13
本日朝・昼・晩と3話(最終話まで)更新予定です!
「何が『全員揃って出発しよう!』だ、冗談じゃねえ」
《黄金の夢》のリーダー、ギルフォードは苛立ちを露わにしながら、足早に森を突き進んでいた。
枝葉を荒々しくかき分ける音が、彼の焦燥を物語っている。後ろに続く彼の仲間たちも顔を見合わせ、不安げに黙り込んでいた。
「俺たちだけで行っていいんですか? ギルド長が“必ず三パーティーで行け”って念押ししてましたよね」
「そうですよ、国からの命令だって。無視したらどうなるか……」
弱々しい声が飛び交う。だが、ギルフォードは振り返りもせず吐き捨てた。
「そんなの、魔王を倒せばお咎めなしだ」
「……」
仲間たちは言葉を失った。正論のように聞こえるが、それが虚勢にすぎないことは誰もが感じ取っていた。だが、指摘する勇気もなかった。
苛立ちを募らせたギルフォードは、苛烈な声で怒鳴り散らす。
「俺たちは誰だ! この国一番のパーティー《黄金の夢》だぞ! お前らがそんなんだから最近なめられてるんだろうが!」
その言葉に、仲間たちはさらに俯いた。確かに、冒険者の間で《黄金の夢》は「看板倒れ」と噂され始めているのだ。
原因は、ここ最近は目立った功績を上げられていないことにある。
その事実を口にすればリーダーの怒りを買うのは明らかで、誰も真実を指摘できなかった。
やがて木々が途切れ、視界が開ける。そこにそびえ立っていたのは、漆黒の城――魔王城だった。
空はどんよりと濁り、雲は渦を巻き、大地はひび割れ草木すら枯れている。その中心で、黒鉄のような城が異様な存在感を放っていた。側近の根城と比べても桁違いの禍々しさに、《黄金の夢》の面々は思わず足を止める。
「リーダー……ほんとに、俺たちだけで大丈夫なんですか」
声を震わせるながら発せられた問いに、別の者もすがるように続く。
「他のやつらを待ったほうが……」
「何フヌけたこと言ってんだ!」
ギルフォードは怒鳴り返した。
「楽勝に決まってるだろ!」
その声は、もはや自分自身に言い聞かせているかのようだった。彼は顔を歪めながら、剣の柄を握りしめる。
「行くぞ!」
ギルフォードの叱咤に押され、彼の仲間たちは重い足を動かした。
そして――。
分厚い扉を押し開けた瞬間、広間に吹き荒れたのは暗黒の気配。黒い瘴気が渦巻き、視界を覆う。その中心に、悠然と座す影があった。
「……!」
影が立ち上がる。闇そのものが人の形を成したかのような、圧倒的な存在感。紅玉のようにぎらつく瞳が、怯える彼らを射抜いた。
「そんな少人数で私を倒せると思ったのか? 随分と馬鹿にしてくれたものだな」
魔王――その声は冷ややかで、広間の壁を震わせた。威圧感だけで心臓を握り潰されそうになる。
ギルフォードは足を震わせながらも、どうにか声を絞り出した。
「……まずは、左目だ!」
作戦会議でノアが口にしていた箇所だ。
ギルフォードは必死に叫び、一斉攻撃を指示する。《黄金の夢》のメンバーたちは剣を振るい、魔法を放った。
しかし――。
刃はすべてかわされ、火球は闇に飲まれた。魔王は余裕の笑みを浮かべたまま、紙一重で身を翻し、鋭い爪で反撃を繰り出す。
「ぐああっ!」
一人、また一人と吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
詠唱された雷撃は片手で掴まれ、逆に放たれて魔法使いを薙いだ。
「やっぱり……俺たちだけじゃ無理だったんだ……!」
絶望に打ちひしがれる声が広間に響く。
「バカヤロー! 弱気になるな!」
ギルフォードは叫んだが、その声も恐怖に震えていた。魔王の容赦ない攻撃が続き、次々と地に伏していく。
「うわあああ……!」
絶叫が戦場にこだました。
「ふん、もう終わりか。人間とは実に脆いものだ」
魔王が冷笑する。倒れ伏した人々は、体を動かそうとしても動かない。
「ちくしょう……こんなところで……」
魔王の前では、あまりにも無力だった。
「闇の業火に焼かれろ」
魔王の手から迸った黒炎が、波のように広間を覆った。誰もが死を覚悟した瞬間――。
「うああああああ……あれ……熱く、ない……?」
熱い痛みの代わりに、全身を温かな光が包み込んだ。苦悶に歪んでいた顔に、驚きと安堵の色が浮かぶ。
「貴様ら、いつの間に!」
魔王の声が、初めて動揺を帯びた。
「……間に、合った……」
息を切らしながら駆け込んできたのは、シエラだった。彼女の杖から放たれた癒しの光が、黒炎からの致命傷をたちまち治し、死の淵から引き戻していた。
「シエラ! 無事か!」
「ノア……!」
ノアの声にシエラが振り向くと、その後ろには《星の盟約》と《栄光の道標》のメンバーたちが駆け込んできていた。
「姉御、足早すぎですって……」
ほっとした表情のジークがいる。
「ヒーラーが真っ先に飛び出すなって言ってるだろ!」
「ごめん……!」
「反省は後だ! みんな、構えろ!」
レインの一声が広間に響く。新たな戦いの火蓋が、切って落とされた。




