「ガハッ!?」
増華に攻撃が当たる前に、敵の首に再度攻撃が命中する。メリーが再度後ろから襲ったわけだ。
しかも、さっき作った傷と全く同じ場所にピンポイントで当てたな。
「メリー、ナイス!」
ここで敵が止まることになったため、増華は攻撃の手を止めずにそのまま剣を敵へと振り下ろした。
その剣はメリーのものより威力は高いため、急所にこそ当たらなったものの腕を1本切り落とすことに成功。
すぐに残った方の手で敵は反撃しようとするが、
「ッ!?」
「残念ながら、そっちの手持ちはすでに回収済みだ!!」
腰などにあった武器やアイテムは、すでにダストが回収済み。向こうにはもう、すぐに使用できる武器がなかった。
それによる一瞬の遅れを逃さず、俺は顔を棒でぶっ叩く。
「そしたらもう一発!!」
更に追撃をメリーが仕掛け、そこに増華が追い打ちをかける。
向こうもさすがに頭へのダメージが大きすぎたようで思考も反応も間に合わず、
「…………倒せた、か」
「だね。強敵だった……」
首が落ちる。
まだそれでも生きている可能性があるから油断せず観察はするが、肩の力は少し抜いていいだろう。
「増華、他の敵の位置はどうだ?近づいてきていたりは?」
「敵かは分からないけど、さっき感知した人たちはまだ遠いね。もうちょっとここに居ても問題なさそう…………この人の事、気づけなくてごめんね」
「気にするな。多分、かなり隠密の腕が高かったってことなんじゃないか?もしくは、何か特殊な仕掛けをしているのか」
増加は敵に気がつけなかったことを謝罪してくる。
生物には確実に反応すると思っていた増華の術が効果を発揮しなかった部分など気になるところがいくつもあるが、それはそれとして効果が出せなかったことを怒ってはない。何か対応策を考えなければならないと思うだけだ。
「でも、気づかなかったせいでボスが危なかったし」
「確かに危なかったが…………そういえば、聞くのを忘れてたな。メリー、さっき俺が一緒に後ろに居たのは何だったんだ?」
「さぁ?あれのことはアタイもよく分かんない」
人との戦いで消耗しているのか増華がしおらしくなっているため、あえてその辺りの話は深堀りせずに話題を変える。
やはりここで1番気になるのは、メリーの転移の事だな。
何故か俺も一緒に転移できていたんだから。
「転移って、1人だけができるものじゃなかったのか?」
「アタイもそう思ってたけど、違うのかもしれないね。もしかして2人もいけるのかも?」
「なんで本人が分からないんだよ」
「仕方ないじゃん!アタイ、この間生まれたばっかりなんだし!自分の能力なんて誰にも教えられてないんだよ!!」
「だからってなぁ…………」
「そもそも、アタイは転移を自分にしか使えないなんてことはいてないはずだけど?」
「それは…………そうだったか?言ってなかったか?」
「言ってない…………気がする」
お互い確証がない。
さすがに細かい発言なんて覚えてないし、能力の説明の時以外での雑談などでそういうことに言及している可能性は考えられるんだよな。できる事ならばもっと早く知りたかった。
ただ、今知っても当然使えるわけで、
「2人でも行けるなら、戦略もだいぶ変わってくるぞ?背後を取って攻撃できるとか滅茶苦茶アドだからな」
「それは確かに。アタイ以外も奇襲に参加出来たら奇襲の時の被害が倍…………とまではいかないかもしれないけど、ちょっと増えるからね」
「なんで倍換算しないんだよ。どう考えても攻撃力高いメンバーの方が多いのに」
まるで自分の攻撃力には誰も届かないとでも言いたげなメリーにジト目は向けつつも、俺はこれからの幅の広がりを思って思わず笑みを浮かべてしまう。
その後すぐに落ち込んでいる増華を見て自分との違いを感じ、気まずくなるのだった。




