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シエラは結局、三日ほど熱で寝込むこととなった。
三日ぶりに食堂へ向かうと、そこでジークとノアが待っていた。二人は朝食のテーブルについており、ジークはいつものように大きな声でシエラを迎え入れた。
「姉御! よかったっす、元気になったんすね!」
その顔に、安堵の色がにじんでいた。ノアはいつもの涼しい顔で、ただ静かに頷く。
「……ごめん、二人に迷惑かけちゃった」
「気にするな。やることはいくらでもあったからな」
シエラは二人に問いかける。
「二人は何してたの?」
「俺はもちろん剣の特訓あるのみっす!」
ジークは得意げに胸を張る。ノアは静かに答えた。
「俺は情報収集だ。そろそろ本格的に魔王について調べたほうがよさそうだからな」
二人の頼もしい言葉に、シエラは嬉しそうに微笑んだ。
「二人とも、なんて頼もしい……!」
シエラは微笑みながらも、少しだけ胸の奥が熱くなるのを感じた。
「ヒーラー様の活躍も期待してるからな」
ノアの軽口にシエラは得意げに胸を張り、いつもより少し大きな声で言った。
「へへっ、任せて!」
だが、ふと影が差したように、眉をひそめる瞬間があった。
「どうした、急に神妙な顔つきして」
ノアは、静かにその表情を見つめながらシエラに問いかける。
「《黄金の夢》の皆、大丈夫かなぁって」
声は小さく、どこか不安げだった。
「それって、前に姉御たちがいたパーティーですよね?」
ジークが身を乗り出し、興味津々に尋ねる。
「お優しいヒーラーを補充して元気にやってるさ」
ノアは肩をすくめ、いつも通りの落ち着いた調子で答えた。
「そうじゃなくて、ノアが抜けて大丈夫なのかなって」
シエラの表情は真剣そのものだ。心配が抑えきれずに、自然と口に出てしまった言葉だった。
「そこはまったくもって影響ないだろ」
ノアは少し困ったように眉をひそめ、手元のスプーンをいじりながら、答える。
「だって、最近は作戦立てるの全部ノアがやってたじゃない」
「それはそうだが、そんなもの誰でもできるし」
「そうかなぁ……」
ノアの言葉に、シエラは首をかしげて考え込む。
「うわぁ……大変なことになってそうっすね……」
ジークは口元をしかめ、眉間に皺を寄せた。
「そう思うよねぇ!」
ジークにはシエラの懸念が伝わったようで、シエラの声が大きくなる。
「俺たちは他のパーティーを気にしてる余裕はないと思うが?」
「はい……」
呆れ交じりのノアの指摘に、シエラは一気に萎んだ。
三日ぶりに三人でクエストに出ることに、シエラは少しだけ不安を覚えていた。
三日間のブランクが、チームワークに影響しないか。もし自分のせいでクエストが失敗したらどうしよう。
だがそんな不安は、杞憂に終わった。
最初の魔物と遭遇した瞬間から、ジークとノアの動きは、以前よりも格段にスムーズだった。とくに明確な指示があるわけでもないのに、二人が互いの呼吸を完璧に合わせて行動している。
「……え? え? ちょっと待って、なんで二人ともこんなに息がぴったりなの!?」
シエラは思わず叫んだ。ノアは肩をすくめて、意味ありげに微笑む。
「さあ、どうだかな」
「内緒っす!」
ジークもニヤリと笑った。
「え~~~~!? なにそれ~~~!!!」
シエラは不満げに頬を膨らませた。そんな彼女を見て、ジークとノアは顔を見合わせて笑う。二人の間にだけ共有されている秘密があるらしい。
しかし、そのスムーズな連携のおかげで、三人はあっという間に依頼を完了させた。ギルドへの帰り道、ジークとノアは楽しそうに今日の連携について語り合っている。
「いやぁ、あの時ああ動いてくれて助かったっす!」
「俺もだ。あそこでお前が突っ込んでくれると信じていたからな」
そんな二人の様子を、シエラは微笑ましく見守りながらも、どこか不思議な感覚を覚えていた。
「おかえり、姉御」と笑うジークと、「休んでただけで焦るな」と肩をすくめるノア。
二人の優しさに、シエラは戸惑いながらも、心強さを噛みしめるのだった。




