Lv1なのに最強な俺は魔王討伐パーティに強制加入するようです
好評だったら飛ばし飛ばし書いてしまった所をきちんと書いてシリーズ化させるつもりです。好評だったら…ですけど…。
暇なときに流し見していってください。
この物語はフィクションであり、登場人物や他の物事に関係性は一切ございません。
この世界は『レベル』というもので成り立ってるといっても過言ではない。
Lv1~1000まであり、数字が高くなればなるほど強いという一般的なものだ。そしてそれに応じて住める場所や食べるものなどが決められている。
500から下のレベルの人間は村などで育ち、500レベルの中でも当然差別というものは存在する。
Lv1~1000まであり、数字が高くなればなるほど強いという一般的なものだ。そしてそれに応じて住める場所や食べるものなどが決められている。
500から下のレベルの人間は村などで育ち、500レベルの中でも当然差別というものは存在する。家畜のように働かさせられ、時に泥水をすする生活。それが日常茶飯事で…それが普通の生活だった。
500レベルから上のものは…いわゆる上級貴族のような生活を送っている。
それではそのレベルというものはどうやって決まるのか…。
一年に一度に開かれる闘技イベントに参加し、その結果がレベルに反映されるというものだ。大会でいい成績を収めることが出来たらレベルは大きく上がり、『魔王討伐パーティ』に招待される。
一年だけその大会に参加しないということもできるが、前回のレベルから変動はしない。
要するに実力で地位を勝ち取るというものだ。それが何百年と続いた世界なのでここの人たちは日々レベルを上げるために努力している…のだが———。
◇
とある村…500レベルの中でもくらいの低い1~10レベルの人たちが集まる村。
「よっと…おじさん、これはここでよかった?」
「ありがとなカイ、そこに置いておいてくれ」
「わかった」
白い髪の毛に赤いメッシュ…瞳も赤く、15歳の少年がその村で支給された荷物を運んでいた。少年の名前は『カイ・レイナブル・スター』Lv1の底辺中の底辺。だがこの村の人たちはものすごく優しく、カイもその居心地の良さを感じていた。
「今回の支給はいつもより少ないな…」
一人の男が不安そうな声をあげるが…先程カイと話していたおじいさんが曇った空を見上げながら口にする。
「そういえばもうそろそろだったか…レベルが決まる大会…」
おじさんがその言葉を口にした直後、空気がぴりつく。一年に一度のレベルが決まる闘技大会。Lv1から10の村の人たちが一勝でも出来たらレベルは一気に上がる。そうなれば当然全員闘志を燃やす…はずなのだが。
「カイは今回も大会には出ないのか?」
がたいのいい大男が首を傾げながらカイに質問をした。周りにいる村人がカイに視線があつまる。
だが当の本人は手を横に振りながら答える。
「いや~俺はいいよ、別にここの村から離れたいってわけじゃないし…」
頭を掻きながらカイは気恥ずかしそうに話していたが、この村に来てから仲良くしていた女の子も続いてカイに不思議そうな顔を浮かべながら聞いた。
「カイ君…本当にいいの?もしかしたらここよりいい生活ができるかもしれないのに…」
ゆっくりとカイに近づき、その女の子を見て肩を竦める。
Lv1~10の人間は例外として、大会を受けなくてもいいという救済処置的なものがある。戦って勝てないと知りながら戦うのはどうかという声を聴き、上級貴族たちがつけたもの。近年、Lv1~10の人間たちの参加は減ってしまった。しかし他の人間からは蔑む声、明らかに嫌味ったらしい同情を見せられることがある。それは故に、大会に出ないのであればこの世界の奴隷になるといっているようなものだったから。
カイもそのうちの一人で、ここの村に来てから一度もその大会に出たことがない。
「大丈夫大丈夫…俺は十分みんなといれて幸せだし!」
サムズアップをしながら答えるカイ…何かごまかしているようにも見えるその姿を見てカイに質問をしていた子はうつむきながら口を開いた。
「私は…今回の大会に出ようと思う」
「…!?」
少女の発した言葉に、村全員が目を見開き驚いていた。そしてカイも冗談だよな?と言いながら近づく。
「私…本気だから!確かにこの村は楽しいし、私も幸せだったけど…街の人に向けられる視線が嫌なの!」
「…」
カイは何も言い返せなかった。彼女…『ミナ・クルス』は食料がなくなったら街に買い出しに行く支給班だったからだ。カイもそこに所属しているのでその気持ちはよくわかる。時に物を投げつけられ、時に罵声を浴びせられ、きっと彼女は耐えられなかっただろう。誰も…大会を出ていてLv1ならただ嘲笑うだけでここまであたりが強くない。出ないという選択を取っているのが、他の人間たちにとって虫唾が走るのだろう。
ミナはそう言い、その場から離れるように走り出し…カイは手を伸ばしその手を空に彷徨わせていた。
「…ミナ」
カイがぽつりとつぶやくと、一人の村人がカイの肩に触れて一言…
「追いかけてやるのが男ってもんだ」
「…え?」
「女の子を泣かせたら罰が当たるぞ」
「いや泣いてはなかった…と思うけど…」
「そんなことはどうでもいいから早く追いかけなさい!
