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ギルドの広間には、冒険者たちが集められていた。国内最強と謳われる《黄金の夢》、それに追随する《星の盟約》、そして破竹の勢いで名を馳せる《栄光の道標》。他にも名だたるパーティーばかりで、広間は熱気と緊張で満ちていた。
その空気を断ち切るように、重厚な声が響いた。
「諸君、静粛に――」
壇上に立つギルド長が、長杖を軽く床に突き、威厳ある口調で口を開いた。
「近頃、魔王軍の動きが活発化している。特に、二人の側近 《バロッグ》と《セリオネ》による被害は甚大だ。今こそ一丸となって力を示す時……。この場にいる実力者たちの中から、彼らを討ち果たしてくれる者はいないか!」
空気が一気に張り詰める。息を呑む音さえ聞こえる中、真っ先に手を挙げたのは、光り輝く鎧に身を包んだ《黄金の夢》のリーダー、ギルフォードだった。その姿は、背筋を反らし、不敵に微笑み、いかにも自身に満ち溢れている。
「――バロッグは俺たち《黄金の夢》が引き受けよう」
力強く言い切ったその声に、場がざわめく。ギルド長が眉をひそめ、険しい視線を送った。
「単独パーティでよいのか? 相手は魔王の側近だぞ」
ギルフォードはふんと鼻で笑い、肩をすくめる。
「心配には及ばない。俺たちに任せておけ」
その場を包む高圧的な空気に、《黄金の夢》のメンバー達もまた勝ち誇ったように笑みを浮かべ、周囲を見下ろす。
他の冒険者たちが互いに顔を見合わせる中、ギルフォードはさらに続けた。
「セリオネの方は他のやつらに任せる――と言いたいところだが、難しいのであればそちらも引き受けてやろう」
ギルド長が唇を引き結び、声を低める。
「時間がかかれば被害も広がる。バロッグを倒す者、セリオネを倒す者……二組に分かれて事にあたってくれ」
ギルフォードは芝居がかった仕草で両手を広げ、わざとらしく肩をすくめてみせた。
「では仕方ないな。……せいぜい頑張ってくれ。時間がかかるようであれば救援に駆けつけてやるよ」
どこまでも他人を見下す態度に、シエラは疑問を浮かべた。少なくともシエラとノアが《黄金の夢》にいた時は、あんな傲慢な態度をとるような人達ではなかった。何が彼らをそうさせたのか、問うてみたい言葉をぐっと飲み込む。いま口を開けば、無駄に場を乱すだけだ。
「それでは俺たちは先に失礼させてもらう」
ギルフォードを筆頭に、《黄金の夢》のメンバー達が出口へと向かっていく。重い鎧の音と共に、彼らの背中には誇りと傲慢さがにじんでいた。
ふと、ギルフォードが立ち止まった。何かを思い出したかのように振り返り、その鋭い視線をジークへと注ぐ。
「お前は確か、ジークといったか。俺たちがクビにしたメンバーが随分と世話になっているようだな。……そんな者たちと組むより、俺たちのところに来いよ。歓迎しよう」
あからさまな侮辱だった。広間に小さなざわめきが走る。しかしジークは表情を変えず、眉ひとつ動かさぬまま、まっすぐに言い返した。
「お断りします。俺は――姉御と兄貴と一緒がいいんです」
短い言葉に、一切の迷いもなかった。堂々たる態度に、《黄金の夢》の面々が一瞬言葉を失う。リーダーの顔が、怒りとも侮蔑ともつかぬ歪みに変わった。
「……フン。心を癒すことができないヒーラーと、Aランク風情のマジシャンの何がいいんだか。後悔するなよ」
吐き捨てるように言い残し、彼らは去っていった。鎧の音が遠ざかると同時に、広間の空気は重苦しさを取り戻す。
その沈黙を破ったのは、落ち着いた声だった。
「《栄光の道標》、君たちに頼みがある」
声の主は《黄金の夢》と並び称される実力者チーム、《星の盟約》のリーダー、レインであった。先ほどのギルフォードとは対照的な、穏やかで真摯な眼差しを持つ男が、一歩前に出る。
「――我々と共に、魔王セリオネの討伐にあたってもらえないだろうか」
唐突な提案に、ノアが細めた瞳で相手を測るように見た。
「……あんたはAランクの俺が混じってても構わないのか?」
レインは微笑を崩さず、はっきりと答える。
「むしろ歓迎するよ。私は君の実力を認めている。冒険者ランクだけでしか評価できないのは実に愚かだ」
「あら、わかってるじゃない」
シエラは、なぜか自分が褒められたように少し得意げになり、胸を張った。
「勿論、ジーク殿も、シエラ殿も同様だ。それに、君たち三人の結束は何より強い武器になる」
「ふふ、当然よ。……私はこの提案、受けるべきだと思うわ! 二人とも、どう思う?」
ノアとジークは目を合わせ、わずかに笑みを浮かべてから、同時に頷いた。
「受けよう」
ギルド長が深くうなずき、重々しく言葉を落とす。
「決まったようだな。協力し、討伐にあたってくれ」
その言葉に、場の緊張がわずかに和らぐ。だが同時に、これから挑む戦いの重さを誰もが胸に感じていた。
レインが一歩前に出て、柔らかい笑みを浮かべる。
「さっそく作戦会議といきたいところだが……ここは人目も多い。細かい話をするなら、我々の拠点へ移った方がいいだろう。《星の盟約》の専用拠点に、お招きしよう」
「せ、専用拠点! すげえ!」
ジークが少年のように目を輝かせ、興奮を隠しきれない声をあげる。その横で、シエラは腰に手を当て、ふふんと胸を張った。
「私たちも、そのうち持つんだから! ね、ノア!」
ノアは肩をすくめつつも、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「……努力次第だな」
こうして、《星の盟約》の拠点へと場所を移し、両パーティーによる作戦会議が始まるのだった。




