18鬼 許嫁
「そういえば、なんで学校でそんなにストレスが溜まってるんだ?」
食事中。
ふと気になって増華に質問をしてしまった。
思わず口に出してしまったため考えていなかったが、地雷の可能性が高いな。ミスったか?
「あぁ~。学校でのストレスね。そりゃあ色々とあるんだけどさぁ」
「お、おう」
「まずやっぱり面倒くさいのはデリカシーとかいうものを前世に忘れてしまった愚か者たちだよね。明らかに地雷っぽい公欠の理由を容赦なく根掘り葉掘り聞き出そうとしてくるから」
「な、なるほど」
確かにストレスが溜まりそうだ。
ついでに、俺は完全に間違った選択をしてしまったことを悟った。
「特に面倒くさいのが、仲良くして他グループに新しく男子のグループが合流したことなんだよね。それ自体は別にいいんだけどいつの間にか恋人関係とかになったりしてる子たちもいるみたいで」
「ああ。それを正確に把握していないと他人の男にちょっかいをかけたとかいう話になりそうで触れづらい、と」
「そうなんだよねぇ。でも、あんまり男子と距離を置きすぎるとそれはそれで浮いちゃうというか」
「なるほどなぁ」
想っていたより数倍面倒くさい。
俺まで気が重くなってきた。
と思ったのだが、そこでふと頭に浮かんできた考えがあって、
「なぁ。もしかして増華って彼氏とかいたりするのか?俺、もう少し距離感とか考えた方が良かったか?」
「いや、いないよ。大丈夫」
同棲までしているが、もし彼氏とかがいるのであればかなりマズい。
増華も家族を頼れないからこの状況は仕方ない事ではあるんだが、もっと健全であることをアピールできるような要素が必要だったかもしれない。
そんな俺の危惧は増華本人に首を振られて否定されるんだが、かなりヒヤッとしたな。それと同時に否定してもらえたことで安心もできた。
ただ、
「彼氏はいなくても許嫁はいたじゃない」
「えっ!?」
「いたけど、もう実家がなくなったからそれも解消されたんじゃない?私も実家の後ろ盾とかがない状態で今更あんな滅魔士の家に行く気はないし」
どうやら増華、許嫁がいたらしい。しかも、話しから察するに相手はそれなりにいいところの滅魔士の人間。
滅魔士でしかも家柄もいいとか恐怖の対象もいいところだぞ。家総がかりで来られたら俺の消滅なんて秒読みだ。
「それ、大丈夫なのか?向こうはまだ許嫁のままだとか思ってて探し回っているなんていう風にはなってないよな?」
「ないと思うよ。わざわざ家のつながりも作れないのに私を嫁に迎える必要なんてないでしょ」
「そ、そうか。なら、安心、だよな?安心して良いんだよな?俺、ここまで滅魔士の集団が探しにやってくるとか勘弁してほしいんだが」
「アハハッ。大丈夫だよ。心配しすぎ」
俺は急いで安全を確認するわけだが、増華には笑われてしまったらしい。
この様子から考えれば安心して良いのかと思えるのだが、そこへモベヤが口をはさんできて、
「でも、増華の場合は家のつながりと言うよりも才能を求められていた節があったじゃない。次代に優秀な子供を作れるかもしれないって」
「そうだったっけ?」
流れが変わってきた。
今までの話からすると単純に家のつながりと言うものを考えての許嫁と言う関係だったと思っていたんだが、才能を求めているのであれば安心はできない。
「それなら増華個人を求めてることになるじゃねぇか!特定とかすぐに終わるんじゃないか!?」
「そんなことはないと思うけど?どうやってここを見つけるのさ」
「増華がモベヤの事を探しに来た時の術とか使えば簡単に見つかるんじゃないのか?あれ、髪の毛があるだけでできるものなんだろ?さすがに実家に髪の毛くらい落ちてるだろうし、警戒しないわけにはいかんだろ。それに、そもそも高校だって特定されてる可能性があるだろ?」
「大丈夫だよ。心配し過ぎだって。私は探知系の術に引っ掛からないようにしてるし、モベヤお姉ちゃんにもこの間探知を避けるような術をかけておいたから」
術を書けたとは言われても、探知側の力がそれ以上にあった場合は無駄なのではないかと思ってしまう。
しかし、俺のそんな心配は読まれていたようで、
「大丈夫よ。名家が欲しいと思うくらいには増華には才能があるから。私の知る限り、髪の毛だけで居場所、まで正確に特定できる滅魔士なんて右手で数えられるくらいしかいなかったわ。ついでに言えば、現代でそんなことができるなんて言う話があるのは増華だけよ」
「嘘だろ!?そんなに才能があったのか!?」
「アハハ~。褒めたたえてもいいんだよ?ついでに、高校の方も情報は漏れないようになってるから安心してくれていいよ?」
「…………ちょっと距離を開けてくれるか?普通に怖い」
「うそでしょ!?まだそんな感じなの!?」
モベヤが問題はないと語ってくれたんだが、別の意味で怖くなった。
滅魔士の中でも有数の天才と一緒に暮らしているとか、あまりにも恐ろしい。もしかしたら才能が溢れてしまって無意識のうちに俺の存在が消えるとかありえるぞ。
「もぉ~。大丈夫だよ~。私だって面倒な連中にバレたくないし、強い術とか使わないからさぁ」
「つまりそれは、俺程度強くもない術式で消せる、と?」
「そういう意味じゃないって~。違うとは言えないけどさ~」
違うとは言えないのか。
俺、やっぱり弱いんだな。