「゛いっ…!?」
背中をバンッと叩かれてつまずくように足がもつれ…後ろを振り返ると「さっさと行け」と言わんばかりの顔をしている村人たちがずらりと並び…それに気圧されたカイはため息をつきながらミナが向かったであろう場所に足を運んだ。
◇
ザーッと潮が引き、またザーッとその潮がミナの足に触れる。少し冷たく、動いているような…あの不思議な感覚を感じながら…金髪の長い髪を耳の横にかけ、青い瞳でじっと見つめるように…果てしない境界線をミナは眺めていた
「決めたの…私はレベル1から上がって見せるんだから」
曇っているせいで太陽は見えないが、太陽があるであろう場所に視線を向けながら誓うように独り言つ。
本当に、いやだった。汚物を見るような目…最初は気にしなかったが時間が経つにつれ、歳を重ねていくことにつれて、変な罪悪感が目覚めてしまっていた。こんな自分でいいのか…いつまでこの生活を続けていくのだろう…と。実力が物をいう世界で、戦いを放棄していいのだろうかと。そう思うようになってしまっていた。
そして今年の大会で…いい結果を残してこの孤島の村から出ると、決めたミナ。そのはずなのに…村の人たちやカイを置いて行ってしまうのかという気持ちも…同時に芽生えてきていた。おじいさんは歳というのもあって大会に出ないのはなんとなくわかる。でも固くなにでようとしないカイは村人から見ても、ミナから見ても理解しがたいものだった。ここ数年は別に気にしてはいなかったが…いざ考えてみるとその大会から避けているような感じをしていたような気もする。
(出ない理由がちゃんとあるんじゃないのかな?)
いつもは村が楽しいから~とかいうなぁなぁな言葉で返されるが、もし仮にちゃんとした理由があるのならミナだって納得がいく。でもそれを話そうとはしないし、むしろ隠そうとするカイを見てしまっては、それ以上はもう聞けない。
(でも…カイも一緒に大会に出て、一勝でもすれば…二人でどこかに…)
…そんなようなことを考えていると後ろからカイの声が聞こえてくる。
「お~いミナ!」
浜辺というのもありカイは裸足でこけないようにしながら駆け足でミナに近づく。その様子を見ていたミナだったが、フンっと鼻を鳴らしてそっぽを向く。表では感情を出していないが、この時のミナは来てくれたという嬉しさが胸中にこみあげてきていた。
(カイくんが来てくれたっ!)
