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朝の宿の食堂は、すでに数組の冒険者たちで賑わっていた。焼きたてのパンとスープの香りが漂う中、ノアは一人、窓際のテーブル席に腰を下ろして待っていた。
ほどなくして、ジークが姿を現す。きびきびとした足取りで近づくと、恭しく頭を下げる。
「おはようございます、兄貴!」
「朝から元気だな……。ゆっくり眠れたか」
「はい! ぐっすりです!」
ジークは整然と椅子に腰掛ける。ノアはパンをかじりながら、ちらと入口を見やった。
「姉御、来ませんね……? 何かあったんでしょうか……」
「いや、いつものことだ。あいつは朝が弱い」
「えっ、そうなんですか」
驚くジークに、ノアは肩をすくめて答えた。
そのとき、食堂の扉がぎぃと開く。
「……おはよう……ふたりとも……ふぁぁ……」
大きなあくびをかみ殺しながら、シエラが眠たげに現れる。髪はまだ少し乱れていて、ぼんやりとした足取りのまま近づいてきた。
「おはようございます、姉御!」
ジークが背筋を正して声をかけるが、当の本人は「……ん」と小さく返しただけで、まだ意識は半分夢の中。
「えっと……」
どう接すればいいのか分からず、ジークが困惑してノアを見る。
ノアが無言で椅子を引くと、シエラがそこに腰掛けた。
「ご飯食べてたら、そのうち大丈夫になるから。気にするな」
「は、はい……」
三人はそのまま朝食をとった。温かいスープを飲み干す頃には、シエラの目もようやく覚めてきたようだ。
「ふぅ……やっと頭が回ってきたわ」
「じゃあ改めて自己紹介といこうか」
ノアがパン屑を払って言った。
「シエラから頼む」
「え、わたし?」
急に話を振られて、シエラは一瞬ぎょっとしたが、咳払いをして自己紹介を始めた。
「……シエラ。冒険者ランクはS。称号は《癒し手》。職業はヒーラーよ」
「姉御、かっこいいです!」
ジークが目を輝かせる。
続いてノアが軽く手を挙げる。
「ノア。ランクはA。称号は特になし。職業はマジシャンだ」
最後にジークが胸を張った。
「ジークです! 冒険者ランクB! 称号は《勇者》、職業はナイトです! 兄貴、姉御、これからよろしくお願いします!」
ノアは眉を上げた。
「あんた、称号持ちなのかよ……」
その言葉に、ジークはうつむき、声が小さくなる。
「あはは……実はそうなんです。最初はみんな、俺がすごいやつなんじゃないかって近づいてくるんです。でも……俺が臆病者だってわかると、手のひらを返したように散々なこと言われて……失望していなくなるんです……」
ジークは、過去の苦い記憶を語り始める。
「称号持ちで、しかも勇者なんて立派なもの、なんで俺なんかが与えられたんでしょう……」
シエラは彼の言葉に、過去の自分を重ねた。
「昨日ちゃんと戦えてたじゃない! もういい加減、自信もちなさい!」
シエラが勢いよく励ます。
「はい、姉御……!」
ジークの目が再び輝きを増した。
その様子を見て、ノアは軽く息を吐き、話を切り替える。
「それで、これからのことだが……」
「魔王を倒すわよ!」
シエラが食い気味に宣言する。
「落ち着け。焦るな」
ノアが額を押さえた。
「まずはギルドにパーティー申請をしに行く。パーティーランクはよくてAだが、おそらくこの組み合わせでの実績がないからBからのスタートになるだろう。着実にクエストをこなしてSまで上がることができれば……魔王に挑んでもいいレベルに達したと判断できるだろう」
「魔王討伐、ですか」
ジークがごくりと唾を飲み込む。
「私ね、《癒し手》の影響のせいか、魔王みたいな存在を野放しにしておきたくないのよ。一刻も早く倒さないとっていう想いが溢れてきちゃって……」
シエラが気まずそうに続ける。
「《黄金の夢》に入るのが、魔王討伐への一番の近道って思ったんだけど……」
遮るように、ノアが口を開いた。
「とにかく今は、俺たち三人での実績を積もう。他のパーティーと協力して魔王討伐を目指すにしても、俺たちの実力を認めてもらえなければ話にならないからな。いいな?」
「お、おす!」
ジークが力強く答える。シエラも大きく頷いた。
こうして三人は、正式にパーティー活動を始めるため、ギルドへ向かうことになった。




