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ミカヅキジンチョウゲ9

小細工に過ぎないが、手続きとか本を売りに行くという口実を経て外に出た。本題はユカとやりとりをするということである。自分の策をすべて紙に記して切手を貼り投函。自宅のそばの郵便局では、すぐにバレるので少しばかり遠出する必要があった。

「……」

 出発の日がやってきた。といっても一日繰り上げて偽りの出発。別に親にわざわざ従う必要もない。最寄り駅とは少し離れたところにある駅から電車を乗り換えて、空港へいく急行へ乗り込んだ。こことあともう一駅に止まれば、ターミナルの直下まではドアが開かない。スーツケースを持った乗客が多い。ただでさえ大荷物で面積が狭いというのに。空港利用者以外の客人が使っているからだろうか。そんなことは盟に知ることはできない。

 もう一つの停車駅を発車してしまえば次にドアが開くのは空港だ。出発便によってターミナルが変わるのだが彼の場合は終着駅。

「お兄ちゃん」

 聞きなれた声。思いがけない形でユカと再会した。近くの駅ではない。彼女の学校の反対側にあたる駅。連絡を取った。盗聴器を仕掛けられているかもしれない。誰かに見られていたらアウト。その状況下でユカとやり取りをしていた。

「見送り、なわけないか」

「だってお兄ちゃんがいつ出発するか分からなかったし

「じゃあなんで、ここに」

「その、いつも乗ってる電車が事故で動かなくて」

 彼女によれば。迂回ルートを使うべく移動したが、慣れない方法だったのでどこに育いのか分からなくなったという。人が多くて混乱して目の前に来た電車に乗ってしまい降りるタイミングを見失って今に至るということだった。

「学校に連絡は?」

「おかーさんにはちゃんと言ってあるよ」

 メッセージの通知画面を表示した。そこには学校に連絡をする旨が返信されていた。そのあとには安否を確認するメッセージがひっきりなしに届き、それに対応するユカの返事が逐一出されている。

「律儀だね」

「誰かさんのせいだよ。誰かさんのおにーちゃん」

「ごめんて」

 座らせようとしたが、ユカが断ったたためそのままだった。そして空港へ到着して一斉に、乗客が降りてスーツケースを引っ張り、ターミナルへと吸い込まれていく。盟も本来であればそれに続くところだったが、ユカの乗り越し精算に関する手続きをしなくてはいけない。理由をきっちり説明させたのではあるが、半信半疑な気もする。それも当たり前な話。平日のこの時間で、ここまで来てしまったのだから。が、大規模な遅延に巻き込まれたのは事実なので、納得してもらい手続きは終えた。

「でも、次の電車30分後なんだってね」

「合間にいろいろ走ってるから間隔空くんだ」

 直通でユカの学校に乗り換えが少ない方法でたどり着く電車を選んだらそうなってしまった。一応学校へは連絡が入っている。

「時間まで見送りしてあげるからね」

「嬉しいことだね」

 搭乗ロビーにあるベンチに腰かけた。先に手荷物カウンターで荷物を預けてしまう。彼が乗る便はユカの出発よりずっと後。搭乗口に入るまではまだ余裕がある。それだけユカと一緒にいられる時間が彼に与えられた。

「髪、切ったんだ」

「目立つしね」

 盟の長い金色の髪は肩くらいまでの長さだった。三つ編みにできるくらい長くはない。断髪で落とした。

「長いほうが好き」

「そのうち伸びると思う」

「でも出会った時はそれくらいだったかも」

 あの日。彼女と出会った日のこと。奇しくも同じ髪型になっていた。違うのはユカは大人びたし、盟は居場所を失った。そしてユカを伴わせている。

「盟くん、寂しい?」

「当たり前じゃん。自分のせいだけどさ」

「じゃあ、盟くんのこと忘れなかったら会いに行ってあげる」

「言ったね。本気にするよ」

 現時点で打てる手はすべて打った。後は彼女がどう動くかである。意思を信じることしかできない。もう一度会いたいと思ってもらえるか。

「じゃあね、そろそろ行くよ」

「うん、まっすぐ帰るんだよ」

 盟とユカの別れ。少年は国を離れ少女は日常へ戻る。地下にあるホームへ続くエスカレーターで手を振る姿が見えなくなった後。盟は出国手続きを含むゲートへ向かった。

 その目から一瞬光が顔を伝ったことを知る者はいない。

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