そう思ってすぐ、自分が怒っているんだと気づき…怒ってる?なんで?別にカイには怒ってないけど…と思い返しながら隣に立つカイを見る。カイはミナの方を見ず…境界線を眺めながら語る。
「ごめんな…ミナ、決心して言ってくれたのに俺は誤魔化すようにしてさ」
「ううん…いいの。でも…カイくんは出ないんでしょ?」
ミナはカイの顔を見ながらそう質問をする。質問をしても意味がないと分かっていたのに…でも…
「俺もさ、一応ミナと同じ支給班だから街に行くだろ?」
「…う、うん」
こんな時にどうしてそんな話をするのかと少し考えていたが、カイの真剣に話している表情を見て…思わず唾を飲み込み、その話を聞くことにした。
「ここ10男年間…大会の優勝をしてる人物を知ってるか?」
「えっと、確か…ミョウって人だよね?」
カイは小さく頷き…ゆっくりと顔をミナの方に向けながら…
「その人、俺の兄貴なんだ」
「…え……」
その言葉を聞いて…ミナは目を見開いた。血のつながった兄が、年に一度開催されている大会で何度も優勝している人物。ミナは何か言おうと口を何度も開け閉めさせるが…カイはそのまま話を続ける。
「もうずいぶんと昔の事だから全部覚えてるわけじゃないけど…多分俺は捨てられたんだよ」
悲しそうにいうカイの顔を…ミナはもう見てられなかった。
「ここの村の人に育てられて、本当に俺は心から幸せだと思ってた。だから…それでいいと思っていた。」
ミナはその言葉を聞いて涙がぽろぽろと零れ落ちていた。いつも笑って誤魔化しているカイを見ていたからなのか…きっと、ミナよ辛い思いをしていたと思う。街で向けられる視線、浴びせられる罵詈雑言。その人たちはカイが優勝者の弟と知らない…でも、今この瞬間にミナは知ってしまった。その申し訳なさで涙が流れてしまったのだと、思い返しながら理解する。
「え、えっと…なんでミナが泣いてるの?」
カイはミナを心配する顔を浮かべるが…ミナはその涙を拭いながら「ううん」と否定する。カイは目をぱちぱちさせるだけでミナの事を見ているだけだった。
「ごめんね…私、勘違いしてた。私だけが…辛いって思ってたから」
「そういうつもりじゃ——」
いつも通り、ふざけた様子で誤魔化そうとしていたができなかった。気が付けば…カイも涙を流していた。
(俺も…辛かったのか…)
心のどこかで自分も大会に出ないといけないと思っていたのは事実。だが街に支給品を受け取りに行くときに見える名前と…銅像。それを見て弟であるカイは自分が大会に出たら兄の顔に泥を塗るかもしれない…自分がその大会で負ければ兄の地位が危なくなってしまうと思い…逃げるようにして大会を出なかった。それが自分と、兄を守ることなのだと…思い込んでいた。
実際村にいて幸せだったし、楽しかったのも事実…だがこの話をミナに話してすっきりしたのか、溜まっていた思いを吐き出すように涙があふれてしまっていた。何度も…何度も…逃げて、逃げ続けてそれを繰り返していくうちに罪悪感で押しつぶされるようになっていたから…。
ミナはカイの頬に手を添え、カイはその添えられている手に顔を預けるように涙を流す。
しばらく時間が経ち、カイの涙も止まっていた。その時の心情はカイでも驚くほどに穏やかで…今までうちに秘めていた罪悪感や自分に対しての嫌悪感がなくなっていたのがわかる。
そして…ミナは優しい声でカイに話しかける。
「…落ち着いた?」
「あぁ…すげぇ落ち着いた。ありがとうミナ」
「ふふっ、私は何もしてないよ」
優しい笑み、優しい声でそういうミナに、覚悟を決めたようにカイは境界線を眺めながら…
「俺、大会に出るよ」
「うん…いいと思う」
言葉を交わし…二人は手をつなぎながらその境界線を眺めていた。
◇
大会当日になり、ミナとカイ、村人の数人でボートに乗って街へと向かっていた。
「まさかカイもミナも出るなんてなぁ」
「ほんと、びっくりしたぜ」
ボートに乗りながら村人たちがカイとミナに話しかける。ミナは緊張のせいか、ずっと海を眺めていただけだったが、カイはそのミナの様子を見て話しかけるということはしなかった。緊張のし過ぎは都区内が、ある程度緊張するというのはいい事だと知っていたから。だがカイは別に緊張した様子もなく、話しかけてきた村人にいつも通り接していた。
