表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドSすぎてSランクパーティーをクビになったヒーラー、幼馴染に励まされながら勇者を尻にひいていたら世界救っちゃいました  作者: 中野森


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/15

7

 翌朝。宿屋の食堂は、普段と変わらない朝食の賑わいに包まれていた。ジークとノアは、昨晩の出来事をなかったかのように振る舞っている。だが、一人だけ様子のおかしい人物がいた。


 シエラだ。


 朝が弱く、いつもなら食後までぼんやりとしている彼女が、今日は食堂についた直後からフルスロットルで言葉を発している。何かを誤魔化すように、そして焦るように、勢いよくパンを口に詰め込んだ。


 食事を終え、一息つく暇もなくシエラは立ち上がった。


「さ、今日もガンガン行くわよ!どんどんクエストこなして《栄光の鉄槌》の名声をあげなきゃ!」


「……待て、シエラ」


 勢いよく宿から出ようとした彼女の肩を、ノアが軽く掴んだ。


「な、なによ?善は急げよ!」


 ノアは彼女の額に迷いなく手を当てる。ひやりとした掌に触れられた瞬間、シエラはびくりと肩を揺らした。


「……お前、熱があるだろ」


「え?」


 自覚した途端、頭がふらふらとし、視界がぐらりと揺れた。


「姉御!」


 ジークが慌ててシエラを支える。ノアは短く息を吐き、冷静に判断を下した。


「今日は活動中止だ」


「嫌よ!私はだいじょ…」


 シエラが言い切る前に、ノアは彼女を背中に担ぎ上げた。おんぶされた瞬間、熱で火照った頬がさらに赤くなる。


「ば、馬鹿ノア……放しなさいよ……」


「はいはい」


「バカ、ほんとバカ……」


「わかったから」


 熱で朦朧としながら悪態をつくシエラを背負い、ノアは迷いなく彼女の部屋へと向かう。ジークはその横で、ただ心配そうにシエラの顔を覗き込むしかなかった。


 シエラをベッドに寝かせ、毛布をかけた後、ノアは静かに部屋を去ろうとした。


「ノア……行っちゃやだよ……」


 シエラのか細い声に、ノアは足を止める。


「しょうがないな、眠るまではいてやるよ」


「そういうことじゃなくて……」


「いいから、病人はおとなしく寝てろ」


 シエラが眠りにつくのを見届け、ノアは今度こそ部屋を出た。


 扉を閉めたところで、心配そうに待っていたジークが近寄ってくる。


「……眠った。しばらくは休ませれば大丈夫だろ」


「そうですか……」


 短い報告を受け、二人の間に沈黙が落ちる。その空気を切り裂いたのは、ジークの真っ直ぐな瞳だった。


「兄貴、姉御のこと……どう思ってるんですか?」


 唐突な問いに、ノアは目を細める。だが答えは返さない。代わりにジークがさらに一歩踏み込んだ。


「俺は……姉御が好きです!」


 力強い宣言だった。真っ直ぐな声が、宿の廊下に響く。


 ノアはしばし沈黙し、歯切れ悪く答える。


「……それは昨日聞いたから知ってる」


「ごまかさないで、俺の質問に答えてください」


 ジークの真剣なまなざしに、やがてノアは観念したように息を吐いた。


「俺だって……ずっとあいつが好きだった」


 ノアは苦笑いを浮かべながら続けた。


「でも俺は凡人だ。称号も才能もない。どう足掻いても、あいつと釣り合わない。お前が羨ましいよ」


「……そんなことを気にしてるんですか!?」


 思わず声を荒げるジーク。


「馬鹿なんですか!称号があろうがなかろうが、兄貴は兄貴でしょう!姉御を助けて、背負って、誰よりも支えてるのは兄貴じゃないですか!才能とか称号とか、そんなもの関係ない!」


 熱を帯びたジークの言葉に、ノアは短く笑った。


「……敵に塩を送るなんて、人が良すぎるな」


「俺は負けませんよ!」


「……ああ。受けて立つ」


 二人の視線が真っ向からぶつかる。シエラを想う気持ちは同じ。だからこそ、譲れない。互いを恋のライバルとして認め合った瞬間だった。


 ジークは心臓の鼓動を抑えられないまま、拳を握りしめる。ノアは肩の力を抜き、どこか晴れやかな表情で天井を見上げた。


 廊下に静けさが戻る。


 その奥の部屋では、シエラが微かな寝息を立てていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