15鬼 2日酔い
朝、起きるといつもなら起きて活動しているモベヤがいなかった。
別にすべてをやる役割と言うわけではないのだが、普段やってくれている人間がいないとなるとやはり心配になる。
コンコンコンとモベヤの部屋の扉をノックしてみれば、
「あ゛ぁ。ごめん。頭痛い」
「ハァ!?頭が痛い!?薬とかいるか!?」
まさかの体調不良という宣言。
想定外の事態に慌てたものの一般薬の類は一通り買っておいたためその中から頭痛薬を引っ張り出して渡しに行く。
「大丈夫か?何かが悪かったんだろうな?もしや、昨日の肉が悪くなっていたとか?」
「いや、そんなことはないわよ。ただの2日酔い」
「…………なるほど」
心配して損をした気分になった。
思い返してみるとモベヤは良い肉があるからと高そうな酒を開けてカパカパ飲んでいたので、そうなってしまうのも仕方がないように思える。増華も酌をしたりとよく飲む要素が多かったから、さすがに責める気にもならない。
呆れはするが、たまにはこういう日があっても良いか。
「となると、ある程度の家事は俺がやる必要があるか」
モベヤが休むことはかまわないのだが、そうなると代わりをする人間は必要になる。
もちろんそれができるのは俺か増華になるわけで、
「増華は学校があるし融通が利かないからな。俺がやるしかないか」
消去法的に俺が担当することになる。
そうと決まれば行動は早めにと言うことで、まずは増華が学校に送れないように増華の朝食をまずは作って起こしに行く。
俺が起こしに来るのを不審に思ったのかどこか疑うような眼で見てきたため、俺は急いで事情の説明を。
一緒に生活をしているとはいえ、滅魔士は怖いんだよ!
「あぁ~。モベヤお姉ちゃん、二日酔いか。昨日あれだけ飲んでたしねぇ…………でも、ボスが朝食作ったの?それ、大丈夫なやつ?」
「おい。それは一体どういう意味だ」
「いや~。結局のところボスもお坊ちゃまなわけだし、料理ができそうにはとても思えないんだけど」
「失礼な」
どっやらおれの料理の腕を増華は疑っているらしい。
確かに最近料理はしていないが、別にできないわけではないんだからな?
少し不満に想いつつ、不安そうな増華を無理矢理食卓まで連れていってみれば、
「ん~?滅茶苦茶洋風!?」
「俺、実をいうと朝はパン派なんだよな」
「そうなんだ!?ぬらりひょんとかいかにも古臭い日本の妖怪って感じなのに、パン派なんだ!?」
料理ので気より、料理の内容で驚いていた。モベヤがそうだったから古風なタイプの有名な妖怪は和食が好みなものだと考えていたらしい。
その驚きのまま食事に手を付けていき、
「ふぅん。悪くないじゃん。何?料理が上手ければ女子にモテるんじゃないかとか考えてたの?」
「そんなわけあるか」
ニヤニヤしながら的外れなことを言ってきた。
俺が趣味のように料理に手を付けているものだと思ったらしい。
「この時期だとは思わなかったが。俺だっていつかは実家を追い出されることになるんじゃないかとは思っていた。そうなったら当然料理の腕は必要になるだろ」
「それは確かに?でも、追い出されるって考えなんだ。自分から出ていくっていう形じゃなくて」
「無理だろうな。内部にも俺を上に無理矢理押し上げれば甘い蜜を吸えるんじゃないかとか考えていた奴らもいたし、向こうの都合がいい時じゃないと追い出しても不安が残るろう」
「なるほどねぇ。そんなにボスって次期当主にはしたくないって思われてたんだ」
「今の話の結論がそこかよ…………間違ってはいないから、否定はできないけどな。親父が当主争いで苦労したらしく、その経験を子供にさせたくないから最初にもう当主にするのは長男だと決めてしまったんだという話だった。しかも兄貴もそれなりに優秀だったから、下のほとんどのやつらも反対する理由はなかったみたいだったし」
個人的に言わせてもらえば、そうして最初から決めておくというのは悪い事ではないんだと思う。
ただ、だからと言って弟の俺を冷遇に近い状態にしてたのは良くないと思うんだよな。当主にしないのと責任もって育てず適当に放り出すのはあまりにも違うだろ。
「思い出したら一発親父の顔を殴りたくなってきた」
「アハハッ!。いいじゃん。もっと探索者として強くなって百鬼夜行も完成したら、ボスの実家に殴り込みに行こうよ」
「なんでだよ。俺が親父を殴りたいからって実家壊滅させるなよ…………というか、増華1人である程度どうにかなるんじゃね?」
「さすがに無理だよ~。大きめの百鬼夜行は1人じゃさすがにどうにもならないって」
増華は笑うが、少し疑わしいところがあるな。
もしかしたら、俺たちの百鬼夜行と実家の百鬼夜行をつぶし合わせて良いところでまとめて消し去るとかいう計画を立てているのかもしれない。
だって、滅魔士だし。
それくらいやりそう。
「なんかとんでもないことを思われてるような気がするんだけど?」
「気のせいじゃないか?」
「本当に~?」
とんでもないはずがない。
だって、滅魔士だし。