「まぁ運試しってやつですよ」
「ハッハッハ運か…確かにこれで一回戦負けしたら出なくていいってわかるもんな!」
他意はないと分かり切っているのか、はたまた変に反応したら面倒になるからなのか、カイはあたりさわりのないことを言ってその会話を終わらせる。
(運試し…まぁ間違ってはないんだよな)
これでダメなら本当に金輪際村からは出ないつもりだし、本当に物は試しという意味も込めて大会に出ると決めた…がその場所には当然カイの兄もいる。物心がつく前から兄とは別れているが、エントリーした名前が同じとなれば兄も気づくはずだ。でも不思議と…変な緊張はしていない。
今回の大会はそれぞれ武器や魔法などを使ってトーナメント形式で戦うというものだ。二人はそれなりに魔法は使えるし、戦える…と思っているが、村人たちはそれをわかっていたから毎年出ないかと誘っていた。
(つっても本気で魔法を使った事ねぇから通用するかわかんねぇけど)
心の中で独り言ちながら見えてきた街の方を見るカイ。だがやはり…そういう大会となると女の子であるミナの事は多少心配になるわけで…
「大丈夫か?ミナ…」
「大丈夫…って言ったら嘘になるけど、どっちかというと怖い…かな」
「…そうか」
毎年Lv1の対戦相手はものすんごく各上か同じぐらいになるように設定されているらしい。カイもミナも同じLv1なので当てはまることなのだが、カイは自分の心配をするのではなくミナが同じくらいの人間と当たるようにと祈っていた。
ミナもそこそこ魔法を使える方だと思うのだが、他のレベルの人たちが使った所を見たことがないので何とも言えない。カイは村で一番の切れ者と言われていたがそれも役に立つかわからない。それほどの大会なのだから。Lv1がLv1000と戦う可能性もある。もしそうなれば当たり前のようにLv1が敗北する。チワワがライオンに挑むと同義だ。
「お、もう街か!」
一人の村人がそう言い、船場につきミナとカイも乗っていたボートから地に足をつける。その隣でものすごくでかい船や海賊船のようなものが目に入り、やはり上級貴族は違うなと肩を竦める二人。
「ひとまず…エントリーしに行くか」
「そうだね」
◇
「受け付けはこちらとなっておりま~す!」
ものすごく長い行列の最後尾にミナとカイは並ぶ。毎年一回しかない大会だから当然の事なのだが…その行列を見てミナは少したじろぐ。
「ほんとにすごい行列だね…」
「まぁな~…あんまきょろきょろすんなよ、ほれ、こっちかい」
カイはさりげなくミナの肩に触れ、ここから離れるなよと言いながら寄せる。ミナは顔を赤らめて恥ずかしそうにしながら地面に視線を向ける。
(は…恥ずかしい…)
心の中で呟くミナだが当の本人は真剣な顔で前を向いていた。思わずかっこいいと出そうになっていたがそれを飲み込み、その顔をじっと見つめるミナ。
「俺の顔に何かついてんのか?」
「あ、いや…なんでもない」
思わず視線をそらしてしまうミナだがカイは不思議そうな顔をしながら首を傾げるだけだった。
(なんで意識しんないのよ!)
…とそんなことを思ったのもつかの間。
「カップルで大会参加とはおもしれねぇな」
後ろで並んでいる男性に話しかけられ、ミナはとっさに肩を縮める。優しく肩を寄せていたカイだったが少しだけその手に力が入ったのをミナは感じ取る。
「カップルじゃねぇよ…お前らと話してる時間はねぇから」
カイは振り向きながら絡んできた男に向かって言い放つが、男はケッと言いながらいやみったらしく語った。
「見た所お前らLv1~10だろ、俺はLv150だから口の利き方には気を付けた方がいいぜ?」
にやりと笑みを浮かべながら男はカイに話すが、カイはそれに怯む様子はなく…
「あんま変わんねぇじゃん」
…と男に一蹴し、並んでいた人間たちがカイの方に視線を集めるとにやにやと笑う。それはまるでバカにするかのような…ミナも何度も何度も味わった事のあるあの感覚。また罵詈雑言を浴びせられると肩を震わせていたが…カイはその周りを見渡し、事実を述べるように語る。
