15
魔王討伐の報せは瞬く間に王都へと広がり、城下町は昼夜を問わず歓喜の渦に包まれた。そして今宵、王城の大広間では、三つのパーティーの凱旋を祝う盛大な宴が開かれていた。
豪奢な料理の香り、奏でられる楽団の音色、賑やかな笑い声。冒険者も貴族も入り混じり、誰もが勝利の余韻に酔いしれている。
だがその喧噪から少し離れた隅の方にあるテーブルに、《栄光の道標》の三人はいた。ジークが少し呆れ顔でノアに囁く。
「兄貴、こんな時でもやっぱり端っこなんですね」
「いいだろ、別に……」
ノアは少し顔を赤らめ、気まずそうに答える。
「ふふ、いいじゃない。ここ落ち着くし」
シエラは楽しそうに笑みを浮かべた。
そんな折、聞き覚えのある重い足音が近づいてくる。
「お、お前たち……!」
振り返れば、《黄金の夢》の面々が並んでいた。シエラは腕を組み、にやりと笑う。
「あんたたち、みーんな降格処分だって?まぁ、それくらいで済んでよかったじゃない」
「俺たちが悪かった!」
突然、ギルフォードが真剣な顔で頭を下げる。
「……いきなりなんだよ、気持ち悪いぞ」
ノアは困惑しながら返す。
「俺たちには……お前たちが必要だって気づいたんだ!勿論、ジーク君も歓迎する。だから――戻ってきてくれないか!」
「はぁ?絶対いやよ!断固お断り!」
シエラは即答した。
「頼みます、姉御!」
「え?」
続いて他のメンバーも口々に叫ぶ。
「戻ってきてください、姉御!」
「姉御ぉぉ!」
「なっ……」
シエラは面食らい、頬を引きつらせる。
ジークが勢いよく立ち上がった。
「何言ってるんですか!!姉御は俺たちだけの姉御です!!帰ってください!!!」
「その突っ込みもどうかと思うが……」
ノアは苦笑して肩をすくめる。
「とにかく俺たちは戻らない。お前たちだけでせいぜい頑張れ」
ノアはきっぱりと言い放った。
「そんなぁ兄貴ィィィ!」
「だめです!兄貴も渡しません!」
ジークが負けじと叫ぶ。
「……いいからもう去れ!」
ノアの一喝で《黄金の夢》のメンバーたちはしぶしぶ退場する。
だがその直後、どこからか「あれ?あそこにいるの勇者様じゃない?」という声が上がった瞬間、ジークは瞬く間に冒険者や貴族たちに囲まれ、英雄として担ぎ上げられていく。
「ちょ、待ってください!俺そんなに飲めませんから……!助けてください兄貴、姉御――」
ノアは遠巻きに眺めて、ぼそりと呟いた。
「勇者様も大変そうだな……」
「だね……」
シエラが笑いながら賛同した。穏やかな夜の空気が流れ込み、ふたりの間に静かな時が訪れる。
「ねぇノア、ありがとね」
シエラがぽつりと言った。
「なんだよ急に改まって」
ノアは戸惑いながら答える。
「いいじゃん、たまには言わせてよ。ずっと私のこと支えてくれて……ノアがいなきゃ、ここまでこれなかったよ」
ノアは静かにシエラを見つめ、少しの沈黙の後に口を開く。
「……それはお互い様だ」
あまりにも真剣なノアの眼差しを、シエラはそらすことなどできなかった。
「シエラに釣り合う男になりたくて、ずっと努力してきた。その結果、今の俺がある。……シエラに出会えてよかった。これからも、よろしくな」
「えっ……えっ?そ、それってどういう……」
ノアの言葉に、シエラは顔を真っ赤にし、息を詰める。
そこへ、ただならぬ空気を察知したジークが「抜け駆けはだめですよ、兄貴!」と叫びながら割り込んでくる。
「なんのことだか?」
「絶対嘘です!!!!」
ジークが大声で突っ込む。
「ははは。君たちは本当に仲が良いな」
レインがにこやかな表情を浮かべながら歩いてきた。
「レインさん、お疲れ様です」
「お疲れ様です!」
《栄光の道標》の三人は快くレインを出迎える。
「君たちと一緒に戦えてよかったよ」
空いていた席に座ったレインが三人を見渡しながら呟く。
「こちらこそ。ランクを気にせず声をかけてくださったおかげで、俺たちも参加できました」
ノアが頭を下げると、レインは意味ありげに微笑んだ。
「そのことだが……ノア殿に近々ギルドからSランク昇格の打診がいくと思う」
「は?」
あまりに予想しなかった言葉に、ノアが固まる。
「俺とギルフォードの連名でギルドに嘆願書を出しておいた。今の君の評価は低すぎるからな」
「ギルフォードまで……」
「ふふ、楽しみに待つといい」
そう言い残し、レインは人混みに消えていった。
「やりましたね!兄貴!」
「まだ決まったわけじゃ……」
「絶対大丈夫よ!なんなら私、嘆願書百枚くらい書いてやる!」
「俺も手伝います!」
「気持ちはわかったから……勘弁してくれ……」
ノアが頭を抱える横で、シエラは楽しそうに杯を掲げた。
「《栄光の道標》のさらなる躍進を願って――かんぱ〜い!」
笑い声が響き渡る夜会の中で、三人は杯を掲げた。
彼らの旅路は、これからも続いていく。
《栄光の道標》の冒険は、まだ始まったばかりなのだ。
俺たちの戦いはコレカラダッ!なんて…w
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