37鬼 大きめの壁
「もらったぁ!!」
「残念。誘いだよ」
「ぎょぇ!?」
汚い悲鳴を出しながら吹き飛ばされるメリー。
現在、またまた模擬戦中だ。
しかも、今回は相手が一味違う。
なんと俺たち妖怪の天敵、滅魔士である増華なのだ。
「メリーの出オチ感がすごいな。相手が増華でさえなければ居場所もつかみづらいしかなり厄介な相手のはずなんだが」
「そうっすね。けど、今はもうちょっと戦いに集中してほしいっす!オイラだけじゃどうにもならないっすよ!?」
「分かってる。サポートは全力でやる」
俺たちと増華の戦い(俺のテイムしているモンスターたちは抜き)、それは初っ端にメリーが何もできないままやられるという形で始まってしまった。
こうなると俺と廻場だけでどうにか対応する必要が出てきてしまうわけだが、正直2人でどうにかなる相手ではない。
「悪いけど回避なんてさせてあげないよ『中陰央陽』」
「ぬわっ!?」
「ちょっ!?ボスがこっちに来たら避けられないっすけど!?」
「術の影響だから仕方ないだろうが!」
増華の術の数々に翻弄される。
とはいっても、滅魔士の本所である滅する部分の技は使ってこないからまだ何とか耐えられてはいるな。
一方的な戦いであることは確かだが、俺たちが生き残るための力を鍛えられていることは間違いない。
「滅茶苦茶手加減されてるはずなのに、ダンジョンのモンスターより圧倒的に強い気がするんだが!?」
「そうっすねぇ。正直今までのモンスターがカスに思えてくるっす」
「ふふっ。褒めても何も出ないよ。それに、これが通用するのはボスたちが妖怪だからだし」
「ちくしょう!なんで妖怪ってこんなに弱点が明確にあるんだ!!」
「単純に妖怪として強くなれば耐えられるようになるんすかねぇ?」
廻場が口にする解決手段は、正直言ってかなり疑問が多い。
何せ、確実に廻場は強い部類の妖怪に入るはずだからな。まだまだ過去の力を取り戻しているような様子にも見えるし、全盛期の力を取り戻したら俺の実家の百鬼夜行の幹部くらいには匹敵する力を持つことになるんじゃないかと思ってる。
だからこそ、そこまでの存在である廻場を、手加減しているにもかかわらず圧倒できている滅魔士はおかしいんだ。
絶対こっちの方が化け物だと思う。
「余計なことを考えてるなんて、余裕だねぇ」
「ふげっ!?」
「あっ!ボス!?」
「よそ見したらダメじゃない?」
「ギャァ!?」
俺が滅魔士の理不尽さに打ちひしがれていると、その隙をついて一瞬にして2人ともやられてしまった。
あまりにも早すぎる。
だが、それで終わりと言うわけではない。
「まだまだぁ!!」
「わっ。メリー?復活が早い…………というか、このタイミングを見計らってた感じかな?」
そこに攻撃を仕掛けるのがメリー。
最初にやられたが、時に致命傷になりかねないようなやられ方をしたわけではないためもう戦えない状況とは判断せずにまた襲い掛かって行ったみたいだ。
ここまで俺たちが戦っている間に隙を伺い、今が出る時だと判断したらしい。
「もっと俺たちが戦って向こうの意識がそれてる時にやれよ!」
「無理無理!ずっと隙ないもん!やれるわけないでしょ!?」
「どうっすかねぇ?今のタイミングで襲い掛かるのが1番意味がない気がしたっすけど」
「うるさ~い!2人が簡単にやられるのが悪いんだぁ!!」
「それを最初にやられたメリーが言わないでほしいっすねぇ!」
文句を言いあいつつ、俺たちは再度増華に攻撃を仕掛けていく。
もちろん3人がかりになったとしても敵うわけがないのだが、そんなことをしながら1時間ほど模擬戦をし続けるのであった。
やっぱり、滅魔士怖い。
「…………増華がこれでどれほど強くなれるかは分からないが、とりあえず俺たちの対人能力はかなり上がったんじゃないか?」
「スキルは結構強くなったっすねぇ」
「アタイもかなりスキルは強化されてるよ。残念ながら人形系のスキルは何も上がらなったけど」
「それは人形を使ってないんだから当たり前じゃない?私はスキルも上がったし、レベルも上がったよ」
今回の模擬戦、技術を高めるのはもちろんだがスキルの強化にも役立ってくれている。
かなりスキルの使用はしているからな。
増華に至っては、本来命を奪わない限りそこまでの経験値が入るわけではないにもかかわらず俺たちを何度も倒している影響でレベルまで上がったらしい。
「普段あんまり強化できてないスキルも今回強化できたし、意外と模擬戦も悪くないかもな」
「だねぇ。それに、強化だけじゃなくて新しいスキルの獲得もできてるし」
「えぇ?いいな~。アタイ、新しいのは手に入ってないよ?アタイも新しいスキル欲しい~」
「いつもと違って剣主体の戦い方じゃないからな。そういうスキルの獲得にもつながりやすいのか。俺たちもちょっと戦い方を模擬戦で研究してみれば新規スキルの獲得にもつながるし悪くないのでは?」
模擬戦での発見も成長も決して小さくはない。
着々と俺たちの強化は進んでいた。