「いつもなら無視するが…今回は違う。言いたいことがあるのならこの大会を通していいに来い」
ミナも周りの参加者も…その言葉に思わず目を見開いてしまっていた。カイのその姿はまるで王子様のような…本心なのだろうと分かっていながらも、ミナを守るような言葉でもあった。だからこそ…ミナは驚き思わずかっこいいと口を漏らしてしまう。だがその言葉はカイに届くことはなかった。なぜなら…カイがそう言うや否や、周りの参加者は大きな笑い声をあげていたからだ。
(我ながらださいな)
先ほど言ったことに恥じらいを覚えつつも、エントリーの順番が回ってきた。
「それではこちらに名前と、現在のレベルを書いて下さい」
受付の人はそう言って一枚の紙を出す。隣にあるペンを手に持ちカイは書き進めていく。
レベルを書き…名前を書き始める。カイ・レイナブル・スターのスターを書こうとしたところで一瞬手が止まってしまう。だが嘘を書けば一発アウトなので止めていた手を動かし最後まで書く。
「ありがとうございます…ってあなた…」
受付の人はカイの書いた名前を見たのか少し驚いた様子でこちらを見つめてきていた。カイはそのような反応をされると分かっていたので頭を掻きながら視線を逸らす。
「すみません…ではこちらが入場になりますのでトーナメントが発表されるまでお待ちください」
手で示される方に視線を向けて足を運ぶ。カイは足を運びながらも振り返り、じっと見つめていたミナを見つめ、互いに言葉を交わすのではなく「また後で会おう」という視線を交わすだけ交わし、カイは前を向きその入り口をくぐった。
◇
トーナメントが発表され、待合室のような場所でカイは椅子に座っていた。
(まさか一回戦の相手がこいつとはな…)
しかもトーナメントの最初の試合がカイの試合。カイは溜め息をつきながら視線を対戦相手の方に向けると…
「お前のお望み通り、言いに来てやったぜ?」
ガハハと笑いながら近づいてくる男…そいつは先程カップルかと茶化してきた奴だったのだ。カイは内心後ろに並んでいたやつと戦うことなんてあるのか?と考えつつも反論という反論はしなかった。
「お手柔らかにど~ぞ」
手をプラプラとさせながらそっぽを向く。その反応が癪に障ったのか、男はカイに近づき胸ぐらを掴む。
「覚えておけよ、お前をボコボコにしてさっきの言葉を見ている奴らに聞かせてやる」
いつもなら笑いながら誤魔化していただろう。でも今は違う。ミナに話し決心もついた…だからこそ、カイは誤魔化すわけでもなく、睨んでいる男を睨み返し…
「そんじゃお前が負けたらLv1に負けた雑魚って言わせてやるよ」
ッハ!と言いながら男は掴んでいた胸ぐらを話す。男の容姿は見るからに斧を振りかざしてくる大男。上半身は裸で下半身はぱっつぱつのパンツを履いているだけ。カイは何も持たずに戦おうとしているのも相まってものすごく小柄に見える。男は並べられている椅子…カイが座ってる反対方向に腰を掛ける。
(俺も何かもの持って戦った方がいいのかな)
そんなようなことを考え、すぐにやめようと思いなおす。
(慣れてないもの使ったらかえって調子狂うだけだろうしな)
心でそう呟きふと窓の方に視線を向ける。カイの視界に映る光景は、一人の人物が囲まれ、慕われ、敬われている姿だった。それはもう言わずもがな、カイの兄『ミョウ・レイナブル・スター』本人であることは明らかだった。ミナとも話していたが兄に逃げるように…大会から逃げるようにしていたカイだったが、今のカイは罪悪感や嫌悪感はなくなっている。なのでその兄を見ても何も思わなかった。
ただ一つ気になることがあるとすればやはり…
(俺と会ったらどんな反応すんのかね)
という思いだけが、カイの中に浮かび上がった疑問だった。
「それでは第一回戦第一試合を始めますので、選手のお二人はついてきてください」
後ろの方で聞き覚えのある声が聞こえ咄嗟に振り返る。その人物は…先程受付していた人だった。
受付の人がそう告げると…カイと大男は立ち上がりその後ろについていった。
◇
薄暗い一本の長い通路を歩き、段々と光が強くなっていく。右手で顔を覆い次に目を開けると…
