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街の中心にある冒険者ギルドは、朝から活気に満ちていた。石畳を踏みしめる足音、金属の鎧の擦れる音、依頼掲示板を囲む冒険者たちの喧騒――三人はその賑わいに胸の高鳴りを感じながら、扉をくぐった。
「まずはパーティー登録だ」
ノアが先頭に立ち、受付カウンターへ向かう。
「すみません、パーティー登録をお願いします」
無愛想な受付嬢は、手元の書類から顔を上げることなく、淡々と応じた。
「承知しました。メンバーは?」
ノアは落ち着いた声で答える。
「シエラ、Sランク、ヒーラー。ノア、Aランク、マジシャン。ジーク、Bランク、ナイトです」
「承知しました。メンバー全員のギルドカードを提出してください」
三人はそれぞれのギルドカードを受付嬢に手渡した。受付嬢は、シエラとノアのカードを順に確認し、そしてジークのカードに視線を落とした。
Bランクと記されたカード。しかし、そのカードの片隅に刻まれた称号を見た瞬間、彼女の無表情な顔がわずかに驚きの色を見せた。
彼女はそれを隠すように、すぐにカードから目を離し、淡々と続ける。
「パーティー名はいかがなさいますか?」
ジークは胸を張り、緊張しながらも声高らかに宣言する。
「《栄光の道標》です!」
受付嬢は、彼の自信に満ちた声に、わずかに表情を動かした。リーダーの指名も尋ねられ、ノアはシエラに視線を送った。
「リーダーはシエラでお願いします」
しかしシエラは、即座に慌てて首を振った。
「えっ!? リーダーはノアでしょ!」
予想外の反論に、ノアは肩をすくめた。
「いや、冒険者ランクからいって順当なのはシエラだろ」
シエラはきっぱりと首を振る。
「そんなことないわ! 敵の分析も、作戦を立てるのも、全部ノアがやってくれてるもの。このパーティーの要はあなたじゃない!!」
ジークもにこやかに、しかし力強く頷いた。
「俺も賛成です! 兄貴の作戦なくしてこのパーティーは成り立ちません!」
二人の揺るぎない視線に、ノアは観念したように息を吐く。
「はぁ……わかったよ。後から文句言うなよ……」
受付嬢は書類に記入し、告げた。
「実績がないため、パーティーランクはBからスタートです」
シエラは少し不満そうな顔になったが、ノアは気にする様子もなく言った。
「想定内です。ありがとうございます」
ギルドの掲示板を眺めながら、三人は初めての討伐クエストを選ぶ。
「森の魔獣討伐か……危険度はそこまで高くない、中級者向けだな。俺たちなら問題なくできるだろう」
ノアが冷静に分析する。
「異議なし!」
シエラが元気よく答える。
「頑張ります……!」
ジークは自分の顔をたたき、気合を入れた。
◆
森に足を踏み入れた三人――ジーク、ノア、シエラ――の前に、突然、複数の魔獣が現れた。鋭い牙と爪を持ち、木々の影から次々と飛び出してくる。小型の魔獣が三体、大型魔獣が一体。
「うわ……数が多い……!」
ジークは剣を握り、反射的に後ずさる。恐怖が、彼の心を支配しようとしていた。
ノアは冷静に状況を見渡した。
「小型は素早いが、攻撃力はそこまで高くない。大型は遅いが、耐久力が高い。ジーク、前線で敵を引きつけろ。まずは小型をまとめて倒すぞ」
「こ、こんなに……沢山……!」
ジークは恐怖に囚われ、ノアの言葉が届いてるようには見えなかった。
「しっかりして!」
それを打ち破るようにシエラは鋭く叫んだ。
「怖がる暇があったら剣を振るうのよ! 根性を見せなさい!」
シエラの言葉が、ジークの胸に突き刺さる。恐怖に染まりかけた視界が、一気にクリアになる。
小型の魔獣が突進をはじめた。
「こっちだ、ジーク! こいつらからやるぞ!」
ノアが詠唱を開始。魔力が渦を巻き、地面から炎の柱が立ち上がる。小型魔獣たちは一瞬で吹き飛ばされ、群れが分断される。
ジークは息を整え、隙を突いて一体を斬り伏せる。だが、別の魔獣がすぐに襲いかかってきた。
「大丈夫! 私が回復するわ!」
シエラは回復魔法でジークの傷を瞬時に癒やす。
「その調子! まだまだ行けるわよ!」
「……はい!」
ジークはシエラの支援を受け、前線で剣を振るう。小型魔獣はノアの範囲魔法とジークの攻撃で次々と倒されていく。
大型魔獣が怒りの咆哮と共に襲いかかる。
「来るわよ、ジーク! 踏みとどまって!」
ノアが詠唱を完成させ、地面に強烈な魔力波を叩きつける。大型魔獣はバランスを崩し、追い打ちをかけるようにジークが渾身の力でとどめを刺した。
「……や、やりました……!」
ジークは息を切らしながらも、胸を張る。
シエラは杖を握ったまま微笑んだ。
「ふふっ、上出来じゃない」
ノアは静かにうなずき、二人を見守った。
《栄光の道標》――三人の初仕事は、こうして無事成功したのだった。




