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最初のギルド登録から数ヶ月。パーティー《栄光の道標》は、その驚異的な成長速度で瞬く間に名を馳せていた。
「おい、見たかよ。また《栄光の道標》か」
「ああ。特にあのジークってのがヤバいらしいな。最初はBランクだったのに、今じゃもうAランクだぜ?」
街の冒険者たちは、口々に彼らの噂を囁き合う。
ノアとシエラの指導のもと、ジークはめきめきと実力をつけていった。元々素直で真面目な彼は、教えられたことをまるでスポンジのように吸収していく。戦闘では、ノアの立てた作戦、シエラの回復と激励のサポートにより、迷いのない剣筋で、どんな困難な依頼も乗り越えてきた。
パーティーランクは、あっという間にAランクへと昇格し、ジーク自身のランクもAランクになるのにそう時間はかからなかった。
そして先日、ギルドからジークにSランク試験の打診があった。
「やったじゃない! ジークなら絶対に合格できるわ!」
自分のことのように喜ぶシエラの隣で、ノアは複雑な表情を浮かべていた。Aランクで称号なしのノアは、どれだけ努力してもAランクのままだ。それなのに、ジークはたった数ヶ月でその扉の前に立っている。
ノアは「頑張れよ」と声をかけるのが精一杯だった。
Sランク試験当日、ジークは余裕の表情で会場から戻ってきた。結果は、合格。ギルド史上最速での昇格だった。
その夜、三人は宿の食堂でお祝い会を開いた。
「ジーク、本当におめでとう」
「ジークのおかげで、私たちのパーティーもまた強くなれたわ」
二人の祝福の言葉に、ジークは照れくさそうに頭を掻いた。
「いや、俺は二人のおかげでここまで来れたんです。姉御がいてくれたから、怖がらずに戦えた。ノア兄貴がいてくれたから、安心して動けた。本当に、ありがとうございます!」
ジークは、感謝の気持ちを伝えるうちに酔いが回り、顔を真っ赤に染めていく。
そして、意を決したようにシエラに向き直った。
「姉御、俺……」
「ん?」
「好きです!」
シエラは一瞬、時間が止まったかのように固まる。ノアは、手元のグラスを静かに見つめていた。
「え、う、嬉しいけど……そういう目では見れないわ」
シエラの言葉に、ジークは少し寂しそうに微笑んだ。
「わかってます! 伝えたかっただけなので! これからもよろしくお願いします!」
そして、頭を冷やすためだと言い、先に席を立つ。
残されたのは、シエラとノアだけだった。二人の間に微妙な沈黙が流れる。
「きゅ、急にびっくりしたね……」
「そうだな」
言葉が続かない。シエラは少し肩をすくめ、場を和らげようとする。
「ジークも強くなったし、魔王討伐が見えてきたわね!」
しかしノアの視線はどこか遠く、グラスの上で揺れていた。
「……もうSランクだからな。さすが勇者様は違うな。俺は天と地がひっくり返ってもSランクにはなれない」
グラスを置く音が、静かな食堂に大きく響いた。普段の余裕の影はそこにはなく、わずかな焦りと劣等感が滲んでいた。
「称号があることが条件になければ、ノアだってとっくにSランクになってるわ!」
シエラの声は明るく、励ますつもりだった。
「どうだかな……俺は、シエラやジークと違う。どんなに努力しても、ただの凡人だ」
シエラはその言葉に眉をひそめる。
「そんなことない! ずっと一緒にいる私が保証するわ!」
ノアは深く息を吐き、頭を振った。
「やめてくれ!……悪い、一人になりたい」
「ノア……」
「ごめん、おやすみ」
ノアは立ち去り、静かに食堂を後にする。シエラはその背中を見送り、胸の奥に言葉にならない感情が芽生えるのを感じていた。
喜ぶべき宴のはずが、そこには微かな陰が差していた。