煉瓦で作られた広い楕円上の上に立っていた。それはもう見るからにスタジアムといった感じのステージ。見上げれば観客が雄たけびのようなものをあげている。そして今…この瞬間に自分が立っている状況を理解する。
(毎年みんなこんな中戦ってんのか、すげぇな)
拳をぎゅっと握りながらミナを探すようにあたりを見渡す。参加している参加者も観客席に座っているのでその数は計り知れないほどの人数が座っていた。ぐるーっと視線が一周しようとしていた所で座っているミナと目が合う。
「(頑張って…カイくん)」
両手を胸の前で握りながら呟くミナ。なんて言ってるのか聞こえなかったが、カイはゆっくりと頷く。
「見ていてくれ…ミナ」
その言葉に反応するかのように、大男は口を開く。
「熱いねぇ~…まぁ数分後にはお前のだっせぇ姿が世に出るからあの女の反応が楽しみだぜ!」
斧をぶんぶんと振り回しながら笑う大男を見てカイは余裕の笑みを浮かべる。
「俺も楽しみになってきたわ」
ニィッと笑みを浮かべ、頬に汗が垂れる。そしてその次の瞬間には…審判が試合開始の合図を鳴らし、それと同時に観客は叫び、男はカイの元へと一目散に接近する。
(なるほどね、試合の説明はねぇのか…まぁ毎年開かれてるから当然か)
この大会の主なルールは殺し以外は何でもあり…というものだ。どちらかが戦闘不能になるまで戦い続けるか、どちらかが負けを宣言するかでその勝敗は決まる。
目の前まで接近してきていた大男が斧を振りかざし、カイはその場から足を動かさずひょいっとその攻撃を軽く避ける。
「なっ!?…てめぇ…」
軽々避けるカイの様子を見て男は思わず驚いてしまう。カイは手をひょいひょいと煽るようにし、口を開く。
「言いたい事あるんだろ?言えよ、今なら聞いてやる」
「…くっ…クソが!」
(見るからにわかりやすいな)
そう煽るや否や男は斧を勢いよく何度も振りかざしながらにやりとした表情で語る。
「お前らみたいな雑魚はな、大会に出なくていいんだよ!せっかくでないっていう選択もあるのに、愚かだぜ」
そう言いながら斧を振りかざすが全く当たる様子はない。カイは余裕な表情を浮かべながら攻撃を避けていたが急にギロッと男を睨みながら…
「もう話は終わりか?」
「…っ!?」
次の瞬間、鈍い音がステージで鳴り響き男は腹部を押えながら地面に倒れ込む。戦う時には当然Lvもそのステージ上で反映される訳なのでこの今の状況を見て観客の人達は黙り込んでしまった。
「嘘だろ?」
「あいつ何者だ!?」
ザワザワと話し始める観客達だったがこの状況を理解したのか「うぉぉぉぉおおおおお!」という声が会場全体を包んだ。魔法も使わずただの素手で自分の何倍もある体格の男をノックアウトしたのだから当然の反応だ。カイはその分かりやすい会場の歓声に気持ち悪さを覚えながら倒れ込んでいる男にゆっくりと近づく。
「んで?まだやるか?」
「…ヒッ…」
「その様子じゃぁもう戦えねぇな、こっちとしては敗北宣言してくれたら有難いんだけど…」
頭をポリポリと掻きながら近づいてくるカイを見て男はふらつきながら立ち上がる。
「敗北宣言なんてぜってぇしねぇ…!」
息があがりながらも斧をふりかざす大男。振りかざされた斧を避けるのではなく掌で受け止める。
ガキィィィンという音が鳴り響くと共に振りかざしていた斧が割れて地面へと落ちる。カイの表情は変わる様子がなく、普通の表情…だけど男からしたら睨みつけられているかのような表情で口を開く。
「まだやるか?」
「舐めんじゃねぇ…!!」
斧が壊れたら素手で殴ればいいという安直な考えをしている男に溜息をつきながら、カイは男の顔面を思いっきり殴った。
バタッと倒れ込む男を見て審判は目を見開きながらも戦闘不能とみなし、観客たちに告げるように声を上げる。
「第1回戦1試合目の勝者はカイ・レイナブル・スター!」
(魔法で強化した拳だけで勝つって、なんか不思議な気持ちだな)
一応勝ったので右腕を上げて勝者らしく振る舞うカイ。会場の人間は歓声をあげながら…
「あいつがミョウさんの弟!?」
「今までなんで大会でてなかったんだ?」
「これは今大会のダークホース間違いなしだな!」
…と、観客たちの声がカイの耳に届く。
