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本日2話目の更新です。
明日以降は1日1話となります!
木々のざわめきを切り裂くように、鋭い咆哮が響いた。
シエラが駆けつけた先で、見知らぬ青年が尻もちをつき、震えながら天を仰いでいた。
傍らには彼が落としたと思われる剣が転がっている。
その視線の先――血走った瞳の魔獣が青年を睨み据え、獲物を見定めているかのように牙を剥いていた。
「大丈夫!?」
シエラはすぐさま青年に近寄り、回復魔法を展開しようとする。しかし、彼の傷は皮膚がかすった程度。血はほとんど出ていない。
(彼が今必要なのは、回復魔法じゃない)
「……かすり傷じゃない! 剣を持って、戦えるでしょ!」
シエラの声に、青年――ジークはハッと顔を上げた。
「……無理だよ! 俺なんかじゃ……! 全然歯が立たなくて……!」
彼の悲鳴にも似た叫びが、過去のパーティメンバーの声と重なり、シエラを一瞬ためらわせた。
このまま鼓舞をし続ければ、拒絶されるかもしれない。
だが、シエラはやめなかった。
「何甘えたこと言ってるのよ! 今、この場で戦えるのはあなたしかいないのよ!」
そこへ駆けつけたノアが冷静に状況を見極める。
「……《魔獣オルグ》か。外皮に防御結界をまとっているから、そのままじゃ物理攻撃は通らない。俺が魔法で結界を削る。それまでなんとか持ち堪えてくれ」
淡々と告げると、ノアは即座に詠唱に入った。魔力の気配に反応し、《魔獣オルグ》の視線がノアに注がれる。
「いつまで座ってるの!急いで!」
シエラはジークに剣をにぎらせ、声を張り上げた。その声は、恐怖にすくむ彼を叱咤しながらも、どこか「大丈夫、私がついている」と語りかけているようだった。
「お、俺!?」
ジークの声が裏返る。恐怖で喉がひきつった。
「当たり前でしょ! 大丈夫、あなたならできるわ!」
シエラの一喝に、ジークの胸がなぜか熱くなる。
(この人は、俺を信じてくれている……?)
怖いのに、不思議と足が動いた。彼は震える手で剣を握り直し、ぎこちない動きで敵の前に立つ。刃は防御層に弾かれ歯が立たないが、悲鳴を上げながらも必死に剣を振り続けた。その必死さが敵の注意を引きつけた。
背後ではノアの魔力が高まり、詠唱が完成に近づいていく。
「もう少しだから!頑張って!」
シエラの必死な声が、ジークの心を支える。
やがて、ノアの魔法が放たれる。閃光が走り、魔獣の外皮を覆う防御結界が砕け散った。
「今よ! とどめを刺すの!」
シエラの叫びが雷鳴のように響いた。ジークは全身に力を込め、渾身の突きを繰り出す。刃が肉を貫き、魔獣は断末魔をあげて崩れ落ちた。
「なんとかなったな……あんた、思ったより根性あるじゃん」
静まり返った森に、ノアの静かな一言が響く。ジークは、その言葉が自分に向けられたものだと理解し、驚きと同時に安堵を覚えた。
(俺はただ必死だっただけなのに……。でも、この人にはちゃんと、俺の頑張りが見えていたのか)
「……や、やった……俺が……?」
自分の剣が確かに魔獣を倒した。ジークは信じられない思いで息を荒げる。
「えぇ、そうよ。あなた、やればできるじゃない」
シエラの微笑みは、勝利の余韻よりもずっと眩しかった。胸が熱くなり、呼吸さえ忘れる。
(俺……この人のためなら、何度だって戦える……!)
恐怖の奥で芽吹いたのは、シエラへの抗えぬ憧れと、決定的な恋心だった。
その一方で、シエラは自分のヒーラーとしての在り方が間違っていなかったと胸を撫で下ろしていた。
「……シエラ。なに、やりましたって顔してるんだよ。今回はたまたま上手くいったけからよかったけど――」
水を差すようなノアの言葉に、シエラはすかさず口を挟む。
「ちょっと! そんな言い方しないでよ! 私たち、ちゃんと勝ったんだから!」
掛け合う二人の声を聞きながら、ジークの胸の鼓動はいつまでも高鳴っていた。




