9鬼 滅魔士
世の中に妖怪がいれば、当然それに対抗する存在がいる。
特に昔は今より妖怪が人間を襲うことが多かったため、色々な人間が妖怪の対処をしようと試みたんだ。
滅魔士、退魔師、陰陽師。呪術師なんかも最近だと有名なんだろうか?
特に多いのが前の3つなのだが、基本的に俺たち妖怪に対処する人間と言うのは妖怪を撃退したり、近づけないようにしたり、封印したり、弱体化させたり、あるいは無理矢理味方にしたり。そんな方法での対処をしていく。
ただ、滅魔士。これだけは違う。
こいつだけは徹底して、妖怪を滅しようとするのだ。それこそ、自分の身を顧みず命を懸けて妖怪の存在そのものを消滅させようと挑んでくる。そのため、出会ったら終わりだと妖怪の社会では言われていた。
だからこそ、
「め、滅魔士!?なんでこんなところに滅魔士が!?」
「あら?どうしたの、そんなにおびえて…………って、そういえば滅魔士は妖怪にとっては恐怖の対象だったわね」
「いや、なんでそんなに落ち着いてるんだよ、お前は!座敷童でも場合によっては存在ごと消されるぞ!?」
俺はビビっていた。滅茶苦茶にビビっていた。
何せ今、俺の近くには滅魔士がいるんだ。
これからいい具合に探索者としてやっていけそうだと考えていクランハウスに帰ってきたところで滅魔士に見つかってしまったものだから、その絶望感は半端ない。俺も気をつけるべきものにはすぐに気づけるようにしていた影響で滅魔士の気配はすぐに感じ取れたがために、人間がいると理解した次の瞬間には絶望が来てしまった。
今すぐこの家を放棄して別の場所に逃げたいところだ。
なんて俺が怯えているし圧推なんてかなり距離を取っていつでも逃げる準備をしているというのにモベヤだけは平然としていて、
「言ってなかったかしら?私が前までいた家は、滅魔士の家だったんだけど」
「ハァァ!!!???聞いてないぞそんなの!?」
モベヤは以前、家から追い出されたという話をしていた。
見た目がもう完全に子供でなくなってしまって、座敷童ではないだろうと言われてしまったそうだ。
そこで出ていくときに家を滅茶苦茶にしてやったなんて話を聞いていたんだが、
「あれ、滅魔士の家の話なのかよ!?じゃあ、あの滅魔士はお前に復讐しに来たってことか!?」
「あぁ~…………その可能性もあるわね」
「あるわねじゃねぇよ!その可能性があるなら先に言えよ!?田舎ならさすがに強い力を持った人間とかいないだろと思って油断してたじゃねぇか!!」
「ごめんごめん。悪かったわね。すっかりそれは頭から抜けてたわ」
どうやら相当マズい家を滅茶苦茶にしていたらしい。これには俺も終わったことを確信したな。
俺はここでお終い。第3部にすらいかず完!だ。
今の話だと、滅魔士の一族から狙われてるってことになるからな今ここで逃げられたとしても、そして運良く倒せたとしても、まだまだ恐ろしい滅魔士の襲来におびえ続けなければならない。そんなの、どう考えても精神が持つわけないだろ。1年も持たずに心が壊れる自信があるぞ?
なんて、こうしてわちゃわちゃできている間はまだ良かったのかもしれない。
だが、
「あっ、そっちの人も妖怪だったんだ。てっきり人間かと思ってた」
「ヒィィィ!!!???滅魔士がしゃべったぁぁ!!????」
「いや~。そんなに怖がらなくてもいいと思うんだけどな~。かわいい女の子を見て悲鳴を上げるなんて、失礼だよ」
「ギャアアァァァァ!!!滅魔士と会話してるぅぅぅぅ!!!!?????」
「そこで怖がるんだ。会話は成立したことを喜ぼうよ」
ついに滅魔士が口を開いて会話に参加してきた。
俺はその口からいつ絶望のカウントダウンが発せられるのかと怯え叫ぶ。
なんだか滅魔士からはあきれた目を向けられている気がするが、滅魔士からの評価なんてどうだっていい。今はこの恐怖と向き合って、できれば生き残れる道を模索しなければ。
「それで?本当に増華は私を滅しに来たわけ?」
「いやいや。そんなことはないよ。単純に、モベヤお姉ちゃんが家から追い出されちゃった後どうしてるのかなって気になったし心配して来ただけ。それと、もし余裕がありそうなら私も家が離散しちゃったからできれば生活させてもらえないかな~とか思ったんだけど」
「あら。そうなの?そういうことなら丁度いいわね。まだここも部屋が余ってるし住んでもいいわよ。ただ、この子が百鬼夜行を作りたいからそれに参加してもらうことになるけど。あと、他にも仕事の協力もする必要があるわね」
「え?何それ?新しく百鬼夜行作るの?面白そ~。良いよ。住まわせてもらえるならそのくらいは全然OK」
さて、いったいどこから逃げたものか。
確かこのクランハウスには裏口と言うものは存在しないんだよな。だから、出ていくとしたらこの玄関を使うか窓から無理矢理抜け出すか。
ただ玄関は今出ていこうとするとその先に滅魔士がいるから、消去法的に窓から出るしかなくなる。
その場合1番窓の中でも俺が出ていくことができてなおかつ滅魔士が追ってくるまでの時間を稼ぐことができるものは…………と、なんだ?モベヤから肩を叩かれた。
今頑張って逃走ルートを考えてるっていうのに邪魔をするなんて、
「そういうことで、この子があんたの百鬼夜行に入って、ここで一緒に生活していくことになったから」
「よろしくね~」
「………………………………へ?」
何を言ってるんだこいつら。
ヒャッキヤコウニハイッテイッショニセイカツスル?何語だ?