(はぁ…結局こうなるよな、まぁ分かってたことだけどさ)
そう心の中で呟きながらそのステージを後にし、薄暗い通路に足を運ぶ。そして前方から1人の見知った少女が駆けつけてくる様子を目にしてカイは手を上げる。
「よっ、ひとまず勝ってきたわ」
「カイくん強い!やっぱ強いよカイくん!」
「まぁLv150程度は余裕ってことがわかったからミナも大丈夫だと思うぞ」
「うん!なんだか私もできる気がしてきた!」
ミナと会話を交わしていると横から色々な視線が飛んできているのが分かったカイはとりあえずこの場所を離れようとミナにいい待合室に足を運ぶ。
◇
次々と試合は行われ、ミナもカイも順調に駒を進めていた。
第3試合が終わり、カイはステージを離れて薄暗い通路を歩いていると…横の壁に背をつけ腕を組んでいる一人の人物がカイの視界に入る。その人物はここ数年間ずっと優勝をしているミョウ・レイナブル・スター…カイの実の兄の姿がそこにはあった。
思わずカイは足を止める。何を話したらいいのか分からない…何を言われるのかも…。
そしてミョウはもたれかかっていた背をどかし、カイの前へとゆっくりと近づく。目の前まで近づいてきた兄を前にし戸惑いを見せながらもそれを押し殺し、向き合うように視線を兄の顔に向ける。カイの赤い瞳に映る兄の姿は自分そっくりで…白い髪の毛に紫色の瞳をしていた。
「久しぶりだな」
「兄さんこそ…10年振りか?」
「そうだな。何故今まで大会に出なかった?」
「…それは…」
聞かれるとわかっていた。それ用の答えも用意していたのに…言葉は出てこなかった。兄の表情は怒っているわけでも悲しそうにしている訳でもない。ただ自分の弟を見るような普通の表情を見て…カイは少しだけ疑問に思ってしまった。「何故、怒ったりしないのだろう…」だがその弟の考えをわかったかのような見透かした顔をして、ミョウは語る。
「お前がこの大会に出るのを待っていた。お前は弱くなんかなかったんだ最初から。だがこの世界では兄弟がいたらその兄が家を継ぐ決まりとなっている。だから物心つく前からお前はLv1の村に飛ばされた。」
「…そう…か」
分かっていた。物心ついてこの世界のルールを知った時…何となくそうなんじゃないかと分かっていた。弱いとか強いとか関係なしに兄弟が生まれた時点で弟は負け組なんだって…分かってた。だからこそカイは兄がどんな顔をして見下すのだろうと思っていた。だが実際は違った。カイを心配するミョウの姿を目の当たりにして、なんて言ったらいいのか分からなかった。
何度も口を開けては閉じてを繰り返し、肩をすくめるカイ。そしてその喉奥から発した言葉は…自分でも驚いてしまっていた。
「俺はずっと幸せだったよ…Lv1とか関係ない。村の人たちと楽しく暮らせればそれでいいと思ってたんだ。」
口を開けばスラスラと出る。さっきまでなんて言おうか悩み、何度も言いかけていたのに。気がつけばその口は止まらなかった。
「でもさ、友達が出ようって言って…俺も出てみようと思ったんだ。大会優勝者の兄さんの弟がLv1だなんてみんなが知ったら俺だけじゃなくて兄さんまでもが馬鹿にされるかもって思った。でも──」
「よかったよ。優しいカイのままでいてくれて」
「…え?」
気がつけば兄は優しい笑みを浮かべていた。兄は弟の肩に手を添えながら続ける。
「昔と変わらないんだね」
カイは昔の懐かしさを思い出したのか…肩をプルプルと震わせながら涙を堪えていた。そして…兄はその弟の顔を見ながら…
「これからは一緒に、魔王を倒そう」
「…は?」
話が何個も飛んでいるその言葉に、頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになった。泣きそうな涙なんて引っ込んだよ?ビックリするくらいにスーッと。急に魔王を倒そう?何を言ってるんだこの兄貴はと…咄嗟に思った。だがそれに追い打ちをかけるように兄は言う。
「ちなみに強制だから♪」
ニコッと笑いながら告げる兄を見てカイは…
「一から全部わかるように説明してくれよぉぉぉぉおおおおお!」
会場にも聞こえそうなほどの奇声をあげ…頭を抱えるカイであった。