3鬼 座敷童
「…………こちらが報酬となります」
「ああ。ありがとう」
初のダンジョン探索を終わらせて探索者を取り仕切っている協会の事務所(ギルドと呼ばれている)で報酬を受け取って、俺はやっと探索者として踏み出せたことを実感した。
偉いところのお坊ちゃんみたいな雰囲気でやっていくことにしてしまったからある程度偉そうな態度で大人と話をしないといけなくてものすごく違和感があるけど、そこはいったん慣れるまで我慢することにしよう。
ただそれ以外にどうしても気になってしまう点がやはりあって、
「やっぱり、仲間がダストだけだと問題があるか」
この先進んでいくには、やはりダストだけだと心もとない気がする。もちろん動画なんかで確認したから強くなっていくことは間違いないわけだが、それでもある程度まで進むと集団戦などもしなければならなくなって手が足りなくなるだろう。
となると欲しいのは、
「新しい仲間、か」
俺はテイマーだ。やっぱり配下のモンスターを増やして戦っていくことがセオリーにはなるだろう。
しかも俺はぬらりひょん。普通の人間のテーマよりも少し配下を使うことには長けているはずだから、どんどん必要だと思えば仲間を増やしていけばいい。
そして、どうせそうやって配下を増やしていくなら、
「作ってみるか。俺だけの百鬼夜行」
ぬらりひょんと言えば、やっぱり百鬼夜行だろう。俺の実家の百鬼夜行は継げないが、それならそれで自分で百鬼夜行を作ってしまえばいい。
それも、妖怪ではなくモンスターをたくさん集めた百鬼夜行を!!
俺だけのユニークな百鬼夜行とか、かなり心が引かれるし。
考えれば考えるほどなんだか楽しくなってくる。
そして、そうと決まれば、
「行くか。ダンジョン」
新しい配下を増やしにダンジョンへ…………と行く前に。
少し他にもやりたいことがあって、俺はいったん周辺を歩き回ってみることにした。
そうしていると俺はお目当ての存在を見つけて、
「なぁ。少し良いか?」
「ん?私?ナンパなら他をあたってくれる?」
俺が話しかけるのは、少しくたびれた雰囲気の女性。黒い髪に黒い目。目つきは悪いものの、その整った顔立ちはどこか人形のようにも感じる。
俺が話しかけると気だるげに、あしらうような返事をしてきた。顔に面倒くさいと書いてあるな。
ただ、
「いや、ナンパじゃねぇよ…………お前、妖怪だろ?」
「ッ!?あんたもなの?全然気づかなかったわ」
俺が気づいたことを伝えると目の色が変わる。
やはりこいつ、俺と同じで妖怪だったらしい。この雰囲気と察知能力の低さ考えると、おそらく野良の妖怪だろう。
そして、野良の妖怪であれば、
「困りごとはないか?人間社会に溶け込むのは大変だろ?」
「そうねぇ。あんまりお金もないしちょっと仕事とかも探すのが大変で…………」
困りごとを抱えているものだ。
今の社会は昔に比べて、監視カメラがあったりとかして妖怪には生きづらい社会だからな。俺みたいに多少とはいえ変化の術や幻術を教わっているなら問題ないが、本当に何も知らずに社会で生きていこうとすればかなり苦しいだろう。
だから、ここまでは俺の予定通り。
ここから俺としては、
「なら、一緒に仕事をしないか?実は俺、新しく百鬼夜行を作りたいんだ」
「は?新しい百鬼夜行?…………よく分かんないけど、仕事があるなら協力してもいいわよ。もちろん、あんまり悪いことは参加したくないけど」
よし!勧誘成功!!
この後継続して俺の配下で居続けてくれるかは分からないが、とりあえず短期的な配下獲得だ。
俺はこうやって野良の妖怪も仲間にしておきたかったんだ。
もちろん百鬼夜行はモンスターも入れるけど、妖怪も全く入れない理由もないからな。この後活動していくとき、全部俺のモンスターでも指示を回しきらない可能性もあるからある程度考えて動ける妖怪の仲間が欲しかったんだ。
「俺はぬらりひょんの、江良…………いや。どうせ偽名で通すから、そっちで名乗るか。俺は|矢場《やば》畏醸だ」
「へぇ?ぬらりひょんなのね。それなら百鬼夜行とか言い出すのも納得だわ。私は故戸モベヤ。座敷童よ」
「座敷童か。珍しいな。とりあえず、よろしくな、モベヤ」
座敷童。
正直、最初に仲間にするには微妙な妖怪だ。もちろん今更なかった話にするつもりはないが、これだけで勧誘を終わらせてしまっていい物か考えものな相手なんだよな。
基本的に、座敷童は家に居てもらうことでその家に幸運が舞い込むようになる妖怪だ。たまにいたずらとかをしてくるけど、それでもものすごくありがたい妖怪とされているな。
なお、居てくれると運気は舞い込むが出ていかれるとものすごい不幸な目に合うから注意が必要だ。
そしてここまでの話から分かる通り、戦闘能力とか皆無なタイプの妖怪なんだよな。探索者には向いてないかもしれない。
「とりあえず、行ってみるか。あうかあわないかは置いておくとして、やってデメリットになるようなことはないだろ」
「ふぅん?そうなの?」
ダンジョンに入ってステータスを持つだけでも多少通常の人より身体能力は上がったりする。
だから、職種にはよるものの今後働き時にデメリットになることはないだろう。
ということで、俺はモベヤという新しい仲間を連れてダンジョンへと繰り出すことになるのだった。
結果として、
「うぅん。壊滅的だな」
「ゼェゼェゼェ…………そ、そうね。戦いとか向いてない気がするわ」




